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 「コレステロールが気になる方に」「血圧が高めの方に」

 食品にこのような機能性(有効性・効き目)を表示することは、国の制度で認められていますが、筆者は「トクホ(特定保健用食品)って本当に効くんですか?」という質問を受けることがたびたびあります。「国の制度なのだから効くに違いない」と考える人がいるかもしれませんが、注意点もあるのです。今回は、食品の効き目を表示するために必要なルールや裏付け(科学的根拠)を解説します。

 

◯×クイズ: トクホは、本当に効くのか?
(※答えは、本文中にあります)

▼トクホや機能性表示食品の機能性を立証するためにはランダム化比較試験が必要

▼ランダム化比較試験の結果は、最も信頼性が高い情報

▼トクホや機能性表示食品の効果は「万能薬」ではない

 食品に機能性を表示できる国の制度を「保健機能食品制度」といいます。特定保健用食品(トクホ)や機能性表示食品などがあります。

 前回の記事では、食品の有効性・効き目を裏付けるための科学的根拠(エビデンス)として、「経験談・体験談」「権威者の意見」「実験室の研究結果」は情報としての信頼性を低く見積もる必要があることを解説しました。

●健康食品「体験談」を信じていいの? 広告の落とし穴(https://www.asahi.com/articles/SDI201804227317.html

 では、トクホや機能性表示食品には、どのような科学的根拠が求められているのでしょうか。科学的根拠は、それがどのような研究デザイン(方法)で導き出されたものかによって、情報としての信頼性が高いものと低いものとに分類されます。

 

写真・図版

 実は、特定保健用食品(トクホ)や機能性表示食品は「ランダム化比較試験(Randomized Controlled Trial:RCT)」によって効果が立証されていなければ機能性の表示ができません(※1)。これは、医薬品の効果を立証する研究デザインと同じです。

 「ランダム化比較試験」という言葉を初めて聞いたという人が多いと思います。

 今回は、このランダム化比較試験について紹介するとともに、ランダム化比較試験の結果が示す本当の意味について考えてみたいと思います。

「ランダム化比較試験」って、どんなもの?

 ランダム化比較試験とは、対象者をランダムに2つのグループに分けて、一方には評価しようとしている治療、もう片方には異なる治療を行い、一定期間後に評価しようとしている指標について比較検討する臨床試験の方法です。

 トクホの場合は、販売しようとしている製品を摂取する「介入群」、関与する成分が含まれていない製品(プラセボ)を摂取する「対照群」に分けます。

 中性脂肪を評価する指標にした場合、次に示す図のようになります。

 

写真・図版

 ランダム化比較試験では、対象者をランダムに振り分けるため、臨床試験を実施する立場の研究者の作為が入り込む余地がなくなります。そのため「無作為化比較試験」と呼ばれることもあります。

 このランダム化(無作為化)は、臨床試験の結果に偏り(バイアス)が生じることを防ぐ役割があります。裏を返せば、ランダム化がおこなわれていない臨床試験は研究者の作為が入り込む可能性があるわけです(注意:あくまで可能性があることを指摘しているだけで、ランダム化がおこなわれていない臨床試験の全てで、研究者の作為が入り込んでいるということを言いたいわけではありません)。

 例えば研究者が、臨床試験の対象者を、介入群には健康に対する意識が高く積極的に臨床試験に協力してくれそうな人を割り振り、対照群には健康に対する意識が低く臨床試験への参加も消極的な人を割り振ったらどうでしょうか。

 その臨床試験の結果(トクホの効果)は過大に評価されてしまう可能性が出てきます。これが、データの偏り(バイアス)にもつながり、情報としての信頼性にも影響してくるわけです。

 また、「プラセボ」を使った比較を行うことも重要なポイントです。

 有効成分が含まれていないのに、「効き目のある薬を服用している」と本人が思い込むことによって症状が改善することを「プラセボ効果」と言います。これは、トクホの臨床試験など食品においても同様のことが起こります。プラセボを比較対照群にすることで、プラセボ効果を差し引いた、トクホの純粋な効果を検証することができるのです。

