シリーズ:トピック
鶏レバ刺しに潜む危険 本場で起きたルール変更とは
「レバ刺しは、やはりリスクが高すぎるのか」と感じさせるニュースが入ってきました。
5月末、鹿児島県は、県独自のガイドライン「生食用食鳥肉の衛生基準」を改訂し、対象から肝臓と砂ずり(砂肝)を外しました。
鹿児島には、鶏肉の表面を火であぶって食べる「鶏たたき」という郷土料理があります。鶏刺しとも呼ばれ、スーパーにもパックがずらりと並ぶほど、地元に根付いています。
県は2000年に「鶏刺しの文化がある鹿児島では、安全確保のために衛生基準が必要」として独自の生食用鶏肉ガイドラインを制定しました。カンピロバクターなどの細菌を陰性とする成分規格、「肉の表面を焼いて殺菌する」といった食鳥処理場での加工方法、飲食店の調理で守るべき手順、保存、表示といった目標基準を示し、関係業者を指導してきました。
これまでは、肉のほかに肝臓、砂ずりも対象に含まれ、処理の方法も指示されていたのですが、今回、内臓などの副生物を対象から外し、基準の対象を鶏の肉のみに絞ったのです。
改訂の理由は、「肝臓からのカンピロバクター検出率が高く、現状では微生物コントロールが困難で生食の安全性が担保できない」ため。県の担当者は「調査したほとんどの鶏の肝臓から、カンピロバクターが検出された」と話します。
カンピロバクターは鶏の腸管に生息する細菌で、食肉処理の際に腸管が破れるなどして、特に内臓肉を汚染しやすい。肉は制御できても、レバーなどの内臓は無理、ということなのでしょう。
基準はあくまで県独自のガイドラインで、「鶏レバ刺し禁止」という法的な強制力があるわけではありませんが、県は飲食店などにレバ刺しをメニューで出さないよう、指導していくとのことでした。
そもそも、肉の生食は食品衛生法による規制があります。牛肉には生食用の規格基準が設定されていて、これを満たした場合に限りユッケなどの生食が可能ですが、牛のレバー、そして豚は肉もレバーも、食品衛生法で生食用の販売は禁じられています。
鶏肉については内臓肉も含めて、食品衛生法に基づく規制は現在のところはないものの、生食用の規格基準もありません。鹿児島のほか宮崎県で独自のガイドラインを作っていますが、これらはあくまで例外。全国的には、流通する鶏肉は加工用というのが実態です。いかに新鮮でも、生で食べる前提ではないのです。
ところが、生や生焼けの鶏肉によるカンピロバクターの食中毒が多発しており、昨年の食中毒では最多原因です。多くのケースで鶏刺しが問題となっているのです。厚生労働省の集計によると、昨年4月から12月までに発生し詳しく分析できたカンピロバクター食中毒133件のうち、約半数が、加熱用と表示されているのに、生または加熱不十分で提供していました。
厚労省は加熱用鶏肉を使った生食に対する対策を強めつつあります。今年3月、鶏肉が加熱用であると知りつつ生食メニューを出して食中毒を繰り返し発生させるなど悪質な飲食店には、食品衛生法違反で告発するよう全国の自治体に通知を出しました。
カンピロバクターに感染すると、下痢、腹痛、吐き気などの症状が現れます。亡くなる事例はまれですが、時に、手足のまひや呼吸困難などを起こす「ギラン・バレー症候群」につながる場合があります。
何をどう食べるかは、本来、その人自身が決めることだと思います。ただ、何げなく注文した鶏刺しで苦しむことのないよう、どうぞ慎重に。レバーは、煮たり焼いたりしておいしくいただきましょうよ。
<アピタル:食のおしゃべり・トピック>
http://www.asahi.com/apital/healthguide/eat/
(大村美香)
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- 大村美香(おおむら・みか)朝日新聞記者
- 1991年4月朝日新聞社に入り、盛岡、千葉総局を経て96年4月に東京本社学芸部(家庭面担当、現在の生活面にあたる)。組織変更で所属部の名称がその後何回か変わるが、主に食の分野を取材。10年4月から16年4月まで編集委員(食・農担当)。共著に「あした何を食べますか?」(03年・朝日新聞社刊)