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 想像してみて下さい。友人が今の仕事をやめようか、どうしようかと悩んでいたとします。みなさんは、一生懸命自分なりのアドバイスをしたとしましょう。なのに、友人が「でも」「だって」と、煮え切れない態度をとっていたとしたらどのような気持ちになりますか。

 大きな決断なのだから、そうすぐには決められないと頭ではわかりつつも、こんな調子が数回続けば、「ねえ、いい加減、どっちなのよ」とイライラした気持ちになりませんか?

 でも、立場が変わるとどうでしょう。

 この仕事は、自分に向いているのか、向いていないのか。

 この人は、敵なのか、味方なのか。

 彼は本気なのか、遊びなのか。

 あのときのあのひと言は、本音だったのか、嘘だったのか。

 この恋愛は、終わらせた方がいいのか、続けてもいいのか。

 このような問いを立てたことは、誰にでも一度はあるはずです。私たちは時に、どちらとも答えの出にくい問いを自分に向けて悩んだり、極端な結論を出してしまったりすることがあります。今回は、ものごとに白黒つけたくなる心理について考えます。

 

 前置きが長くなりましたが、このコラムでは、仕事でミスばかりつづき、友人や恋人との関係もうまくいかず、「生きるのがつらい」と感じている架空の女性・リョウさん(30代前半・独り暮らし)をモデルに、大人のADHDの方が遭遇しがちな対人関係の悩みとの向き合い方を紹介しています。リョウさんは、他にも女性の影があるような男性といわゆる「二番目の女」としてつきあっていますが、最近、全くリョウさんの好みでない別の男性から追いかけられることになりました。はじめはわくわくしたリョウさんですが、次第に悲しい気持ちになって、次のように考えていたのでしたね。

 リョウ 「追いかけられながら結婚した方が女性は幸せなのかな。でもそんな人生いやだ。そんなに好きでもない人と妥協しながら結婚していくことが、幸せとは思えない」

 恋愛は追うより追われる方が幸せなのか? 煮詰まったリョウさんは女友達に相談しました。学生時代からの友人で、2年前に結婚したミズホさんです。ミズホさんとは、これまでにもいろんな恋愛の相談をし合って、助け合ってきました。ですから、お互いの恋愛傾向は知り尽くしている仲です。ミズホさんが結婚してからは、なかなか飲みに誘いづらくなっていましたので、1年ぶりにリョウさんはミズホさんを食事に誘って話を聞いてもらいました。

 ミズホ 「えー、んじゃ別れたらいいよ。だって、そんな他に女がいるかもしれない人と結婚なんかしたら、苦労するよ」

 ミズホさんは続けて、結婚生活はいかに大変か、恋愛の段階でそれだけつまずく人とは生活なんて絶対無理、と話を展開していきます。

 リョウ 「でも好きなんだよね、彼のこと。1人になる勇気もないし・・・でも自分が求めるようには愛してもらえてないし。やっぱりここは、少し我慢してでも、追ってくれる人の方がいいのかな」

 リョウさんがそう言い終わらないうちに、ミズホさんはかぶせるように言いました。

 ミズホ 「えー、じゃあ、その追ってくれる男性ともつきあってみたら?つきあってみないとわかんないじゃない。今の彼氏と追ってくれてる人と両方とつきあってみてから決めてもいいんじゃない?まだ結婚してないんだし、全然ありでしょう!」

 リョウ 「いや、そんなことできないよ・・・」

 ミズホ 「リョウってさ、どっちつかずなんだよ。そんなに悩むくらいの男ばかりなら、もういっそ男なんていらないって決めてしまえばいいのに。それか、その人に例え他に女性がいようと、傷つこうと、結婚できなかろうと、大好き!って突き進むかよ。どっちつかずでもやもやしてるのみると、なんか腹立ってくる」

 大切な人のどっちつかずの状況は、聞いているこちらにもストレスがたまります。どっちかにしてよ!と言いたくなります。それに、リョウさんがこれまでも恋愛で悩んだり傷ついたり苦しんだりしてきているのをみてきたミズホさんからすると、とても歯がゆいし、悔しいのです。

 リョウ 「そんな・・・そんなの無理」

 そう言うので精一杯でした。どうして先に結婚したってだけで、上から目線で言われなきゃならないんだろう。この年齢でこんなふうに悩むのは子どもじみてるの?ミズホさんがリョウさんを思うからこそ腹を立てていたとしても、そこまで言われる筋合いはないという怒りもありました。

 

写真・図版

 

 なんとも後味の悪い食事の帰り道で、リョウさんはずっとミズホさんとのやりとりについて考えていました。ひとりで夜の生暖かい風にふかれていると、少し冷静になったのです。

