たまに、あちこちの病院にかかる患者さんがいらっしゃいます。たとえば、風邪を引いてAクリニックで薬をもらったけどなかなか治らないのでB病院に受診する……。「ドクターショッピング」などとも呼ばれます。Aクリニックの治療で大丈夫なのかと不安になっての行動でしょうが、お勧めできません。
経過は重要な情報です。一人の医師が継続して経過を観察することで、より適切な診療につながります。たとえば、咳と鼻水と微熱ならまずは風邪を疑いますが、なかなか治らずに咳が長く続くようなら副鼻腔炎やアレルギー性鼻炎や咳喘息、稀ではあるが見逃してはいけない肺結核や肺がんなどを考えます。医師を代えるとそこで情報が途切れてしまい正確な経過がわからなくなります。お薬手帳があれば薬の内容ぐらいはわかりますが、前医がどのような診断をしていたのか推測しかできません。
同じような検査が複数の医療機関で重複して行われることもあります。身体や費用の負担が生じるわりに情報量は増えません。症状があるにも関わらず検査で異常所見がない患者さんで起こりやすいです。「こんなにもつらいのに異常がないなんて信じられない。検査ミスかもしれない」という心理が働くようです。検査で異常がないなら、とりあえず命の危険があるような大きな病気はなさそうだと安心して、症状が軽くなるようじっくりと治療すればいいのですが、医師が代わると最初からやり直しです。
いま診てもらっている医師が信用できないということもあるでしょう。医師を代えると良くなったという事例も確かにあります。そういう場合でも、勝手に次の医師にかかるのではなく、できるだけ手紙(診療情報提供書)を書いてもらってください。検査の結果も添付されますので無駄な検査も減らせます。いまどき手紙を書くことを嫌がる医師はそれほど多くはないと思いますが、万が一そういう医師がいたらまず間違いなくヤブ医者ですので、そういう場合は医師を代えても大丈夫です。ドクターショッピングと呼ばれる行為と、手紙を書いてもらって別の医師に評価を聞くセカンドオピニオンとは違うのです。
理想的なのは特定のかかりつけ医を定めてずっと診てもらうことです。これまでかかった病気やアレルギーの有無をいちいち説明しなくてもいいし、薬や検査についての好みも把握してもらえます。「風邪っぽい症状だけど明らかにいつもの風邪と違う」といったときにも話が通じやすいです。
クリニックでは検査が制限されたり入院ができなかったりするため、大きな病院を好む患者さんもいらっしゃいます。しかし、大きな病院では医師の異動があり同じ医師が継続的に診ることが難しいことがあります。特別な病気を持っているならば話は変わってきますが、持病がなかったり、持病があっても高血圧や脂質異常症といった一般的な病気だけだったりならば、同じ医師に継続して診てもらえるクリニックをかかりつけ医にするメリットは大きいと考えます。
《酒井健司さんの連載が本になりました》
これまでの連載から80回分を収録「医心電信―よりよい医師患者関係のために」(医学と看護社、2138円)。https://goo.gl/WkBx2i
<アピタル:内科医・酒井健司の医心電信・その他>
1971年、福岡県生まれ。1996年九州大学医学部卒。九州大学第一内科入局。福岡市内の一般病院に内科医として勤務。趣味は読書と釣り。医療は奥が深いです。教科書や医学雑誌には、ちょっとした患者さんの疑問や不満などは書いていません。どうか教えてください。みなさんと一緒に考えるのが、このコラムの狙いです。
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