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 玩具用の小さな磁石を幼児が飲み込んで消化管に穴があいた事故の報道がありました。

 磁石の直径は3~5ミリ程度と言いますから、磁石を一つだけ誤飲してもそのまま消化管を素通りして便と一緒に排出され、何も起こらないでしょう。しかし複数個を飲み込みこんでしまうと、磁石なので胃壁や腸管をはさむようにくっついてしまうことがあります。そうなると圧迫された組織が虚血、壊死に陥り穴があきます。

 玩具ではないですが、皮膚に貼り付けて血流を改善させ肩こりなどをほぐすとされる磁気治療器を幼児が誤飲した同様の事例が複数報告されています。2歳前後の幼児に腹膜炎やイレウス(腸閉塞)を引き起こし、嘔吐や腹痛といった症状を呈し、手術が必要になります。貼付用磁気治療器は正しく使えば安全ですが、小さい子供がいる家庭ではきちんと管理してください。

 注意が必要な磁石ですが、治療への意外な応用例もあります。山内栄五郎先生が開発した「磁石圧迫吻合(ふんごう)術」は、腸管同士、あるいは、腸管と胆管に永久磁石を置いておくことで管と管をつなぐ治療法です。管と管をつなぐ(=吻合する)には、普通は開腹して糸で縫わなくてはいけませんが、磁石圧迫吻合術だと麻酔や開腹手術の必要がありません。

 「磁石圧迫吻合術による腸管・胆道閉塞の治療:山内法の開発と臨床評価」(J Nippon Med Sch 2002; 69(5))という論文に載っていた図をもとに仕組みを示します。

 胃の出口が狭くなっている患者さんの胃と腸をはさむように磁石を置いておくと、磁石にはさまれた部分に穴が開き磁石は自然に脱落します。脱落した磁石はそのまま排泄されます。幼児の誤飲の場合にはどこに穴があくのかわからないがゆえに危険ですが、意図的に穴をあける場所をコントロールできれば有用です。

 山内先生が磁石圧迫吻合術を思いつくきっかけが、まさしく貼付用磁気治療器による小児の腸閉塞症例において、磁石によって腸管に吻合ができていたという観察からだそうです。鋭い観察力、素晴らしいひらめき、臨床応用する実行力のいずれが欠けても磁石圧迫吻合は開発できなかったでしょう。

 日々の臨床の中にも将来の患者さんの助けになるヒントがあることを胸に刻み、私も日常診療にあたりたいと思います。

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アピタル・酒井健司

アピタル・酒井健司(さかい・けんじ) 内科医

1971年、福岡県生まれ。1996年九州大学医学部卒。九州大学第一内科入局。福岡市内の一般病院に内科医として勤務。趣味は読書と釣り。医療は奥が深いです。教科書や医学雑誌には、ちょっとした患者さんの疑問や不満などは書いていません。どうか教えてください。みなさんと一緒に考えるのが、このコラムの狙いです。

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