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 LGBTの人にとって、医療をめぐる問題は実はたくさんあります。例えば、がん検診。いったいどこの病院でなんの検診を受けたらよいのでしょうか? トランスジェンダーの男性(戸籍上の性は女性)の方が「乳がん検診」を受けるとき気持ちを皆さんは想像してみたことがありますか?前回は、LGBTと就労についてお話をしましたが、今回は「がん治療」との関係について考えてみます。

・医学的な「男女」区分とのから生まれる生きづらさ

・LGBTコミュニティーの支援が必要

・個性を尊重し合える社会づくりへ

1.LGBTとがん

 自分は男性だと思っているのに、身体には女性を象徴する膨らみがある乳房、そして、それをチェックしなくてはならない。そんな辛さから、検診を受けていない人が多く、早期発見が難しくなっているのです。

 脱毛などの容姿の変化も、「男性だから大丈夫」などということはなく、人によっては耐え難い苦痛につながる可能性もあります。また、過剰なホルモン治療、喫煙や飲酒、循環器などの慢性疾患、HIV/エイズなどLGBTコミュニティーの生活習慣からくる将来的な身体への影響への対処も必要です。

 問診で「家族を呼んできてください」と医師から聞かれたので、パートナーを付き添わせたら、医師から「法的な家族を呼んでくださいと言われた」などの声も聞きます。入院するときの書類に署名をする「身元保証人」はパートナーでもなれるのか?緊急手術の同意はパートナーがなれるの? 医師から「性交渉は?」と聞かれても、差別などが心配で性的指向や性自認を隠したり、場合によっては受診をあきらめたりしてしまうケースもあるでしょう。

 こうしたコミュニティー特有の悩みや経験を分かち合おうと、アメリカの病院などでは、院内にLGBTのサポートグループや、LGBTの医師グループの会、LGBTフレンドリーな医師を探す検索サイト(GLMA:the GLMA: Health Professionals Advancing LGBT Equality)などもあります。こうした場づくりによる体験共有やインターネット上の情報提供はとても大切です。

 また、「Cancer and the LGBT Community: Unique Perspectives from Risk to Survivorship(編集)Ulrike Boehmer、Ronit Elk」という書籍が2016年にSpringer出版から販売されています。この他にも、LGBTのエンド・オブ・ライフケア(人生の最終段階のケア)に関する調査や当事者・家族向けのハンドブックなども出ています(イギリス)。

 医療の問題は介護の問題にも連なっていきます。年齢を重ねて介護施設を利用する際は誰が保証人になるのでしょうか? LGBTと聞いて施設への入居を拒否されることもあるでしょう。他にも、結婚、親子関係、葬儀の喪主、相続、生命保険の受取など、人生の様々なところに、LGBTをめぐるバリアーが残っているのです。

2.LGBTと自殺

 がん患者の自殺率は、診断から1年以内は約20倍高いことは、国立がん研究センターの「多目的コホート研究(JPHC研究)」から報告されていますが、LGBTではどうでしょうか?http://epi.ncc.go.jp/jphc/outcome/3399.html別ウインドウで開きます

 ゲイ、バイセクシュアルでは、65.9%もの人が自殺を考えたことがあり、実際に実行しようとした経験がある人の割合も14.0%となっており、この結果は、1999年の調査(N=1025人)と全く変動がありません。1999年の調査では、自殺未遂に関連する要因も調べていますが、カミングアウトをした相手の人数が多ければ多いほど、自殺率が高くなっていることも分かっています。(厚生労働省科学研究費補助金エイズ対策研究推進事業ゲイ・バイセクシュアル男性の健康レポート2)。http://www.j-msm.com/report/report02/report02_all.pdf別ウインドウで開きます 

 本人が信頼して、勇気を出してカミングアウトしたことを、本人の了解を得ずに暴露することを「アウティング」といいますが、打ち明けた人の心や身体を壊してしまうことも問題になっています。

 このように、がんと同様、「人と違うこと」に対する偏見はとても大きく、たくさんの生きづらさが存在しているのが現実なのです。

3.一人一人が四つ葉のクローバー

 LGBTの支援活動を長く続けられてきたあるリーダーが、5月に開催された「東京レインボープライド」のパレード中にこんなメッセージを語り掛けました。「私の子供は四つ葉のクローバーでした。みんなと同じ、でもちょっとだけ個性がある。とってもとってもすてきなクローバーなんだということに母親である私は気がつきました。皆さんも周囲にいる四つ葉のクローバーに気づいてください。今日はこんなにたくさんの人と晴天の下で歩けること、本当に感謝の気持ちでいっぱいです」

 本人も苦しい。そして、家族も苦しかったことでしょう。それを乗り越えた人のメッセージは本当にたくさんの家族を支えることでしょう。

 今という時間をともに生きている私たちだからこそ、これから生まれ、大人になる子供たち、そして、他の人が「生きづらさ」を感じることのない社会にするために、私たち社会は何ができるのでしょうか。がんもLGBTも難病も慢性疾患も介護も子育ても、困りごとの根底には共通点があるはずです。まずはその問題を知り、考えることから始めてみませんか。少しずつ社会は成熟していくはずです。(アピタル・桜井なおみ)

アピタル・桜井なおみ

アピタル・桜井なおみ(さくらい・なおみ) 一般社団法人CSRプロジェクト代表理事

東京生まれ。大学で都市計画を学んだ後、卒業後はコンサルティング会社にて、まちづくりや環境学習などに従事。2004年、30代で乳がん罹患後は、働き盛りで罹患した自らのがん経験や社会経験を活かし、小児がん経験者を含めた患者・家族の支援活動を開始、現在に至る。社会福祉士、技術士(建設部門)、産業カウンセラー。