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 小児がんの晩期合併症のため、病院通いが続いています。婦人科検診の後、紆余曲折の末に子宮内膜ポリープが見つかり、手術を控えているというところまでを前回のコラムで書きました。今回は、連日の病院通いと合わせて、小児がん患者のフォローアップの課題についてお伝えします。

いざ、手術

 4月下旬、全身麻酔による子宮鏡下内膜ポリープ切除術のため入院をしました。悪性だったらいけないと急いで日程が組まれたため手術時間は未定。オペ室が空き次第呼ばれるという不思議な感じのせいか、はたまた入院慣れし過ぎたせいか。手術をする実感が湧きません。「悪性だったら」という考えが頭にはあっても、びっくりするくらい平常心でした。医師が丁寧に説明してくれたことも影響していると思います。約2時間の手術は無事終わり、結果を待つだけとなりました。と思いきや、手術に合わせて、いつもと違う排便管理を行ったがためペースが崩れ、飲食のたびに漏れるように・・・。腸管を休めるための絶飲食が必要になり、5月上旬、再び入院となりました。

肝臓に「1センチ弱の何か」・・・

 腹部エコー検査を受けたところ、腸管には問題がありませんでした。しかし、胆石がゴロゴロ、肝臓に「1センチ弱の腫瘤のような何か」と、またまた妙なものが発覚してしまいました。小児科の主治医も「悪いものじゃなさそうだけど・・・」と言いますが、小児がんの既往があるため、精査することに。MRIを撮って、とりあえず退院しましたが、その後、外来受診が続くことになります。

 5月16日、消化器内科を外来受診。MRIの結果は「良性とは言い切れない」という、なんとも歯切れの悪いものでした。胆石は定期的にエコーで観察することに。肝臓は、肝臓がん担当の別の医師の診断を仰ぐことになりました。

 その翌日、婦人科外来を受診。ポリープの病理診断の結果、「腺筋症」というもので悪性ではありませんでした。しかし、一般的な腺筋症の発生の仕方ではなく、論文などを探しても例がないと言うのです。症例がないことを考慮すると、「小児がんの晩期合併症と考えて差し支えない」ということでした。今後もフォローしていく必要がありそうです。

 さらにその翌日、今度は「肝がんセンター」外来で受診しました。目的は「1センチ弱の何か」の正体を突き止めるために、組織を採取して調べる「生検」をするかどうかを考えることです。医師によると、難しい場所にあるうえ小さく、生検自体にリスクがあること。明らかな悪性っぽさが見受けられないことから、2カ月後に再検査をすることで、いったん集結しました。

定着しない「治療サマリー」

 昔は不治の病と言われていた小児がんも、医療の進歩によって7~8割が治るようになりました。しかし、成育の過程に厳しい治療を行っているため、その影響が晩期合併症として数年、数十年後と、生涯にわたって発症する可能性が潜んでいます。そのため本来、成人した後も医療的に患者を支え続ける「長期フォローアップ」が欠かせません。そんな「長期フォローアップ」の中でも根源的な課題は、患者が受けた治療の履歴を記録しておく「治療サマリー」の活用だと再認識しました。

 今回、婦人科でついた診断は、一般的に誰にでも発症し得る「線筋症」というものでした。それが小児がんの晩期合併症なのかを、まず知る必要がありました。けれども、私のカルテには「治療サマリー」がありません。婦人科の医師も過去の情報がないことには因果関係を判断しようがなく、「症例がないことを鑑みると、小児がんの晩期合併症と考えて差し支えない」という消極的な特定をせざるを得ませんでした。

 どんな晩期合併症を発症するかは、当初の治療が大きく影響しています。化学療法であれば、いつ、何の薬を、どのくらい使ったのか、放射線治療なら、どのくらいの線量を、どこに照射したのかなど、要点を押さえた治療情報が欠かせません。日本小児白血病リンパ腫研究グループ(JPLSG)長期フォローアップ委員会(以下、長期FU委員会)によって作成された、患者の治療情報を記す共通様式「治療サマリー」が公開されて10年が経とうとしています。それにもかかわらず、なかなか定着していない現状があるのです。

 私が当初からかかっている大学病院の医師も、長期FU委員会で治療サマリーの制作に携わっていました。公開直後に主治医へ「治療サマリー」を依頼するも、手元に来たのは数年後。いざ内容を見てみると、使用した薬剤名や使用量が「その他」でひとくくりにされたうえに内訳の記載もなく、不完全な内容だったことには驚きを隠せませんでした。これでは「治療サマリー」の意味を成していないも同然です。

他の医師への「引き継ぎ資料」にも

 必要性や意義を一番理解している者が正しく活用できず、形骸化したサマリーを配っているようでは、普及も何もありません。同じ病院で治療をした仲間に聞いてみると、サマリーをもらえていない人も少なくありませんでした。日々の診療に携わる医師や患者、家族から必要性が叫ばれ誕生した「治療サマリー」なのに、なぜ活用されていないのか疑問が残ります。

 サマリーには「引き継ぎ資料」としての役割もあります。治療後の人生が長い小児がん患者の場合、主治医がずっと同じとは限りません。むしろ、複数の診療科にまたがったり、主治医が代替わりしたりする方が一般的と言えるでしょう。カルテの保存期間が過ぎれば記録も失われてしまいます。晩期合併症があってもなくても、適切な健康管理をしていくうえで、治療サマリーは必要不可欠です。困るのは患者だけではなく、医療者も同じということです。

 推計では、20歳代の700人に1人が小児がんの経験者と言われています。言い換えると毎年1400人ずつ小児がん経験者が増えていくことになります。小児がんの長期フォローアップに関する課題は山積みですが、すべての診療の基礎となる「治療サマリー」は根源的な問題です。初見の医療者が診ても患者の全体像が把握できるような形であるべきなのではないでしょうか。必要なときに必要な人がアクセスできるような環境になることを願ってやみません。

<アピタル:彩夏の〝みんなに笑顔を〟>

http://www.asahi.com/apital/column/ayaka/(アピタル・樋口彩夏)

アピタル・樋口彩夏

アピタル・樋口彩夏(ひぐち・あやか)

1989年、東京生まれ。中学2年の時、骨盤にユーイング肉腫(小児がん)を発症。抗がん剤、重粒子線などの治療を経て、車いすでの生活に。「いつ、誰が、どんな病気や障害をもっても、笑顔で暮らせる日本にしたい!」を目標に日々、奮闘中。当事者の視点から建設的に伝えることをモットーに執筆・講演も行っている。