[PR]

 がんの治療を始めると、医療費の支払いという経済的負担とも向き合わねばならない。近年、登場している有効な治療薬には、高額で長期間続けざるを得ないものが多い。支援制度を知って活用すると負担は減らせるが、この先も続々と高い薬の開発は進む。

高額な新薬、治療と出費長期化

 和歌山市の病院職員丸畑雄司さん(50)は2016年5月、胃がんが見つかった。翌月、入院し、胃の上部を切除する手術を受けた。リンパ節への転移があるステージ3だった。

 10日間入院し、手術料や検査料など医療費の総額は約140万円。公的医療保険で自己負担分は3割。さらに年齢や年収に応じて計算式が決まっていて上限を超す分は戻ってくる高額療養費制度を利用し、実際の負担は約18万円だった。

 再発を防ぐため、手術後に飲み薬と点滴の抗がん剤治療も始めた。体重が一時14キロ減った。職場の理解もあって休業せずにすんだが月額3万~9万円程度の負担が約1年続いた。家のローンを払い、貯蓄の一部を切り崩す生活。「治療費の出費がだらだら続く負担がつらく、将来への不安も大きかった」と話す。

 近年、がん細胞をピンポイントで攻撃する分子標的薬や、免疫チェックポイント阻害剤という新たなタイプの高額の治療薬が登場。治療が長期化している。北里大学病院集学的がん診療センター長の佐々木治一郎教授は、「がん細胞が薬剤耐性を獲得するため、分子標的薬は次々と種類を変えていかざるを得ない。免疫チェックポイント阻害剤はやめどきの判断が難しい」と話す。

 神奈川県の60代男性は昨年8月、肺がんの手術後に免疫チェックポイント阻害剤キイトルーダの治療を始めた。高額療養費制度を使っても毎月10万円程度の出費が続いた。経済的負担が重いからと途中で治療をやめた。主治医は「効果が出る可能性もある。できれば続けた方がいい」と説明したが、決断は変わらなかった。「再発の不安がないことはないが、家族の生活の方が大事」と男性は言う。

「申請主義」自ら確認・相談大切

 支援制度は「申請主義」だ。いつ、どこに申請するのか知らずにいると損をすることがある。

 医療費負担を軽くするのが、高額療養費制度だ。年収約370万~770万円の場合、医療費が100万円だと自己負担は限度額の約8万7千円となる=図。

写真・図版

 支給までに3カ月ほどかかるが、加入する健康保険組合などに「限度額適用認定証」を申請し、病院窓口に提示すれば、窓口負担は限度額だけで済む。一つの世帯で複数の人が高額の医療費を払った場合に、合算して限度額を超す分を払い戻す「世帯合算」もある。

 直腸がんで人工肛門(こうもん)にしたり咽頭(いんとう)がんで摘出したりした人は、障害年金の対象になる可能性がある。だが国立がん研究センター中央病院相談支援センターの宮田佳代子さんは「障害年金の受給対象を知っている医師は多くない。このため情報が伝わらず、申請していない患者もいる」と言う。

 全国に400以上あるがん診療連携拠点病院には、がん相談支援センターがあり、社会福祉士や看護師らが生活面での相談にものる。その一つ、埼玉県立がんセンターのソーシャルワーカー山本美憂さんは、「様々な公的制度があると知るだけで安心する方は多い。どんなことでも相談してほしい」と話す。センターでは外部の社会保険労務士やファイナンシャルプランナーなどと連携して解決に当たることもある。

 がん患者を支援するNPO法人「がんと暮らしを考える会」によると近年、60~65歳の患者からの相談が増えているという。定年後に正社員から嘱託職員になった人が治療を始めると、収入が大幅に減る一方で支出が増える。

 傷病手当金を受給した後に障害年金を受け取る、余命が短いとみられる場合は老齢年金を繰り上げ受給するなどの選択肢がある。ただ「それぞれ長所短所がある。制度が複雑で、この世代の選択は特に難しい。よく理解して冷静に選ぶ必要がある」と賢見(けんみ)卓也理事長は言う。

 会が公開するウェブページ「がん制度ドック」(http://www.ganseido.com別ウインドウで開きます)に病状や加入している保険などを入力すると、活用できる制度が検索できる。

専門家「薬価のあり方、検討を」

 新たなタイプの薬剤開発が進み、がん治療薬の高額化は止まらない。

 特定の遺伝子やたんぱく質に働きかける分子標的薬は、一つの薬を使う対象患者が少ないため、価格は高い。2014年に承認された免疫チェックポイント阻害剤オプジーボは、人に備わる免疫の働きを促す新型の薬。現在の価格は約6割下がったが当初、年3500万円の薬剤費が話題になった。今後も次々と、高額薬の承認が控えている。

