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 このコラムでは、仕事でミスばかりつづき、友人や恋人との関係もうまくいかず、「生きるのがつらい」と感じている架空の女性・リョウさん(30代前半・独り暮らし)をモデルに、大人のADHDの方がかかえる問題との付き合い方を紹介しています。

 以前、リョウさんの恋愛事情についてご紹介したことがありました。結婚願望もあるリョウさんですが、いつもリョウさんが好きになる男性には、恋人がいます。現在も、彼女がいる男性といわゆる「二番目の女」としてつきあい続けています。もう1年近くになりますが、いまだに彼は自分の家にリョウさんをあげることはありません。それどころか、最近は特殊な状況でしか会ってくれません。

 もしかするとこの男性は、結婚している可能性もありそうですし、聞いている名前だって本名かどうか怪しいほどです。こんな悲惨な現状にもかかわらず、リョウさんはこの関係を終わらせることができません。

 なぜでしょう。

 リョウ 「1人になるよりはマシ。だって、今の私には味方になってくれる人が誰もいないんだから」

 リョウさんは職場にも、女友達の間にも自分をさらけ出せる「居場所」がないのです。たとえ「二番目の女」でも、リョウさんには他では得られない、大事な居場所なのです。

 

写真・図版

 リョウさんにはまず、もう少し安定した、健全な居場所を作ることが優先課題でした。無理にリョウさんがこの二番目の関係だけを断とうとすることは、いわば、次の家を探す前に、現在の住んでいる自宅を手放そうとするようなものです。人は孤独と向き合い、自分の弱さと向き合うことを避けるためなら、死ぬことさえ選びかねないものです。そのくらい、リョウさんにとって、恋愛関係を整理することは難しいことでした。

 かといって、リョウさんの昔からつきあいのある女友達は、遠方で就職してなかなか会えなくなっていたり、結婚して子どもが生まれて生活時間や話題が合わなくなったりとなかなか昔のように頼れる状況ではありませんでした。

 リョウさんにとっては、このようにすぐに会えない友達では、なかなか実感をもってつながれる感じが持ちづらいのです。

 ということは、もう少しリョウさんが日常的に出会う人との関係をよくしていくのがよさそうです。とはいえ、リョウさんが毎日顔を合わせる人は、職場の人くらいです。仕事でのミスが減って来て、締め切りまでに仕事を終わらせることもできるようになってきたものの、なかなか人間関係の修復までには至っていないことはこれまでお伝えして来たとおりでした。この職場の人間関係においては、あまり期待しない事にしました。

 その代わりに、リョウさんは仕事の後や休日にスポーツジムで過ごす時間を増やすことにしました。

 ジムで出会う仲間は、明るい人が多く、よいつきあいができました。自分の都合のよい時間にジムに行っておしゃべりをして、約束もなくまた偶然会うときまでお互い別々の人生を過ごす・・・・。こうした自由なつきあいができることが、リョウさんには気楽でよかったようです。一緒に仕事をしてミスを指摘されることもないし、連絡がマメじゃないからと機嫌を悪くされることもありません。

 リョウさんは、ジム仲間との関係で、あることを自分に言い聞かせるようにしました。

 リョウ 「ここだけは平和に。だから急がず。急がず。ゆっくり、細く長く」

 今のリョウさんにとって、つながりは薄くても安定していて、長く続く関係が大事だからです。

 これまでのリョウさんは、いつも急いで距離を縮めようとして、誤解されたり、利用されたり、警戒されたりしてきました。時間をかけて相手を知ることをせずに、「この人はいい人に違いない!」と、すぐに心を許してお金を貸してしまい、そのまま逃げられたこともありました。あまりに孤独で寂しい気持ちをすぐに埋めたい一心で出会ったばかりの男性と一夜を共にしてしまい、その後連絡がつかなくなったこともありました。

 対人関係の結果を早急に求めすぎることで、痛い目に遭ってきたことを理解したリョウさんは、これからは「急がない」ことを実践しようとしたのです。

 

 半年ほどたった頃、ジム仲間のひとりから食事に誘われました。少し年上の女性でした。リョウさんは、飛び上がるほどうれしくなりました。ジムで顔を合わせてその場だけでの会話をする人が多い中、向こうからプライベートな食事に誘ってもらえたのですから。その女性は、これまでリョウさんが友達になってきた女友達とはタイプが違って、落ち着いていて、物静かなタイプでした。女性曰く「リョウさんは自分にはないイキイキとしたところがあって、見ているだけで元気をもらえる」そうです。リョウさんは自分を認めてもらえたことで涙が出そうなほどほっとしました。最近味わった事のないかんじでした。二番目の女に甘んじる関係では得られなかった、安堵感でした。