 このように、「ランダム化」「プラセボ」などによって、トクホの効果は厳格に評価されているわけです。

「ランダム化比較試験」の結果を深読みする

 では、ランダム化比較試験によって効果が立証されたら、トクホや機能性表示食品は「効く」と言って問題ないのでしょうか。結論から言えば問題ありません。しかし、ひと言で「効く」といっても、その解釈には注意が必要です。

 トクホや機能性表示食品の効果を検証したランダム化比較試験の結果について、具体的にグラフにしたものがこちらです(特定の製品のデータではなく、筆者が作成したものです)。

 

写真・図版

 トクホを毎日摂取すると、プラセボに比べて4週間後に大きく中性脂肪値が下がっているようにみえます。

 このグラフを読み解く上でのポイントを整理してみます。

 医療情報を整理する時によく使われる手法「PICO(ピコ)」を紹介しましょう。PICOとは「P(Participants:誰に)」「I(Intervention:何をすると)」「C(Comparison:何と比較して)」「O(Outcome:どうなるか)」のことです。この4項目が自分に当てはまるか検討します。

 PICOは、機能性表示食品制度において届け出の資料に記載しなければならない項目です。

 

写真・図版

 まず大前提として、トクホや機能性表示食品は病気の人を対象にしていません。「誰」というのは、今回ならば「中性脂肪値が少し高めの人(血中中性脂肪120~199mg/dL)」になります。つまり、病気の治療に用いる医薬品ではないのです。

 また、この試験の結果は、「同じ条件の対象者が、同じ条件で試験食品を利用した時、同じ結果が得られる可能性がある」ことを意味します。

 示された効果を得るためには、臨床試験と同じように毎日決められた量を決められた期間摂取する必要があります。大量に摂取すれば効果が大きくなる、または一回摂取すれば効果が得られる、という効果が証明されたわけではありません。試験と異なる条件でトクホや機能性表示食品を利用した場合、同じ効果が得られるかどうかは分からないのです。

 また、得られる効果は比較的小さい点も知っておく必要があります。医薬品のような大きな効果はないのです。

 さらに忘れてはならないのは、参加した全員が同じ効果を得られるわけではなく個人差がある点です。前述のグラフは臨床試験に参加した人の平均値なので、効果が全く得られなかった人もいるかもしれません。

 つまり、トクホや機能性表示食品は「限られた条件の人が、臨床試験と同じ方法で利用したときに、比較的おだやかな効果を得られる可能性がある」ということになります。

 残念ながら、健康食品は暴飲暴食をなかったことにしてくれたり、瞬く間にスリムな体にしてくれたりするような魔法の杖でないことはぜひ覚えておいてください。

 冒頭のクイズの答えは「◯」ですが、次のように理解しておきましょう。

クイズの答え:トクホは効くけれども、効果は限定的

 

(※1)機能性表示食品のうち、生鮮食品と加工食品の場合、症例・対照研究やコホート研究のデータが機能性を表示するための科学的根拠として用いることもできます。ですが、この連載では、カプセル・錠剤・粉末などの形状をした食品を主にとりあげているので、ランダム化比較試験のみに焦点をあてて解説をしています。

 

<アピタル:これって効きますか?・健康食品、どう向き合う?>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/kiku(アピタル・大野智)

アピタル・大野智

アピタル・大野智(おおの・さとし) 島根大学・教授

島根大学医学部附属病院臨床研究センター・教授。1971年浜松市生まれ。98年島根医科大学(現・島根大学医学部)卒。同大学第二外科(消化器外科)入局。補完代替医療や健康食品に詳しく、厚生労働省「『統合医療』情報発信サイト」の作成に取り組むほか、内閣府消費者委員会専門委員(特定保健用食品の審査)も務める。