 国立がん研究センターは、欧米で承認されているが日本で未承認の抗がん剤65種を調査した。4月時点で、薬剤費が判明している58種中45種で、月の薬剤費が100万円以上(1ドル100円で計算)だった。

 65種のうち41種は、15年以降に承認された。抗体医薬など製造が難しい薬や、患者数の少ないがんの薬が多かったという。

 最も高かったのは、白血病の一部を対象とする、CAR―T細胞療法と呼ばれる薬。自身の免疫細胞に遺伝子操作をしてがんを攻撃する力を高めて体内に戻す新たな治療法で、治療は1回で終わるが約4700万円かかる。日本でも承認に向け審査が進んでいる。

 がん治療薬の高額化は米国でも問題になっている。同じ薬剤でも、がんの種類によって効き方が違う。適応によって価格を変えるなど、新しい価格設定の方法も議論されているという。

 同センターの藤原康弘・企画戦略局長は「薬の高額化は続く。薬価のあり方など、制度そのものについて考えなければならない時期にきている」と話す。(佐藤建仁、月舘彩子)

(がんインタビュー)ドラッグラグ 三つの薬、国内での承認実現 卵巣がん体験者の会「スマイリー」代表・片木美穂さん

 海外で使える抗がん剤を日本でも使えるようにしたいと発足した、卵巣がん体験者の会「スマイリー」代表の片木美穂さん(44)に、これまでの道のりと課題を聞きました。

 会の目標は、抗がん剤の承認が遅れるドラッグラグの問題の解決でした。医薬品の審査体制が充実するなどで、具体的な目標とした三つの薬が承認されました。がん対策推進基本計画ができて拠点病院が各地に整備され、標準治療という言葉も定着していったように感じます。薬事法を一から学び、署名を集め、約束もなしに議員会館を訪れて。無我夢中に活動をしてきました。

 その後は患者向けの勉強会や、おしゃべり会などを開き、学会や臨床試験への協力もしてきました。延べ650人以上の患者さんに参加していただきました。

 11年以上続けてきましたが、ひとつの節目を迎えたという判断から、熟慮を重ねた結果、スマイリー自体は来年3月末でいったん解散しようと思っています。自由診療で高額な治療費をとるがん治療への対応や、セカンドオピニオンを得ようとしたら良い顔をしない医師がいるとか、まだまだ課題は多くあるのですが。

 障害のある息子の就職の支援など、家族にも向き合う必要が出てきました。会の活動を一度休み、何をすべきなのか、できるのか。ゆっくり考えたいと思っています。(服部尚)

     *

 1973年大阪市生まれ。30歳で卵巣がんと診断される。2006年から卵巣がん体験者の会「スマイリー」代表。厚生労働省審議会のメンバーとして医療政策づくりにも関わってきた。

     ◇

 インタビューの詳報は、朝日新聞デジタルの「がんとともに」(http://www.asahi.com/special/nextribbon/)で読めます。

 ◆告知板

AYA世代のがん医療のシンポジウム

 「AYAがんの医療と支援のあり方研究会」は、30日午後1~4時、東京都豊島区のステーションコンファレンス池袋で、設立記念シンポジウムを開く。医師や患者、ソーシャルワーカーがAYA世代のがん患者に求められる医療や情報提供、就労支援、家族へのケアなどについて話す。資料代として1千円。参加希望者は会のサイト(http://aya-ken.jp/別ウインドウで開きます)から申し込む。

乳がん患者会の講演会

 乳がん患者会のNPO法人ブーゲンビリアは、7月8日午後2時~4時半、東京都立川市の立川市女性総合センターで、「がん個別化治療時代の医療者と患者のコミュニケーション」と題した講演会を開く。無料、事前申し込み不要。昭和大学医学部乳腺外科学部門の中村清吾教授や患者会の代表らが個別化医療が進むがん治療について、情報の共有・収集の工夫や課題などについて話す。問い合わせはブーゲンビリア統括理事長の内田さん(090・6495・5856)へ。

 ◆日本対がん協会だより

乳がん検診クーポン、抽選でプレゼント

 日本対がん協会発行の乳がん検診(マンモグラフィー)のクーポン(来年3月31日まで有効)を100人にプレゼントします。40歳以上(来年3月31日時点)の乳がん検診未受診者が対象。希望者は受診施設を日本対がん協会のホームページ(http://www.jcancer.jp/wp-content/uploads/coupon_2018.pdf別ウインドウで開きます)で確認し住所、氏名、年齢、電話番号を明記し、日本対がん協会「夏の乳がん検診プレゼント」係にFAX(03・3541・4783)で申し込む。7月27日締め切り。発送をもって発表とします。

 ◇次回の掲載は7月の予定です。

 ◇アンケート「私のがん、どう伝える?」を27日からhttp://t.asahi.com/forum別ウインドウで開きますで実施します。ご意見はasahi_forum@asahi.comメールするでも募集しています。

<アピタル:がん新時代・その他>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/gan