 リョウ 「これでちょっと準備ができた。私は友達関係でも恋愛関係でも、こういうふうに、自分をちゃんと認めてくれる人と付き合いたいんだ。彼とのつきあいはもっと長いのに、いつも彼とのデートの後の満たされなさや寂しさはなんなんだろう。これじゃつきあっている意味ない。二番目の女のままでは、幸せになれないんだ」

 リョウさんは決心しました。これまでは彼との関係を壊したくなくて、1人になりたくなくて、彼に本音をぶつけることを避けていました。嫌われないように、遠慮していました。でも「本音の言えない、認めてもらえない関係など、私の幸せにとっては意味がない」と開き直ると、リョウさんはこう思うことができました。

 リョウ 「あの人のことは大好きだけど、あの人が私を大切にしてくれないのなら、そんな関係いらない。自分は二番目で仕方ないって思いながらつきあうのは、自分がかわいそう。私は私が守ってあげなきゃ」

 

 前回のテーマとも関係しますが、リョウさんは最近、「自分で自分の一番の味方になる」ことがやっとできるようになったのです。これまでのリョウさんは、自分のことを「かわいそう」だと共感してあげるどころか、「私はいつも愛されない存在なのだから、二番目で仕方ない。それで当然よ」と批判していました。これではいつまでたってもリョウさんは浮かばれません。自分が幸せになる最大の条件は、自分が自分の味方であることなのでしょう。

 彼とのデートのパターンは最近こうでした。彼は時々県外に出張があります。そのたびにリョウさんを誘うのですが、リョウさんは彼の出張に合わせて休みをとり、交通費や宿泊費を自分で支払ってついていきました。そうでもしなければ、彼と一緒に長い時間過ごせないからです。時には一度の出張に5万円ほどかかることもありました。彼は出張ですから、すべての費用が会社から支給されますが、リョウさんはいつも自分のお金でした。彼はそれについて1円も支払ってくれることはありませんでした。その上、出張先で彼が仕事をしている間、リョウさんは待ちぼうけでした。

 これまでこうした状況をあまり深く考えてこなかったリョウさんでした。彼としても、出張先で一番目の恋人から離れて、人目を気にせずリョウさんといられるのですから、よい気分転換でしょう。

 出張の前日。彼はこういいました。「出張先で、取引先と飲み会になっちゃって。悪いけど夕ご飯は食べといてくれる?」

 リョウさんはうっかり、「うん」と返事しそうになりがら、踏みとどまりました。そして心の中で自分に言い聞かせたのです。

 リョウ 「ちょっと待って。私が彼の立場なら、取引先を優先するなんてことしないし、そもそも自腹で出張についてこいなんて言えない。もっと、出張以外の方法で会う時間を作ればいいのに。そうだ、そうよ。私が彼の立場なら絶対言わないようなことを、彼は言ってるんだ。すごい不平等。おかしい。私そんなに粗末に扱われてるんだ」

 

 こうしてリョウさんは、初めて彼に本音をぶつけてみました。これで嫌われるくらいならつきあっていても意味がないと思いながら。。。

 リョウ 「私、その出張行かないよ。行っても私ひとりなんでしょ?」

 彼はどんな反応をするのでしょうか。次回に続きます。

 

<お知らせ> ADHDの方のための集団認知行動療法を始めます

 北九州市にある精神科クリニック「かなめクリニック」にて、6月から時間管理についてのグループ療法を始めました。締め切りを守れない人、約束の時間に間に合わない・忘れてしまう人、夜更かしなど生活リズムに悩みのある人が解決を目指す集団認知行動療法です。他の医療機関受診中でも受講可能です。毎週火曜日全8回のプログラムです。現在、8月スタート分に参加される方を募集しています。私は直接プログラムを運営しませんが、スーパーヴァイザーとしてスタッフにアドバイスをしています。詳細は下記ホームページをご覧ください。

http://kanameclinic.sblo.jp/article/183433344.html別ウインドウで開きます 

 

<アピタル:上手に悩むとラクになる・生きるのがつらい女性のADHD>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/nayamu/(アピタル・中島美鈴)

アピタル・中島美鈴

アピタル・中島美鈴(なかしま・みすず) 臨床心理士

1978年生まれ、福岡在住の臨床心理士。専門は認知行動療法。肥前精神医療センター、東京大学大学院総合文化研究科、福岡大学人文学部、福岡県職員相談室などを経て、現在は九州大学大学院人間環境学府にて成人ADHDの集団認知行動療法の研究に携わる。他に、福岡保護観察所、福岡少年院などで薬物依存や性犯罪者の集団認知行動療法のスーパーヴァイザーを務める。