 リョウ 「ミズホは私にどっちかはっきりしろっていうけど、そんなに恋愛って割り切れるもんじゃないし。男性とか結婚とかを考えずに生きて行くのか、それとも後先を考えずに恋に突き進むのかなんて、極端過ぎる。実際だれだって、その合間をうろうろしているもんよ。そういう人間の弱さというか、グレーの部分ってミズホみたいな強い人間にはわからないのかな」

 ここまで考えて、リョウさんは別の見方に気づきました。

 リョウ 「でもまって。そもそも私の相談事だって、"追われる方が幸せなのか?そうでないのか?"というどっちかはっきりした答えを求めたものだった。私の方こそ、グレーではなく、白か黒かをはっきりさせたがっていたのよね」

 そうです。実はリョウさんもミズホさんも、同じようにこの混沌として発展しない恋愛の状況に、嫌気がさして、はっきりさせたがっていたのです。ふたりが同じ気持ちでいたというのに、すれ違ってしまったことは残念です。ふたりともが、「白か黒かはっきりしたい」と願っていたはずなのに。

 

 白か黒かはっきりさせた方がいいのか、グレーがいいのか。

 それをここでは論じませんが、少なくとも、はっきりさせたくなっている心理的な背景についてはこんなふうに言えます。

 <グレーという曖昧で、処理が複雑で疲労したり、不安を喚起したりする対象に対処するほどのエネルギーが不足している>

 

 2択で答えを出そうとするような問いは、だいたい人生に迷ったときに出てくるものです。うまくいっているときには、考えもしなくていいことなのかもしれません。

 自分に余裕のあるときには「まあいいか」(グレー)と許せる相手の遅刻も、疲れているときには、「遅刻なんてどうしても許せない!」(白か黒か)と腹が立つという経験が、みなさんにもありませんか?

 

 リョウさんは、もしかするといつもの健康な自分なら耐えれるほどのグレーの曖昧さにも耐えられないほど、今、すごく疲れているのかもしれません。

 とすれば、もしかすると、「追いかけられる方が幸せなのか、どうなのか」などの白か黒かをはっきりさせる問いを考える前に、すでにこれほど疲れているということが、何よりの結論なのでないか?とも考えることができます。

 つまり、追うとか追われるとかの問題ではなく、リョウさんは今の恋愛で疲れている。この先はまだわからないけれど、少なくとも今のつき合い方では、自分がつらいのでしょう。関係を変化させていく(別れも含めて)必要があることだけは確かです。

 いつもの健康なリョウさんが「二番目の女」というグレーな状況に耐えられていた、というと不自然に聞こえるかもしれません。普通なら、多くの人は自尊心をもって、二番目の女に甘んじないようにしますし、もし意図せずそんな関係になってもすぐに抜け出せるのかもしれません。

 しかし、ADHDの中でも、仕事や対人関係で失敗が続いて自分を責めてばかり、というリョウさんのような方は、「この人を二番目として粗末に扱ってもよい」と相手から思われやすく、本人も「私はその程度の人間だ」と思い込んでいるため、二番目の女のような状態に陥りやすく、一旦陥るとそこから抜け出しにくいこともあるのです。

 リョウさんは、今やっと、自分がどちらかに決めたいことの背景にあった「この状況に疲れている」ことについて気づかされました。そしてそれも踏まえて恋愛問題を考え直すことにしました。このお話は次回へ続きます。

 

<お知らせ> ネットでADHDのお悩みを相談できます

 このコラムの筆者の中島が、北九州市にある精神科クリニック「かなめクリニック」にて、今年3月からADHDのオンライン診療を担当することになりました。診断の有無にかかわらず、ADHDの症状でお困りの方を対象に、インターネットを用いて認知行動療法などのカウンセリングを行います。ご家族からの相談も受け付けます。みなさまのご相談をお待ちしております。

 ※要予約・有料で、自費診療となります。すでに医療機関にかかっていて、主治医や担当カウンセラーのいる方は、許可を得た上でお申し込みください。

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<アピタル:上手に悩むとラクになる・生きるのがつらい女性のADHD>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/nayamu/(アピタル・中島美鈴)

アピタル・中島美鈴

アピタル・中島美鈴(なかしま・みすず) 臨床心理士

1978年生まれ、福岡在住の臨床心理士。専門は認知行動療法。肥前精神医療センター、東京大学大学院総合文化研究科、福岡大学人文学部、福岡県職員相談室などを経て、現在は九州大学大学院人間環境学府にて成人ADHDの集団認知行動療法の研究に携わる。他に、福岡保護観察所、福岡少年院などで薬物依存や性犯罪者の集団認知行動療法のスーパーヴァイザーを務める。