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 医療機関のインターネットでの広告が規制されるそうです。「医療機関、ウェブにも広告規制 患者の体験談も禁止へ」(https://www.asahi.com/articles/ASL4L5HD1L4LULBJ00V.html

 このうち「虚偽の内容は罰則つきで禁止」というのはよくわかります。しかし「患者の体験談も原則禁止」となるのはなぜでしょうか。記事によれば、誤認を与える恐れがあるからだとされています。

 インターネットの広告に限らず、医療行為にさまざまな規制がかかっている理由の一つに、患者さんにとって医療の質を正確に評価するのは難しい、ということがあります。

 たとえば、普通のかぜの患者さんが受診したとしましょう。標準的な医師であれば、適切な問診と診察だけで正しく診断でき、必要十分な薬のみを処方します。

 一方で、ヤブ医者が「肺炎の疑いがある」といって胸部CTを撮影し抗菌薬を処方したとして、不必要な検査や処方を受けたことに患者さんは気づけるでしょうか。普通の風邪なのでほとんどの場合は抗菌薬を飲もうと飲むまいと治ってしまいますが、「肺炎だったのが抗菌薬のおかげで治った」と誤認してしまうこともあるでしょう。精密な検査を受けて薬をたくさん出してもらったことで、満足度が高くなる患者さんすらいるかもしれません。

 風邪ではなく、がんの治療だったらどうでしょう。高額な自費診療のがん治療の多くは、十分な根拠(エビデンス)がありません。治療を受けて1年間で亡くなったとして、治療のおかげで少しは長生きできたのか、それとも治療を受けなくても1年間で亡くなったのか、患者さんにはわかりません。

 これは実は医師もわかりません。治療を受けた群と受けなかった群で生存期間に差があるかどうかを検証する臨床試験を行わないとわからないのです。

 標準的な医師が保険診療の範囲内で行う治療は臨床試験で有用性が確認されていますが、すべての患者さんに効果があるとは限りません。適切な治療を受けても結果が思わしくなく、患者さんが「効果がなかった。質の悪い治療を受けた」と誤認することもあるでしょう。患者さんの体験談から医療の質を評価するのは難しいのです。

 とはいえ、患者さんの体験談がまったくの無価値というわけではありません。たとえば、医師の説明がわかりやすいかどうか、というのは患者さんの主観で判断できます。他にも、看護師によるケアは丁寧か、入院中の食事が美味しいか、トイレの掃除が行き届いているかなどなど、医療機関を選ぶときに有用な情報が患者さんの体験談から得られます。捏造の有無など注意すべき点がありますから、広告として使うのは難しいですが、体験談は貴重な情報になりうると考えます。

《酒井健司さんの連載が本になりました》

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<アピタル:内科医・酒井健司の医心電信・その他>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/sakai/(アピタル・酒井健司)

アピタル・酒井健司

アピタル・酒井健司(さかい・けんじ) 内科医

1971年、福岡県生まれ。1996年九州大学医学部卒。九州大学第一内科入局。福岡市内の一般病院に内科医として勤務。趣味は読書と釣り。医療は奥が深いです。教科書や医学雑誌には、ちょっとした患者さんの疑問や不満などは書いていません。どうか教えてください。みなさんと一緒に考えるのが、このコラムの狙いです。

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