シリーズ:トピック
食べ物のパッケージに「信号機」 イギリスの店頭で
先月、食に関する企画記事の取材で、欧州へ2週間出張しました。ロンドンで泊まったホテルは朝食が付いておらず、部屋にはミニキッチンが。そこで買い出しにスーパーへ向かいました。牛乳、チーズ、ハムとかごに入れているうち、食品のパッケージに、赤や黄、緑の小窓が並ぶ表示があることに気づきました。
英国の栄養成分表示制度の一つで、食品の容器包装の正面(店の売り場に並べた時に消費者が最も見やすい面)に、過剰摂取が心配される栄養素の情報を信号形式で表したもの。以前、食品表示を取材した際に耳にしたことがありましたが、実際に見るのは初めて。これかー。
表示されている栄養素は、脂肪、飽和脂肪酸、糖類、塩。含有量と1日の摂取基準に占める割合(%)の数字と共に、量の多いものは赤、少ないものは緑、中間は黄、と色分けしています。ほかにエネルギー(カロリー)も表示していますが、これには色分けはありません。
気になる栄養素の多寡が一目で伝わってきます。いろいろな商品をチェックしてみました。ソーセージやハムは脂質、飽和脂肪酸、塩に赤や黄色が多く、チョコレートビスケットは脂質、飽和脂肪酸、糖類が赤だ、とか。こうなると全部緑の商品を探したくなり、売り場をうろうろしたあげく、サラダパックのコーナーでやっとみつけました。レタス、トマト、パプリカなどが入った野菜だけの「地中海サラダ」。ただドレッシングなしの商品だったので、食べる時に調味料を何か加えたら栄養価は変わることになるでしょう。
こうして数日、スーパーめぐりをしているうち、段々と商品棚の前で考え込むようになりました。赤や黄色がついている商品に手を伸ばす気が起こらなくなってきたのです。しかし、それではおいしそうだと思うものほど食べられないし、動物性の食品は低・無脂肪タイプに限られてしまう。こだわりすぎかも。この表示、どうやって使いこなせばいいのか、調べてみました。
保健省、食品基準庁などによる、この制度を説明するガイドがありました(※1 文末に参考リンク)。
「赤は食べるな、食べられないという意味ではなく、どの程度の量や頻度でこうした食品を食べているかを意識し、より少なくすると健康な食事の助けになります」
「黄色の食品は食事のバランスをとる助けになります。少し緑のサインがあるものを含めるようにしてみましょう」
「緑は、取りすぎを避けたい栄養素が少ないことを意味します。緑が多いほど、より健康な選択になります。しかし緑に色分けされた食品だけを食べる必要はなく、数点の黄色、赤を含めることでバランスのとれた食事になり、必要で有益な全栄養素を摂取する助けになります」
「店で見る多くの商品が、赤、黄色、緑が入り交じった表示になっているでしょう。似たような二つの商品を選ぶ際に、より緑や黄色が多く、赤が少ない方にしてみましょう」
私は「黄色」から「注意」を連想していたのですが、どうやら黄色はそれほど避けなくてもよいみたいです。そして「どちらか迷った時に、より赤が少ないものを」という助言は納得。傾向をつかんでサクッと選びたい時に真価を発揮しそうです。
この表示は任意で義務づけられてはいませんが、英国の大手スーパーや食品メーカーが導入しています。日本でみるような表形式の栄養成分表示はEU全体で義務表示とされており、すべての加工食品の包装の裏面あるいは側面に掲載されています。
次に行ったベルリンで、ベルリン消費者センターの栄養と食品プロジェクトの責任者、ブリッタ・シャウツさんにインタビューした時、たまたま、この信号表示の話になりました。「何をどれくらい食べているか知るために表示は重要。信号のラベルは一目で分かりやすく、ドイツでも導入して欲しいと私たちは活動していますが、担当の連邦食料・農業省はその意向がありません」
代わりに作っているのがこれです、と差し出されたのが、カード付きのパンフレット。カードの大きさはちょうどクレジットカードぐらいで、脂肪、飽和脂肪酸、糖類、塩の四つの栄養素それぞれ、含有量が何グラムだと赤、黄色、緑になるのか一覧表にしています。「財布にこのカードを入れておき、買い物で商品の栄養成分表示と見比べれば、どの色なのかわかります」とシャウツさん。これは良いアイデア、日本でも作れそう。手がける団体はないかしら。
日本では、2015年4月に施行された食品表示法で、栄養成分表示が義務化されました(ただ、2020年3月末までは猶予期間となっているため、表示していない食品もまだあります)。とはいえ、ある程度栄養に関心がある人でないと、数字だけ見ても選択に役立てられるかどうか。次は信号式の表示を商品フロント面に入れることを考えてもいいのでは? 特に、国民的課題とされている減塩のため食塩相当量だけでも……。
ただ、英国の表示にも誤解を招きやすいと思う点がありました。含有量と1日の摂取基準に占める割合(%)は、1食分の数字なのですが、信号の色分けは、食品100gあたりの含有量に基づいているのです。1食あたりの量が少ないけれど脂質や塩分が高い食品は、実際に食べる量以上に赤や黄色が出やすい傾向になります。例えばチョコレートは100gあたりの脂質は30g以上あって確実に赤信号。ですが、1~2片ならおおむね10g未満で脂質も3gぐらい(緑か黄色に該当)のはず。信号だけ見ていてもまた、思い込みが生まれてしまうと感じました。
<関連リンク>
※1 信号形式の食品成分表示に関するガイド
<アピタル:食のおしゃべり・トピック>
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- 大村美香(おおむら・みか)朝日新聞記者
- 1991年4月朝日新聞社に入り、盛岡、千葉総局を経て96年4月に東京本社学芸部(家庭面担当、現在の生活面にあたる)。組織変更で所属部の名称がその後何回か変わるが、主に食の分野を取材。10年4月から16年4月まで編集委員(食・農担当)。共著に「あした何を食べますか?」(03年・朝日新聞社刊)