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 新たにがんと診断される人のうち、約3分の1を働く世代が占めるなか、がんの治療と仕事の両立支援は重要な課題だ。国が支援に力を入れ始め、独自の取り組みをする企業も出ている。患者が自身の状況を適切に伝え、雇う側と交渉することも大切だ。

独自の制度活用、柔軟な働き方

 電機メーカー、富士通(東京都)のシステムエンジニア、高橋康一さん(50)は2011年3月、進行した状態の大腸がんが見つかった。

 4月に2週間ほど入院。手術を受けて5月に職場復帰した。14年9月に再発しまた手術。約2カ月、休職した。復帰時は産業医や人事部、上司らと面談し、軽めの作業からスタート。残業や出張はせず、1カ月ごとに産業医らと面談して制限を緩めていった。

 手術後はいずれも半年間、2週間に1回、有給休暇を使い抗がん剤治療を受けた。副作用のピークが週末になるように治療日を調整した。

 その後3回、リンパ節への転移が見つかり、計約5カ月半休職した。治療には有給休暇のほか、年に最大20日間の社独自の「積立休暇」を使った。産業医や看護師、心理カウンセラーらのいる健康支援室が事業所ごとにあり、不安な点はその都度相談した。治療は今も続いているが、残業や出張の制限なく働いている。

 高橋さんは「会社の制度をうまく使えば、がんになっても仕事が続けられると実感した」と話す。

 大和証券グループ本社(東京都)は17年度、残業の免除や制限を受けられる対象をがんの治療を受ける社員にも広げた。体調不良や、胃の切除後で食事を複数回に分けてとる必要がある場合や、人工肛門(こうもん)の手入れなど、1日1時間まで自由に休憩が取れる「治療サポート時間」も設けた。

 同社はこうした制度や社内の相談窓口をまとめた資料を作り、社内ネットで公開している。同社健康経営推進課長の安藤宣弘さんは「ベテラン社員の増加でがんになる社員も今後増えるだろう。病気になっても経験のある社員が活躍することで生産性が高まり、会社にも利益がある」と話す。

 医療機器などを製造販売するテルモ(同)は、2年間使わずに失効してしまった有給休暇のうち、過去3年間分について、年間最大で20日間、病気や育児、介護の際に使える。1週間単位でとるのが原則だが、がんの診断を受けた社員は、1日単位で利用できる。

配慮あれば復職できる人多数

 がんの治療と仕事の両立を支援する環境は少しずつ整ってきた。2012年度からの国の指針「第2期がん対策推進基本計画」の重点的課題に、「働く世代へのがん対策の充実」が加わった。13年度に国が「がん患者の就労に関する総合支援事業」を開始。がん診療連携拠点病院のがん相談支援センターへの社会保険労務士や産業カウンセラーの配置、ハローワークとの連携が進んできた。

 16年には、厚生労働省が両立支援のガイドラインを公表した。時短勤務や病気休暇などを企業に促す内容だ。同年成立の改正がん対策基本法は、がん患者の雇用を続けることへの配慮や対策をとることを企業の努力義務とした。

 今年4月の診療報酬改定では、患者の主治医と勤め先企業の産業医の連携に報酬が新設された。主治医が患者の同意を得て病状や治療計画を産業医に文書で伝える。それを受けた産業医からの助言を受け、治療計画の見直しなどをすると、病院側は報酬をもらえる。

 16年の厚労省の調査によると、仕事をしながら通院するがん患者は36・5万人。一方、13年の県立静岡がんセンターなどの調査では、がんの診断後に離職した人は約3割にのぼる。別の厚労省研究班の15年の調査では、がんと診断されて仕事を辞めた人のうち、約4割は治療が始まる前に辞めていた。

 順天堂大の遠藤源樹准教授(公衆衛生学)らが大企業に勤めるがん患者1278人を調べたところ、休職してから時短勤務ができるようになるまで平均80日、フルタイム勤務ができるまで201日かかっていた。

 遠藤さんは「復職当初に時短勤務や軽めの作業にあたれるようにするなどの配慮があれば、がんになっても多くの人は働き続けることができる」と指摘。「がんと診断されてもすぐに仕事を辞めず、会社の就業規則や支援制度をよく確認してほしい」と話す。

