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 卵巣がん体験者の会「スマイリー」は、海外で使える抗がん剤を日本でも使えるようにしたいとの思いから発足しました。代表を務める片木(かたぎ)美穂さん(44)に、これまでの道のりや思い、課題を伺いました。

がん体験者の会を設立

 私ががんと向き合ったのは2004年からです。30歳のときに卵巣がんと診断され、卵巣の摘出手術を受けました。ちょうど、インターネットで知り合った卵巣がん患者の女性が、海外では承認されているのに国内での承認が遅れている「ドラッグラグ」という問題の解消に向けた患者会を立ち上げようとしていました。私もお手伝いをしていたのですが、その女性が急に亡くなり、私が一手に会設立を引き受けることになってしまいました。

 自分の治療はさておき、当時は卵巣がんの治療すべてを理解しているわけではありませんでした。ましてや薬事法なんでまったく知りませんでした。活動に協力してくれる医師を見つけると、メールで深夜まで質問攻めにして準備をしていました。寝る間も惜しんで毎日1、2時間のうたた寝でやり過ごす生活でした。

 署名も集めようとしたのですが、そもそも集めた署名をどこに持っていって良いのかわからなくて、住んでいる地元の市議会に相談に行きました。そこで市議会議員に、国会に行くよう助言されて議員会館に行ってみて、そこでまた出入りする議員に相談する。そんなことをしていましたね。

ドラッグラグ解消に注力

「ものすごい行動力ですね」と言われました。本当にいちからだったんですよ。国会議員の経歴などが書いてある「国会便覧」がどこで売っているのかを教えてもらって、議員会館のどの部屋にその議員がいるのか確かめたり、厚生労働省の担当課を突然訪ねて課長に直談判しようとしたりもしました。当時は、省庁もいまのように出入りのセキュリティーチェックも厳しくなく、省内の担当課に出入りしたり、関係する審議会を傍聴したりしました。

 2011年までに、当初目標としていたドキシル、ジェムザール、ハイカムチンの三つの抗がん剤が国内で承認されました。「さあ終わった」と思った矢先に、今度は薬事法改正に向けた厚生労働省の委員になることを要請されました。長年、薬害肝炎訴訟に関わってきた委員の方もいました。そうした方は、薬の規制について厳しい目を当然のことながら向けます。それに対して、私たちはなんとか薬を早く患者に届けて欲しいという立場。相反する部分もあって、お引き受けするには相当の覚悟がいりました。まったくのど素人です。毎日、必ず薬事法を全部読むまでは寝てはいけないと自分に課しました。すべてを暗記するのは難しいですが、議論の中で薬事法のどの部分が焦点になっているのかがわかるように心がけました。この間に、未承認薬を人道的な見地から必要な患者に一定の条件で使うことを認める「コンパッショネートユース」という制度も実現しました。

今年度いっぱいで解散へ

 この7年間ぐらい、好きな映画もみに行っていません。患者さんの電話をすぐにとれるように、息子の音楽発表会などを見る際も一番うしろの席。ときには受けた電話で患者さんと8時間お話しすることもあります。会の活動費には寄付もいただくのですが、それでも足りなくて、バイトをして活動費に充ててきました。

 患者会も多様化し、全国組織の全国がん患者団体連合会(全がん連)もできました。さまざまな要望や意見を調整して政策に反映していくことが重要になっています。私は、問題があると、「問題だ」と強く訴えて道を切り開くタイプなので、もっと自分らしくかかわれる方法がないかなと、考えるようになっていました。何年か前に燃え尽きていたんだとも思います。スマイリー自体は来年3月末でいったん解散しようと思っています。

医療情報の多様化に懸念

 インターネット情報について、「本当に信じて良いのか」といった相談を患者さんから受けることが増えています。効果をうたいながら、論文になっていなかったり、人じゃなくマウスなどの動物実験のデータを挙げるだけだったりと、科学的な根拠がきちんと示されていない例も多く見受けられます。

 6月にはネット上の医療広告の規制も始まりました。明らかに問題のある広告は姿を消していくと思いますが、逆にステルスのような広告が増えて、問題性がますます見えにくくなっていく恐れがあります。たとえば、個人でのツイッターやフェイスブックを通じた、病院やクリニックをほめたり勧めたりするコメントが、個人のものなのか、組織的なものなのか。見極めが難しいと思います。最近は、医療的な相談に応じる個人のボランティア的な体裁のものも見受けられます。どこまで個人でしているのか、疑問に思うものもあります。そうした問題をなくすための活動や、患者の支援はこれからも何らかの形で続けたいと考えています。

     ◇

 1973年大阪市生まれ。30歳で卵巣がんと診断される。2006年から卵巣がん体験者の会「スマイリー」代表。厚生労働省審議会のメンバーとして医療政策づくりにも関わってきた。

<アピタル:がんとともに・インタビュー>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/gantomo/

(聞き手・服部尚