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 このコラムでは、仕事でミスばかりつづき、友人や恋人との関係もうまくいかず、「生きるのがつらい」と感じている架空の女性・リョウさん(30代前半・独り暮らし)をモデルに、大人のADHDの方がかかえる問題との付き合い方を紹介しています。

 以前のリョウさんは、仕事面では、転職を繰り返し、いつも周囲に評価されない状態が続いていました。しかし、仕事のミスを防ぐために上司に仕事の進め方について確認すること(正確には、確認するのを忘れない対策をとること)で、リョウさんの早合点はずいぶん減りました。また、忘れ物なく決められた時刻までに取引先に到着する方法を用いて、遅刻と忘れ物を減らすことができました。さらには、数日にわたる長期的な計画を要する仕事に対しても、締め切りを過ぎることなく完成させることができるようになりました。

 ▽立ち止まることを忘れてしまう

 http://www.asahi.com/articles/SDI201709264104.html

 ▽でかける前はいつもバタバタ、遅刻や忘れ物をなくすには

 http://www.asahi.com/articles/SDI201801312194.html

 ▽計画倒れに終わらない、計画の立て方

 http://www.asahi.com/articles/SDI201802153051.html

 

 リョウさんのこうした変化に最初に気づいたのは、上司でした。遅刻がない、忘れ物がない、期限までに仕事が仕上がる・・・これらが目に見えるように変化したのですから、上司は心底ほっとしました。

 しかしここには、少し温度差があったようです。

 リョウさんとしては、ここまで日々の努力を重ねてなし得た結果でしたので、上司に評価されたいと思いました。ここまでの努力をねぎらってもらいたかったのです。

 一方、上司としては、「やっと当たり前のことができるようになった」と考えるのみでした。当然のことなのだから、これでもういちいち注意しなくてすむのだ、ほっとした、という考え方です。上司も多数の部下を抱えながら、自分の仕事をこなして、さらに自分の上司にも気を遣う中間管理職。なかなか余裕はないようでした。

 こんな温度差があるため、リョウさんは「がんばったほどは、報われない」という想いを抱いていました。

 

 リョウさんは友人との間でも似たような「報われなさ」を感じていました。

 リョウさんは、マメに連絡をとる方ではなく、以前ならメールが来てもすぐに返信することはありませんでしたが、最近は早めの返信を心がけていました。しかし、だからといって友人の態度が大きく変わったように思えません。ましてや、誰も「最近連絡マメだね」なんて言ってくれません。

 

写真・図版

 私の出会って来たADHDの患者さん達も、ADHDの特性からくる時間管理や整理整頓の問題に向き合って、たくさんの努力をして、大きな変化を遂げられても、それを職場の人、家族、親友、恋人などが認識するまでには、数カ月かかる場合がほとんどでした。そして、それが身近な存在であればあるほど時間がかかるようにみえます。職場の人よりは、家族の方が、案外変化に気づくのが遅いのです。

 これにはいくつか理由が予想されます。

1 身近な人ほどその人の行動のいろんな面を目にする

 職場の仕事の締め切りを守ることはできても、プライベートなこととなるとまるきり気が抜けてしまって、御礼の手紙を出し忘れたり、ゴミの日を逃してしまったり、ということはありませんか。そうです。「仕事しているときの自分」はその人の一部であって、仕事に費やす時間は生活の中の一部分でしかありません。仕事以外の時間を一緒に過ごす夫婦や家族などの身近な人は、気の抜けた部分を目にすることの方が多いので、「変化」を実感しにくいのかもしれません。

2 身近であると緩やかな変化を見逃しやすい

 毎日のように目にする人が太ったか、痩せたか、老けたかなんて、そんなにわからないものです。しかし、1年ぶりにテレビに出た芸能人を見て「あら!めちゃくちゃ老けたな!」と感じることはありませんか。身近で会う頻度の高い人の方が、ちょっとした変化には気づかないものなのです。昨日の延長である今日の家族や同僚、昔からのつきあいのある友人が「ちょっと変化しているのではないか?」なんて、普通は考えながら生活しませんよね。

3 これまでの歴史によって見方が決まる

 身近な家族やつきあいの長い人との間には、職場の人間関係よりも長い歴史があります。親子なら年齢の分だけ、「この子は小さい頃から忘れ物が多かったから」とか「私が朝急かさないと、遅れてしまうんだから」とか、何十年分もの歴史が刻まれています。こうした歴史が長ければ長いほど「あの人はこういうもんなんだ」という見方が固定します。こうして一度固定された見方はなかなか変化しません。そのため、せっかくの変化に関しても、なかなか気づきづらいのかもしれません。

 

 こうした理由から、ADHDを抱えるご本人が、周囲の人からがんばりをねぎらってもらったり、周囲の人が変化を感じ取って態度を軟化させてくれたり、また信頼してくれるようになったり・・・といった関係修復につながるには、予想より時間を要するようです。この点を、本人も周りもちょっとだけ気に留めておくことで、歩み寄ることができることでしょう。

 とはいえ、努力が大きければ大きいほど、それが報われなければ「やってらんない」と失望してしまうのが人間です。

 リョウさんはこうした「変化の後の報われなさ」をどう乗り越えたらいいのでしょう。このお話は次回へと続きます。

 

<お知らせ> ネットでADHDのお悩みを相談できます

 このコラムの筆者の中島が、北九州市にある精神科クリニック「かなめクリニック」にて、今年3月からADHDのオンライン診療を担当することになりました。診断の有無にかかわらず、ADHDの症状でお困りの方を対象に、インターネットを用いて認知行動療法などのカウンセリングを行います。ご家族からの相談も受け付けます。みなさまのご相談をお待ちしております。

 ※要予約・有料で、自費診療となります。すでに医療機関にかかっていて、主治医や担当カウンセラーのいる方は、許可を得た上でお申し込みください。

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<アピタル:上手に悩むとラクになる・生きるのがつらい女性のADHD>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/nayamu/

(アピタル・中島美鈴)

アピタル・中島美鈴

アピタル・中島美鈴(なかしま・みすず) 臨床心理士

1978年生まれ、福岡在住の臨床心理士。専門は認知行動療法。肥前精神医療センター、東京大学大学院総合文化研究科、福岡大学人文学部、福岡県職員相談室などを経て、現在は九州大学大学院人間環境学府にて成人ADHDの集団認知行動療法の研究に携わる。他に、福岡保護観察所、福岡少年院などで薬物依存や性犯罪者の集団認知行動療法のスーパーヴァイザーを務める。