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 梅雨明けとともに、本格的な夏山シーズンが始まります。北アルプスや八ケ岳など全国人気の山域で、夏山登山を計画している方は多いと思います。しかし、標高2千メートルを超える高山は、登山ルートがハードで長丁場になります。快適な登山を楽しむために大切なのは、入山前のトレーニングです。今回は、長野県白馬村の「北アルプス医療センター白馬診療所」で理学療法士として勤務する服部徹さん(48)に、「安全で疲れない歩き方」や「登山に有効なトレーニング」を聞きました。

 服部さんは大阪府堺市出身。大学時代から登山を始め、1995年夏、パキスタンのブロードピーク3山(北峰7387メートル、中央峰8008メートル、主峰8051メートル)を仲間2人と縦走登山に成功しました。登山スタイルは、前進キャンプや固定ロープを設けず、テントを背負って少人数、短期間で攻略するアルパインスタイルです。日本人による8千メートル峰のアルパインスタイルでの縦走は、初の快挙でした。登山家として頭角を現す一方、30歳で理学療法士の資格を取り、現在は安全登山のための講座の講師などを務めています。

 服部さんは、まず、「ふだんからトレーニングをして、自分の体力に合った山を選ばないと、転倒事故のほか、ひざを痛めることにつながります」と言います。登山は、重力に逆らって肉体を標高の高い場所に移動させ、下りでは逆に高度を下げるスポーツです。このため、平地で行うスポーツとは歩き方やトレーニング方法が違ってきます。

 スポーツとしての登山の大きな特徴は、登りと下りでは、足の筋肉の使われ方が違うことです。登りは脚の筋肉が縮みながら力を発揮して、体を引き上げます。下りでは、脚の筋肉が伸張しながら力を発揮して、ブレーキをかけ、着地時の衝撃を和らげているのです。

 足が地面から受ける衝撃は、登りより下りの方が大きくなります。このため、下りではひざへの負担が積み重なり、転倒・滑落事故が発生しやすくなります。また、登山に重要に太ももの前の筋肉は、加齢とともに衰えてきます。特に、40代以降の衰えが顕著だそうです。

 安全登山のための歩き方のポイントは①蹴らない(登り下りともに、足首で地面を蹴らない)②ねじらない(腕を振って、体をねじらない)③伸ばさない(登り下りで、ひざを伸ばしきらない)④頭がグラグラせずに安定している(目の位置を水平に保ち、姿勢を安定させる)です。無駄なエネルギーを使わない省エネルギーでの歩き方を心掛けると、過剰なストレスが関節や筋肉に加わらず、疲れやひざへの負担が少なくなります。

 登りでのポイントは、小股で足裏全体で地面に接地することです。一歩の高低差が小さく、使う筋力をセーブすることにつながります。また、登る姿勢は上半身を前傾させ、足首を起こして、おしりと太ももの後ろの筋肉を使います。適度な前傾姿勢で登れば、ひざは伸びきらず、自然と前に落ちていく感じになります。太ももの前の筋肉は、下りのために温存できます。

 下りでのポイントは、①小股で足裏の前から全体での接地②姿勢に気をつける③ゆっくりからリズミカルに(傾斜や凹凸などに応じてスピードを調整する)ーーを心掛けてください。

 日常のトレーニングでは、高低差のない平地でのウォーキングだと、山に登るための負荷が少なく、登山に対するトレーニング効果が低いのです。最も適したトレーニングは、こまめに登山をすることです。自分の体重が負荷となり、足腰の強化につながるからです。「里山でもいいので、高低差がある場所を歩くことをお薦めします。『ややきついな』と思う程度が効果的です」と服部さん。

 登山で使うエネルギーは、体内の糖質と脂肪から作られます。登りの方が下りよりも多くのエネルギーが必要で、「きつい」以上の運動では、糖質がたくさん使われ、体内のエネルギー源が枯渇してきます。「ややきつい」以下だと脂肪と糖質バランスよく使われ、疲れにくく、長時間の行動が可能になります。

 週末を利用して登山を続けるのが、トレーニング方法としては理想です。しかし、仕事が忙しいなどで、月2回未満しか登山ができない場合、自宅で手軽にできる筋力トレーニングがお薦めです。長時間の行動となる登山で使う筋力は、持久性が求められます。このため、自分の体重を使うスクワットが効果があります。登山と同様に「ややきついな」と思う程度で試みてください。

 スクワットは、両足を肩幅くらい広めに開き、足先は少し外に向けます。両手を床と平行に前に伸ばします。この姿勢で、足先とひざの向きを合わせて、おしりを突き出すようにしながら、しゃがみます。この際、骨盤から頭まで一直線にして正しい姿勢を保ちます。息を止めずに行い、しゃがんだとき、ひざは足のつま先を超えない程度で止めます。最初は5回くらいから始め、慣れれば10~15回以上、繰り返してください。

 スクワットには、相撲の四股のような「四股スクワット」や片足立ちして行う「片足スクワット」などがあります。また、下りの安定性を高めるため、相撲の蹲踞(そんきょ)も効果があります。蹲踞の姿勢で、かかとを上げてつま先立ちになり、両ひざを開いて姿勢を正します。この状態で30秒~1分程度行います。

 安全登山ため、入山前の筋力トレーニングは大切です。まずは、手軽にできるスクワットから始めてください。服部さんによると、「毎日続けると、自分の体が変わってきたのがわかる」そうです。

<アピタル:近藤幸夫の山へ行こう・健康と安全>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/climb/(近藤幸夫)

近藤幸夫

近藤幸夫(こんどう・ゆきお) 朝日新聞山岳専門記者

1959年。岐阜市生まれ。信州大学農学部卒。86年、朝日新聞入社。初任地の富山支局で、北アルプスを中心に山岳取材をスタート。88年から運動部(現スポーツ部)に配属され、南極や北極、ヒマラヤで海外取材を多数経験。2012年から日本登山医学会の認定山岳医講習会の講師を務める。現松本支局長兼山岳専門記者。