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 昨年、厚生労働省が発表した2016(平成28)年「国民健康・栄養調査」によれば、糖尿病が強く疑われる人の数は約1000万人。調査開始以降、初めて1000万人の大台を超えたことで話題になりました。

 糖尿病とは、血糖値を下げる働きのある「インスリン」というホルモンの分泌量が少なくなったり、効きが悪くなったりすることで血糖値が高い状態が慢性的に続いてしまう病気です。高血糖状態が続くと、腎症(腎臓の働きが悪くなる病気)や神経障害、脳卒中など、様々な合併症を引き起こします。特に腎症が進行すると腎不全になり、末期には人工透析が必要になります。

 このような症状の治療は高額なことに加え、糖尿病は一度かかると、完全に治癒することは難しく、治療は長期化します。また、患者が増えていることと相まって、国全体の医療費を押し上げる大きな要因にもなっています。

 さて、糖尿病にかかっているかどうかは血糖検査で判定します。糖尿病の判定に使われる指標はいくつかありますが、その一つが健康診断でもはかられることが多い「空腹時血糖値」です。健康診断では、前日の夜から10時間以上絶食状態で当日の朝に採血したものを空腹時とすることが一般的です(※「空腹時」の定義は検査機関によって多少異なりますので受診前に必ずご確認を)。

 食事をすれば誰でも血糖値は上がります。そして正常な人の場合、2時間ほどで値は正常域まで下がりますが、糖尿病の人は食後10時間以上経過してもなかなか正常域まで下がりません。つまり、空腹時血糖値が高い人は、糖尿病の可能性が非常に高いというわけです。

 ところが、空腹時の血糖値は正常でも、食後の血糖値が基準を大きく超える人がいます。このような状態は「隠れ糖尿病」といわれ、空腹時の血糖検査だけでは見逃されてしまいがちです。

 そこで、糖尿病の疑いがある人には空腹時だけではなく、75gのブドウ糖液を飲んで30分後、1時間後、2時間後に血糖値をはかる「75g経口ブドウ糖負荷試験」を行います。この検査では、食後の時間毎の血糖値変化をみることで、インスリンの作用不足などを確認することができます。ただ、明らかに糖尿病の人がブドウ糖負荷試験を行うとかえって病状を悪化させてしまう場合もあるため、医師の判断で二次検査としてはかることが多いようです。健康診断などではブドウ糖負荷試験は実施しないことが多いため、やはり「隠れ糖尿病」は見落とされてしまうケースが多いのです。

 

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 糖尿病は中高年で肥満がちの人がなりやすい病気だと思われていますが、インスリンの分泌反応が遅い、分泌量が少ないなどインスリンの作用不足で起こる「隠れ糖尿病」は、遺伝も関連することから、やせ型の人や若い人にも存在します。

 「やせているから」「若いから」などと甘く見て食後高血糖の状態に気付かずにいると、糖尿病による合併症が進行してしまうことがあるから厄介です。そのため早期に発見し、対策を講じることが重要なのです。――が、空腹時血糖検査では見つけにくく、ブドウ糖負荷試験も時間やコスト面から健康診断で実施することは現実的ではありません。

 それならどうするのかというと、もう一つの指標、糖化ヘモグロビン(HbA1c:ヘモグロビンエーワンシー)を調べる方法があります。

 HbA1cとは赤血球中のヘモグロビンが糖と結合したもので、この割合を見ることでヘモグロビンが過去にどれだけの糖にさらされたか――つまり過去(1、2カ月といわれています)の血糖の状態が分かります。健康診断の時に空腹時状態で受診できない人には空腹時血糖値の代わりにHbA1c値だけをはかる場合や、空腹時血糖値とHbA1c値の両方をはかる場合も増えてきています。

 

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 「隠れ糖尿病」の人の場合、前日の夜から当日の朝まで絶食して健康診断に臨めば、空腹時血糖値は下がります。しかし、HbA1cはそのような影響に左右されにくく、インスリンの作用不足や普段の食習慣によって起こっている食後高血糖が比較的そのまま反映されます。つまり、空腹時血糖だけでは見落とされてしまう「隠れ糖尿病」を発見するきっかけになるわけですね。ただし、HbA1cにも不安定になる要素があるため、糖尿病の診断をするためにはHbA1cの値だけでなく、必ず血糖検査と併用されます。

