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 医療機関の役割分担の回でお話しましたが、私は卒業後すぐの研修は大学病院で行いました。卒業生の約半分が大学病院で、残りはそれ以外の病院で研修をしていました。とは言え、大学病院と性質が似ている大きな公立病院が多かったです。卒業後すぐにクリニックで研修することは普通はありませんでした。

 私が卒業したのが1996年ですから、今から20年以上前です。研修ではたいへん多くのことを学びました。特に新米医師に診られることになった患者さんたちには感謝の念に堪えません。もちろん、医局の先輩医師の指導のもとで診療いたしますので、患者さんに害が及ぶことはありません。

 大学病院時代にはいろいろな思い出があります。当時、私の研修していた大学病院では、看護師さんは入院患者さんの採血や点滴をしませんでした。針を刺すのは医師の仕事です。採血は朝食前に行うのが基本ですので、患者さんが朝ごはんを食べる前に出勤しなくてはいけません。病状によっては毎日採血が必要なので、その場合は日曜だろうと祝日だろうと朝食前に出勤です。

 「暁現象(Dawn phenomenon)」といって夜寝ている間に血糖値が上がる病態があるのですが、その確認のためには朝の4時とかに血糖値を測る必要があります。簡易血糖測定でよいので、耳たぶか指の先をちょいと針でつついて一滴だけ血液を採ればいいのですが、これを医師がやらなければなりません。先輩医師にさせるわけにはいきませんのでこれは研修医の仕事です。朝4時の血糖測定のためだけに泊まり込みです。

 建て増しされた病棟があったのですが、そこで超音波検査をする必要が生じたとき検査機器を運ぶのは研修医の仕事です。今は軽い超音波診断装置もありますが、当時の機械はかなり重かったです。それをえっちらおっちら押して運ぶのです。下手したら検査をしている時間よりも機械を運ぶ時間のほうが長かったかもしれません。

 20年前ですからレントゲンやCTは電子化されておらずフィルムに現像されました。フィルムには銀が含まれているそうで、胸部レントゲンが1枚だけとかならともかく、CTのように一連となるとけっこう重いのです。1階のレントゲン室で現像されるのですがそれを病棟に持って上がったり、返却したりするのは研修医の仕事でした。現在の電子カルテにはいろいろ使いにくいところもありますが、フィルム運びから研修医を解放した偉業は掛け値なしに尊いものです。

 検査結果をカルテに貼るのも研修医の仕事です。意味がわからない若い医師もいらっしゃると思います。紙カルテだったころは、検査結果も紙に印刷されて返ってくるので時系列に沿って検査値の変化がわかるよう並べて紙カルテにのりで貼るのです。きれいに貼るにはコツがいります。液体のりだとはみ出てページがくっつくのでスティックのりを使うのは基本でした。

 大学病院での研修生活はまるでブラック企業のようでした。当時はそれが当たり前でした。私が「時間外手当」という概念を知ったのは卒業して7~8年後でした。タイムカードなんてありませんでした。いまでも勤務医の過労死の話を聞きますが、指導側の「俺たちもこうしたつらい研修を乗り越えて一人前になった」という経験が要因の一つではないかと思います。これからは医療の世界も、根性論ではないまっとうな働き方ができる場所に変えていかねばなりません。

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アピタル・酒井健司

アピタル・酒井健司(さかい・けんじ) 内科医

1971年、福岡県生まれ。1996年九州大学医学部卒。九州大学第一内科入局。福岡市内の一般病院に内科医として勤務。趣味は読書と釣り。医療は奥が深いです。教科書や医学雑誌には、ちょっとした患者さんの疑問や不満などは書いていません。どうか教えてください。みなさんと一緒に考えるのが、このコラムの狙いです。

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