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 このコラムでは、仕事でミスばかりつづき、友人や恋人との関係もうまくいかず、「生きるのがつらい」と感じている架空の女性・リョウさん(30代前半・独り暮らし)をモデルに、大人のADHDの方がかかえる問題との付き合い方を紹介しています。

 前回はADHDのご本人が仕事や家庭、対人関係において、懸命に努力して自分の忘れっぽさや、計画性のなさをカバーしようと努力して、変化しても、周囲の上司や同僚や家族や友人たちは、こちらが期待するほどは変化に気づいてくれないこと、気づくには少し時間がかかることをお話しました。

 こうした周囲からの報われなさが積もり積もると、誰だって

「なんだ、私あんなにがんばったのに、無駄じゃん」

という気持ちになるものです。こうした「がっかり」の後には「無気力」が待っています。もうなにもかもバカらしくなって、投げやりな気持ちになってしまうかもしれません。

 こんなときにはどうすればいいのでしょうか。

 

 リョウさんの場合は、こうでした。

 リョウさんの職場での変化はめまぐるしいものでした。遅刻がない、忘れ物がない、期限までに仕事が仕上がる・・・などなど、努力を重ねてきたのです。上司もそのことには気づいていましたが、それを口に出して評価することはありませんでした。前回も触れましたが、上司としては、「やっと当たり前のことができるようになった」とほっとしただけだったのです。

 リョウさんはがっかりしながら、こう考えました。

リョウ 「結局どんなにがんばったって、私は人並みに働くことなんてできないんだ」

 

 また、友人との間でも似たような「報われなさ」を感じていました。早めのメール返信を心がけ始めたリョウさんでしたが、友人の態度が大きく変わったように思えません。こちらから誘わないと食事に行けないし、数名で集まるとなんともいえない「おいていかれた感」でいっぱいになり、みじめな気持ちになるばかりなのです。こういう時にはだいたいリョウさんはこんなふうに考えていました。

リョウ 「ああ、私はどんなに努力しても世間一般の女性が手に入れる幸せまでたどり着く事はできないんだ」

 今日これまで、上司や友人たちの期待に応えるように、精一杯努力してADHDの特性を補ってきたことが無駄だったように思えてくるのです。

 

 さて、みなさんはリョウさんの「考え方」に、独特のクセがあることにお気づきでしょうか。この2つの場面で共通する「考え方」は何だと思いますか?

 実はリョウさんは、「周囲の期待に応えて自分を変化させなければ、幸せにはなれない」という考え方を持っていました。リョウさんの周りの人たち(上司や友人)が、リョウさんの努力の結果に気づかなかったことは、リョウさんの落ち込みの大きな原因ですが、それ以上にリョウさんを苦しめていたのは、自分自身のこうした考えでした。自尊心の低いリョウさんは、これまでのうまくいかない数々のことを「自分がだめだから、うまくいいかなかったのだ」と考えていました。そのため、「自分が変わらなければならないのだ」と思っていたのです。

 絵にしてみると、こんなかんじです。

 

写真・図版

 「実際の自分」と「こうあるべき自分」のギャップが生じているだけでなく、自分の立ち位置が「こうあるべき自分」の方にありました。これが問題なのです。なぜなら、自分が「実際の自分」のそばにいて味方になってくれればよいのに、当の自分までが周囲の側に立って自分に「こう変わりなさい!さもなければ、あなたは幸せになれないぞ!」と脅しをかけているのです。

 

 自分の味方でい続けることは、難しいものです。誰だってうまくいかないことが続くと、自分に愛想が尽きることもあるでしょう。失敗続きの自分にうんざりして、もう何もかも放り出したくなることもあるでしょう。どんなときにも「味方だからね」と自分を優しく見守ることは至難の業です。

 しかし、だからといって、自分が自分の味方でなくなることほど、人を不幸にすることはありません。究極の例を挙げるとすれば、どんなに成功して、金持ちで、世間で尊敬されていて、人気者で、家族に恵まれていたとしても、肝心の自分が自分の事を嫌いで、粗末に扱っているとしたら、その人の人生はコンプレックスの塊でしょう。どんな他人からの褒め言葉も響かず、「お世辞で言ってくれているだけだ」とか「他に褒めるところがないから、そう言っているだけだ」などと解釈してしまい、素直に受け取る事ができないかもしれません。中には「相手には裏があるに違いない」と怪しんでしまうことすらあるかもしれません。

 反対に、どんなに周りに恵まれず、批判にさらされても、自分が自分の味方でいられる時には、批判を聞き流したり、余計に傷ついたりせず現実的に批判に対処できることでしょう。

 このように、自分が自分の味方でいることは、とても大事な事なのです。

 

 自分が自分の味方でいると、さらによいことがあります。

 「実際の自分」の位置から開き直れることです。

 開き直る、というのは、「居直ってなんの努力もしない」ことではありません。「実際の自分」をそのまま「はい、これが私ですね」と認めて、肩の力を抜くかんじです。「実際の自分」の味方になることで、「そっか!私の現状はこうなんだ!」と受け入れることができます。

 「こうあらねばダメじゃないか!」という批判的な考え方の背景には、「私の本当の姿はこんなはずではない!だから変わらなければ」という、自己否認があります。自分を否認していると、「実際の自分」に合った課題がみつからず、いつも無理難題ばかりを自分に課すことになります。その結果、成し遂げられないことも増えるでしょう。ちょうど、最近ピアノを習い始めたばかりの幼い子どもに、「そんな初歩的なドレミしかできないなんて、情けない。そんなのだめだ。ショパンを弾け!」と言って、スパルタな訓練をしているようなものです。

 「実際の自分」に味方してあげれば、「そっか、今はここまで弾けるんだね。それじゃ、次は少しだけ難しくして、この楽譜をやってみようか」と適切な難易度かつ上達できる課題を設定できるのです。

 結果的に上達するのは、「実際の自分」の味方になってあげるアプローチでしょう。現状を無視してはうまくいかないのです。「そっか、自分にはこういうところがあるんだな」と現状の自分を直視して、「もっと自分にマッチした職場や対人関係のもち方をしよう」と考えて行くことが大切です。

 

 自分にうんざりするとき。そんなときこそ「自分の味方」になれるようふんばる時なのです。

 

<お知らせ> ネットでADHDのお悩みを相談できます

 このコラムの筆者の中島が、北九州市にある精神科クリニック「かなめクリニック」にて、今年3月からADHDのオンライン診療を担当することになりました。診断の有無にかかわらず、ADHDの症状でお困りの方を対象に、インターネットを用いて認知行動療法などのカウンセリングを行います。ご家族からの相談も受け付けます。みなさまのご相談をお待ちしております。

 ※要予約・有料で、自費診療となります。すでに医療機関にかかっていて、主治医や担当カウンセラーのいる方は、許可を得た上でお申し込みください。

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<アピタル:上手に悩むとラクになる・生きるのがつらい女性のADHD>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/nayamu/(アピタル・中島美鈴)

アピタル・中島美鈴

アピタル・中島美鈴(なかしま・みすず) 臨床心理士

1978年生まれ、福岡在住の臨床心理士。専門は認知行動療法。肥前精神医療センター、東京大学大学院総合文化研究科、福岡大学人文学部、福岡県職員相談室などを経て、現在は九州大学大学院人間環境学府にて成人ADHDの集団認知行動療法の研究に携わる。他に、福岡保護観察所、福岡少年院などで薬物依存や性犯罪者の集団認知行動療法のスーパーヴァイザーを務める。