 

 さて、糖尿病の人はもちろん、隠れ糖尿病の人や血糖値が高めの人は、症状を悪化させないためにも、血糖を過剰に上げないようにするなど、血糖値をコントロールすることが求められます。そして、それを実現するのが、運動と食事習慣の改善です。

 糖はからだを動かすエネルギー源として使われるため、運動をすることでインスリンを使わずに血糖値を下げることができます。血糖値が上昇し始め、ピークになるのは、食事の約30~60分後なので、このタイミングでウォーキングや軽い筋トレなどの運動を行うとよいでしょう。

 

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 食事に関しては、糖質を多く含む食べ物は、急激に血糖値を上昇させるため、食べ過ぎないよう注意しましょう。特にからだに吸収されやすいブドウ糖や果糖の多い清涼飲料水は要注意です。

 なお、糖尿病の治療や予防というと糖質を極端に制限しなければいけないと思う人がいますが、これは逆効果です。糖質をまったくとらないと、からだはエネルギー源を確保できず、筋肉が落ちてしまいます。すると代謝が悪くなるため、効率的に血中の糖を消費できなくなってしまうのです。糖質は活動量に合わせて適度にとることが大切です。

 そして食事の際の料理を食べる順番も血糖値に影響します。食物繊維を多く含む野菜やキノコなどや、たんぱく質を多く含む肉や魚などの料理を最初に食べると、その後に糖質を多く含むごはんやパンなどを食べても急激な血糖値の上昇が抑えられます。また、同じ穀類でも精製された白米や小麦粉を使用したパンより、精製されていない玄米や全粒粉を使用したパンやパスタの方が血糖値の上昇が緩やかです。

 糖尿病の予防には、糖質制限だけでなく食べ方や食品の種類を変えることも意識しておくとよいでしょう。既に糖尿病で通院している方は、薬だけでなく食事や運動も治療の一環となりますので、必ず医師の指示に従ってください。

 

 最後に一つ、「尿糖」について触れておきます。健康診断で血液検査がない人も尿糖検査だけは受けているという人は多いと思います。この検査は、尿中に糖が含まれているか調べる検査です。糖尿病はその名の通り、糖が尿中に出る症状があるのですが、糖尿病の人は全て尿に糖が出るのかというと必ずしもそうではありません。私たちのからだは、生きていくために必要な栄養はなるべく排泄しないようにできていて、血糖値が少し高くても腎臓で血液をろ過する際に、糖は再びからだに吸収されます。糖が腎臓で再吸収される量を超えた時、尿に糖が出てくるのです。

 このことから、尿糖だけで糖尿病を早期に発見することは難しいのですが、尿糖が陽性反応を示していれば、かなり血糖値が高い状態であることが予測されます。「隠れ糖尿病」といわれる人は、空腹時の尿糖は陰性であっても、食後高血糖状態の時に尿糖が陽性になる可能性があります。健康診断で血液検査がない場合は、食事をして受診される人もいますので、尿検査だけでも糖尿病や隠れ糖尿病を発見するきっかけにあることもあります。尿検査だからと侮ってはいけないのです。

 

 繰り返しになりますが、糖尿病は完治させることが難しい病気です。けれども、個人の心がけ次第で予防ができる病気でもあります(生まれつきインスリンの量が少ない1型糖尿病は除きます)。

 6月になり、年度初めに受けた健康診断の結果が戻ってきた人も多いと思います。結果をチェックして、これを機会に食事や運動習慣を見直してみてはいかがでしょうか。

 

<アピタル:タニタとつくる健康生活・コラム>

http://www.asahi.com/apital/column/tanita/(アピタル・土佐文子)

アピタル・土佐文子

アピタル・土佐文子(とさ・ふみこ) 株式会社タニタヘルスリンク・ヒューマンサービス企画部 管理栄養士 健康運動指導士

病院の健診センター、自治体の保健センターでの勤務を経て、現在はタニタヘルスリンクにて、健康支援プログラムの企画立案や支援スタッフの育成などを担当している。多くの人に、からだの中で起きていることに少しでも興味を持っていただけるよう、分かりやすくお伝えすることをモットーにしている。