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 ホウレンソウ、美味しいですよね。おひたしにしてもベーコンと炒めてもいけます。

 ところがです。インターネットの情報によると、「ホウレンソウには『シュウ酸』という成分が多く含まれていて、食べ過ぎると尿路結石の原因になる。ただ、体に悪影響を及ぼすには、生で1kg毎日食べ続ける必要がある」とのこと。さて、この「毎日1kg」という情報は本当でしょうか。事実なら、尿路結石を心配することなくホウレンソウを食べることができます。

 情報が事実かどうか確認してみようとしました。しかし、「生で1kg以上食べなければ特に問題はない」などと書いてあるサイトはたくさんあるものの、その根拠となる書籍なり論文なりを提示しているサイトを見つけることはできませんでした。こうなれば自分で探すしかありません。医学論文を検索してみると「シュウ酸の摂取と腎結石のリスク」という論文がありました(この場合、腎結石と尿路結石はほぼ同じものと考えていいです)。アメリカ合衆国で行われた、10万人規模の男性医療従事者および女性看護師を対象にした大規模な研究です。

 食物摂取頻度調査を行ったところ、食事由来のシュウ酸のおおよそ40%がホウレンソウ由来でした。ホウレンソウ以外のシュウ酸摂取源は、ジャガイモ、シリアル食品、オレンジ、ミックスナッツ、コーヒーなどでした。腎結石のなりやすさを計算する際に、年齢の影響を補正するのは基本ですが、さらに肥満度、利尿薬使用の有無、シュウ酸以外の食事要因による補正もしました。というのも、たとえば、「肥満している人はホウレンソウを食べない傾向がある」かつ「肥満している人は腎結石になりやすい」といった場合に偏りが生じるからです。(多変量解析という方法によってそうした偏りを減らせます)。

 ホウレンソウをあまり食べない(月に1回未満)、普通(月に1~7回)、よく食べる(月に8回以上)で比べてみると、ホウレンソウの摂取は男性および高齢女性において腎結石と関連し、若年女性では関連しませんでした。ホウレンソウをあまり食べない群と比較して、月に8回以上食べる群では、男性では1.3倍、高齢女性では1.34倍、尿路結石を発症しやすかったのです。

 結果の解釈は難しいです。ここでの関連が因果関係を示しているとは限らないし、補正されていない未知の要因があるかもしれません。また、あくまでアメリカの医療従事者という特殊な集団から得られたデータで日本人にどこまで適応可能かわかりません。

 ただ、この研究以外のさまざまな研究も合わせて考えるに、ホウレンソウをたくさん食べると尿路結石になりやすいというのは概ね妥当だと考えます。少なくとも「生で1 kg毎日食べ続けない限り心配ない」という 主張は不適切です。誰かが根拠なく書いたものがコピーされているのでしょう。出典が明記されていない医学情報には注意が必要です。

 厳密には一次予防ではなく再発予防についての記述ですが、日本泌尿器科学会の『尿路結石症ガイドライン』(2013年版)によれば、「シュウ酸を多く含む食物として,葉菜類の野菜やお茶類などがある。尿路結石症予防の観点からは,シュウ酸の摂取を減らすことが重要である。その工夫として,ゆでることやカルシウムと一緒に摂取することがある」とあります。ホウレンソウは美味しいし栄養価も高いので尿路結石を恐れてまったく食べないというのも不合理です。シュウ酸を減らす工夫をしながら食べ過ぎない程度に食べるのが賢明だと思います。

 参考文献 Taylor EN and Curhan GC., Oxalate intake and the risk for nephrolithiasis., J Am Soc Nephrol. 2007 Jul;18(7):2198-204.

(アピタル・酒井健司)

アピタル・酒井健司

アピタル・酒井健司(さかい・けんじ) 内科医

1971年、福岡県生まれ。1996年九州大学医学部卒。九州大学第一内科入局。福岡市内の一般病院に内科医として勤務。趣味は読書と釣り。医療は奥が深いです。教科書や医学雑誌には、ちょっとした患者さんの疑問や不満などは書いていません。どうか教えてください。みなさんと一緒に考えるのが、このコラムの狙いです。