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 医学部を卒業して医師になりたての頃、私は大学病院で研修しました。その後、地方の中核病院にも勤務経験があり、現在は慢性期病床が中心の病院に勤務しています。開業したことはないですが、非常勤として病床のないクリニックで働くこともあります。各医療機関はそれぞれ特色があります。

 大学病院には珍しい症例が集まります。他の医療機関では一生で一人診るか診ないかといったまれな疾患を診ることができたのは貴重な経験です。中核病院には重症の患者さんが送られてきて、とにかく多忙でした。慢性期病床には高齢者が多く、病気を治すのと同時に退院後の日常生活を支援することも重要になってきます。クリニックは、高血圧や糖尿病といった慢性疾患や風邪や胃腸炎といった比較的軽症の患者さんが中心ですが、その中に潜む重症患者を見落とさないようにしなければなりません。

 患者さんの中には大きな病院を好む方もいらっしゃいます。とある中核病院に勤務したときのことです。それまで内科部長であった先生が開業に伴ってその中核病院を辞められ、その代わりに私が入りました。元内科部長先生は、それまで外来で診ていた患者さんのうち、クリニックでも診られる人を選んで、新規開業した自分のクリニックを案内しました。しかし、「やっぱり大きな病院のほうが安心」という理由で、元内科部長先生のクリニックではなく私の外来に戻ってきた患者さんが複数いらっしゃいました。

 元内科部長先生は数十年のキャリアがあるのに対し、私はせいぜい卒後数年の新米でした。また、もともとは元内科部長先生が長く診ていた患者さんで病状などもよくわかっています。外来に来られたら断れませんのでもちろん診させていただきましたが、「大病院の安心感」はそれほど大きなものであるのだなあ、と思った次第です。

 大きな病院にもメリットはあります。CTやMRIなどの検査ができますし、採血検査の結果も受診した日にわかります。しかし、患者さんが思っているほどはそのメリットは大きくはありません。CTやMRIが必要ならば紹介状を書いてもらって大きな病院を受診すればいいわけですし、受診した当日に採血結果を知る必要のある病状はそれほど多くありません。

 大学病院では専門性の高い診療が受けられることがメリットです。一方でクリニックでは広く総合的な診療が受けられます。クリニックで珍しい病気が疑われたら大学病院に紹介され、診断・治療されます。医学的に必要なら継続して大学病院で診ることもありますが、多くは病状が落ち着いたらクリニックに戻ります。もし入院が長くなりそうなら慢性期病床のある病院に転院します。

 医療機関にはこうした役割分担があるのです。

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アピタル・酒井健司

アピタル・酒井健司(さかい・けんじ) 内科医

1971年、福岡県生まれ。1996年九州大学医学部卒。九州大学第一内科入局。福岡市内の一般病院に内科医として勤務。趣味は読書と釣り。医療は奥が深いです。教科書や医学雑誌には、ちょっとした患者さんの疑問や不満などは書いていません。どうか教えてください。みなさんと一緒に考えるのが、このコラムの狙いです。

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