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【アピタル+】患者を生きる・野球ひじ(早期発見・治療)

 野球少年がひじの故障を抱えずに済むにはどうしたらいいのか――。医師や理学療法士らで作る「野球肘(ひじ)研究会」代表で、1980年代から超音波検査を行ってきた整形外科医の高原政利さん(60)が訴えるのは「早期発見と早期治療」の大切さ。「自分の体を守れない人に、大成した人はいない」と訴えている。

 ――野球ひじを防ぐにはどうすればいいのでしょう。

 予防の一番はいい準備だ。では、いい準備とは何か。いい体とフォームをつくること。そして、いい体とはよく走れて、バランス良く立てるということだ。そのためには下半身や体幹の力を基礎トレーニングで鍛えることが欠かせない。それでも、子どもの体ができあがるのは高校生の後半。その前は骨軟骨が弱いので、8割ぐらいで投げるのが本当はいいと思っている。

 けがの予防のため、現場の指導でやめてもらいたいことがある。まず「腕を振れ」とか「肩がいい」という言い方。球は腕で投げるのではなく、下半身や体幹の力を生かして全身で投げるのが基本だ。(元巨人の)桑田真澄投手もよく言っているが、腕は振るのではなくて体に振らされるもの。疲れてきた時に腕を無理に強く振ろうとすれば、けがのリスクが高まってしまう。それと「肩がいい」のは、体の筋力があるから。だから「おしりや体幹がいい」とか、「あいつは背中がぴたっと決まっている」という表現をした方がいいんじゃないか。

 ――他にも気をつけたほうがいいことはありますか。

 遠投はやめた方がいい。少年野球の遠投を見ていると、フォームが乱れて力まかせに腕を振っている。より遠く、より速くを求められてのことだと思うが、これはけがにつながる。よく球数制限の話しになるが、おかしなフォームで力まかせに投げれば、1球だけでもけがをすることがあることを指導者には知ってもらいたい。

 ――けがをしにくいフォームとはどういうものでしょうか。

 右投げの投手だと、まず体重を右足の軸足にしっかり載せる。そこからいわゆる「ヒップファースト」でお尻から前に向かって踏み出していく。さらに、踏み出した左足はつま先を捕手に向けて接地する。つま先を前に向けないと、お尻をしっかり回転させることができず、腕だけを振って投げることにつながってしまう。腕はなるべくテイクバックを小さくして、球をリリースする時は、腕だけを前に出していくのではなく、しっかり肩甲骨を前に出して投げて欲しい。そうすると腕が振られるようになる。

 これらを実現するには、下半身と肩甲骨の動きの柔らかさと強さが必要だ。ダッシュやスクワットで下半身を鍛える。同時に肩甲骨を前に出す体操や体側のストレッチも必要になる。

 ――けがをした選手にフォームの重要性をどのように伝えていますか?

 負傷して投げられない数カ月が勝負です。走る力と体幹を鍛えること。そして、いざ投げる時には8割くらいのリラックスした感じで、いい球が投げられるようになることを伝える。無理して腕を頑張らなくてもいい、脚からの連動でうまく投げられることを面白いと思えるようになればいい。そして何よりも、慌てるなよ、と。若い選手はみんな「これからの人」なので。

写真・図版

 ――野球ひじの問題に以前から取り組まれていましたね。

 初めて超音波検査したのは1988年。北海道大学にいた時に、ひじを痛めて受診する子どもたちが多く、札幌の野球少年を集めて超音波検査をした。すると、ひじの外側の軟骨がはがれる「離断性骨軟骨炎」の子が3人見つかった。それで「これは使えるぞ」と。

 そのうちの一人は、道大会で勝っているチームのエースで、お母さんに「これ治療しないと大変ですよ」と伝えたら、監督さんからめちゃくちゃ怒られた。お母さんも「この子はいま輝いている。治療しない」と言ってきた。まだ早期発見に対する理解は低かった。

 ――現在、保護者たちの意識は変わりましたか。

 当時に比べれば、意識も非常に高まっていると思う。早い段階で病院にくるようになった。指導現場での超音波検査による健診もずいぶん広まってきて、「早期発見」と「早期健診」が可能な状態にはなっていると思う。若い選手に言いたいのは、自分の体を自分で守れない人で、大成した人はいない、ということ。仮にいったんけがをして、再発を防げるのは自分しかいない。予防は自分次第。保護者や指導者の理解もさらに高めて、故障をきっかけに野球が嫌いになる若者を減らしていければと思う。

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<アピタル:患者を生きる・スポーツ>

http://www.asahi.com/apital/special/ikiru/(聞き手・野瀬輝彦