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 インフルエンザの治療薬であるタミフルは、異常行動との因果関係が否定できないことからこれまで10歳代の患者さんへの投与は原則として制限されていました。しかし、ようやく使用制限を解除する方針となりました。

 タミフルに限らず、薬はみな未知の副作用があるかもしれないと考えなければなりません。重篤な副作用が疑われる報告が出てきたとき、「この薬の使用を中止すべきだろうか。このまま使い続けると大きな薬害が起きてしまうのでは」「しかし一方でこの薬を使わないと助けられない患者がいるかもしれない」というジレンマが生じます。

 タミフルにはインフルエンザによる発熱の期間が短くなるという利益がありますが、もともと健康な小児がインフルエンザにかかってもほとんどの場合は自然に治りますし、タミフル以外の抗インフルエンザ薬もありました。当時、タミフルによる異常行動のリスクがどの程度か不明であったわけですから、いったん使用を差し控えるのは当時としては妥当な判断でした。全面禁止ではなく「原則として」使用を差し控えるというのもポイントです。基礎疾患があって重症化するおそれのある場合は10歳代であっても医師の裁量でタミフルを使用できました。

 反省する点は、原則禁止としたこと自体ではなく、使用制限の解除が遅れたことと、タミフルの危険性をあおるような報道がなされたことにあったと、私は思います。

 専門家は早くから、タミフルとは無関係にインフルエンザ単独で異常行動が起きることを指摘していました。その後の調査でもタミフルが異常行動を増やすという証拠は得られていません。他の抗インフルエンザ薬があるといっても、吸入薬だったり注射薬だったりして使いにくい点があります。内服薬であるタミフルの使用が制限されると臨床の現場では不便です。いったんは使用を差し控えるという判断は妥当であっても、もうちょっと早く使用制限を解除してもよかったのではないでしょうか。

 報道についても、かなり過熱していたと記憶しています。「タミフル服用後に転落死」という見出しがあれば、一般の読者はタミフルが転落死の原因であると思い込みます。タミフルと異常行動の因果関係に否定的な専門家と肯定的な専門家のそれぞれの言い分が両論併記されていれば、医学界でも意見が真っ二つだと思ってしまいます。実際には、因果関係に否定的な意見が専門家の間で主流であってもです。

 週刊誌レベルになると、あからさまに不安をあおるような記事も多くありました。そのほうが売れるからでしょう。安全性を伝える記事はインパクトがないせいか載りにくいようでした。誤解を招きにくい、医学的に正確な報道を望みます。

 タミフルを使えるようになったとしても、インフルエンザに異常行動のリスクがあることには変わりありません。薬を使おうと使うまいと、小児のインフルエンザ患者に対しては「玄関や全ての部屋の窓を確実に施錠する」「ベランダに面していない部屋で寝かせる」「できる限り1階で寝かせる」などの注意が必要です。

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アピタル・酒井健司

アピタル・酒井健司(さかい・けんじ) 内科医

1971年、福岡県生まれ。1996年九州大学医学部卒。九州大学第一内科入局。福岡市内の一般病院に内科医として勤務。趣味は読書と釣り。医療は奥が深いです。教科書や医学雑誌には、ちょっとした患者さんの疑問や不満などは書いていません。どうか教えてください。みなさんと一緒に考えるのが、このコラムの狙いです。

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