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 梅雨真っただ中で、日によっては寒いくらいですね。そうかと思うと蒸し暑い日もあり、風邪がはやっているようです。5月に交代したこの連載の担当記者さんは、小さいお子さんのいる女性で、お子さんの保育園では薄着が奨励されているそうです。「子どもは風の子」という言葉がありますが、薄着にすればするほど、いいことがあるでしょうか?

薄着にすれば風邪をひかない?

 薄着させていると免疫力が上がるかどうかは、どうやったら確かめられるでしょう。保育園で、クラスのお子さんの半数を半袖・半ズボンで下着の枚数も決めるなどはっきり差が分かる程度の薄着にし、もう半数を気温や室温に合わせた服装で重ね着をして、1年間、発熱を伴う風邪を何回くらいひくか比較するとか、風邪を起こすウイルスに対する抗体価が上がるかどうか数回採血するといいかもしれません。しかし、倫理的にそういう研究は難しいと思います。

 人を対象とした臨床研究を行う際には、いろいろな指針があります。厚生労働省のホームページには医学研究に関する指針一覧がありますし(http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hokabunya/kenkyujigyou/i-kenkyu/index.html#4別ウインドウで開きます) 、世界的にも、被験者の自発的な同意が必要と定めたニュルンベルク綱領や、さらにそれを発展させたヘルシンキ宣言などがあります。研究者は研究の対象となる人も含めた人々の健康、権利を守ることが義務づけられているのです。その上、子どもに説明を理解させてから同意を取ることは難しいものです。

 そして、一定期間子どもの暮らす環境を均質にして、着衣の多い少ないだけに差をつけて比較検討するということは不可能です。風邪をひく回数や風邪のウイルスに対する抗体価に差が出ても、薄着だけが原因だと判断することはなかなかできません。統計学的に有意差(意味のある差)が出る調査をするには、相当多数のサンプルとしての人数が必要です。生活習慣病の原因検索のように少なくとも数千人以上ではないでしょうか。

 有名な小児科の教科書、「ネルソン小児科学」第18版には、子どもは平均して年に6ー8回風邪をひき、9ー15%は少なくとも1年に12回風邪をひくとあります。もともとこのように、風邪をひく頻度は個人差が大きく、何によるものかはわかりません。免疫システムが未熟なせいかもしれませんし、きょうだいやクラスメートからウイルスをもらう機会が多いせいかもしれません。日本で発表された医学雑誌を検索できる医中誌Webというサイトで、着衣の枚数と免疫の関係を調べた論文はありません。

こまめな脱ぎ着で調整を

 一般的に小さい子どもほど、自分で衣服の調節ができません。「寒い」、「暑い」と訴えることも、子どもには難しいのです。「汗をかかないと汗腺が発達しない」、「汗はかけばかくほどいい」というのも間違っていますし、薄着でいれば免疫力が上がるというのも医学的な根拠はありません。

 「クーラーをつけていると汗腺が発達しないから、体に悪い」という意見もありますが、体温調節機能が未熟な子どもは、暑い環境では熱中症の危険が大きいです。屋内でエアコンをつけていても、一日中部屋から出ないわけにはいきません。保育園の行き帰りや、エアコンが十分に利いていない部屋に行けば暑さを感じるはずで、そういった環境でも、エアコンを全くつけていない場合と比べ汗腺の数は変わらないという研究もあります。やはり子どもにとって、室温を適度に保ち、それに合わせて暑すぎず寒すぎないよう衣服を調節することが大事です。

 子どもは大人よりも平熱が高いから薄着にすべきという人もいますが、子どもは体が小さい分温まりやすく冷めやすいのです。大人よりもこまめな脱ぎ着が必要でしょう。

 大人が寒さを感じていたら子どもはもっと寒いので、重ね着をさせましょう。汗をかいていたら暑いのでしょうから、汗を拭いて脱がせます。肌着を着せたら冬は暖かく、夏は汗を吸ってくれていいと思いますが、いつも肌着を着せるべきという意味ではありません。絶対的な正解を探すよりも、お子さんをよく見た方がいいと思います。

 私も娘に寒い思いをさせてはいけないと考えて、カーディガンやジャンパーを着せて送り出すと、帰りには学校や学童保育に置いてきてしまうという経験が何度もあります。翌週に何日分もまとめて持ち帰るということがあったりしながらも、やはり自分でできない間は、保護者や周囲の大人が相応の衣服で調節することを気にしてあげたいです。

<アピタル:小児科医ママの大丈夫!子育て>

http://www.asahi.com/apital/column/daijobu/(アピタル・森戸やすみ)

アピタル・森戸やすみ

アピタル・森戸やすみ(もりと・やすみ) 小児科医

小児科専門医。1971年東京生まれ。1996年私立大学医学部卒。NICU勤務などを経て、現在はさくらが丘小児科クリニックに勤務。2人の女の子の母。著書に『小児科医ママの「育児の不安」解決BOOK』(内外出版)、共著に『赤ちゃんのしぐさ』(洋泉社)などがある。医療と育児をつなぐ活動をしている。