状況伝え、サポート引き出す

 がん患者と、医師や企業との橋渡し役となるのが、全国のがん診療連携拠点病院にあるがん相談支援センターだ。社会福祉士や看護師らが就労相談にものる。

 大阪国際がんセンター(大阪市中央区)のがん相談支援センターでは、大阪府社会保険労務士会と連携し、社労士の助言を受けながら患者の支援にあたっている。センターの社会福祉士、池山晴人さんは「まだ『仕事のことを相談してもいいんですか』という患者さんも多い。遠慮せずに相談してほしい」と話す。

 また、中小企業には産業医がいないところが少なくない。「多くの患者さんが直接、企業側と対話をする必要がある。病院と企業が情報交換をする機会は少ない」と池山さん。大企業に比べて経営余力や人員が限られ、がんなどの病気になって休職した社員を雇い続けるのが難しい面もある。

 国立がん研究センターの高橋都・がんサバイバーシップ支援部長は「ガイドラインや制度などの枠組みができ、治療と仕事の両立について特に企業の問題意識が高まってきた」と評価。そのうえで、「中小企業も経営者の意識で風土ががらっと変わることがある。企業への助成や休職した人の社会保障の負担を免除するなどの政策的な配慮も必要ではないか」と指摘する。

 患者への助言としては「仕事を続けたいと思うなら、自分の状況を会社にうまく伝えて、支援や配慮を引き出す交渉力も必要だ」と話す。(土肥修一)

(がんインタビュー)ゲノム解析 多大なデータから新薬や予防 国立がん研究センター研究所がんゲノミクス研究分野長・柴田龍弘さん

 がん細胞のゲノム(全遺伝情報)を解析する研究成果で国際的にも注目されている、国立がん研究センター研究所がんゲノミクス研究分野長の柴田龍弘さん(52)に、研究の目的や進展について聞きました。

 がん細胞のどこにどんな遺伝子の異常が起こっているのか。「次世代シークエンサー」などの装置を使って、ゲノムから調べる研究をしています。

 この研究の一番の目的は、がんの治療につなげること。患者さんから提供されたがん組織の一部を使い、肝臓がんでは世界最大のサンプル数を解析し、がんの発症に関わる遺伝子を多数見つけました。また、胆道がんの原因となる遺伝子の異常を我々が新たに見つけたことで、日本の製薬会社が治療薬を開発し、いま臨床試験が進んでいます。

 もう一つの目的は、がんの予防です。がんに起きているゲノムの異常には、いろいろなパターンがあることがわかってきました。この特徴とがんの原因には、密接な関係があります。たばこや紫外線などはがんの原因になりますが、それ以外にも発がん物質が見つかればがんの予防につながると考えています。

 「患者さんの役に立つ研究がしたい」という思いで研究しています。次の対象は、難治がんの代表である膵臓(すいぞう)がん。日本人のデータを集める準備をしています。(佐藤建仁)

     *

 1965年北海道生まれ。90年東京大医学部卒、2010年に現職、14年から東京大医科学研究所教授兼務。がんゲノムを解読する「国際がんゲノムコンソーシアム」の国内グループを率いる。

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 インタビューの詳報は、朝日新聞デジタルの「がんとともに」(http://www.asahi.com/special/nextribbon/)で読めます。

 ◆告知板

免疫ふしぎ未来2018

 日本免疫学会は8月5日午前10時~午後5時、東京都江東区の日本科学未来館で免疫のイベントを開く。免疫は、がんや感染症から体を守ってくれる。その仕組みや最先端の治療法を研究者が解説する。観察・体験エリアでは、iPS細胞からつくった拍動する心筋細胞を観察したり、細胞からDNAを取り出したり、免疫細胞の標本をつくったりできる。はしかにはなぜ2度かからないのか、免疫細胞はいつどこでつくられるのかなどを解説するパネル展示もある。入場無料。問い合わせは同学会事務局(03・5809・2019)。

ジャパンキャンサーフォーラム2018

 認定NPO法人「キャンサーネットジャパン」は8月11日正午~午後6時半と12日午前10時~午後6時半、東京都中央区の国立がん研究センター築地キャンパス新研究棟で、がん治療の最新情報を伝えるセミナーを開く。大腸がんや胃がん、乳がんや肺がんなどについて専門医が講演。がん免疫療法やがんゲノム医療、がんと就労などをテーマにしたセミナーもある。参加無料だが、一部のセミナーはウェブ(https://www.japancancerforum.jp/別ウインドウで開きます)から予約が必要。

がんの市民公開講座

 日本癌(がん)学会は9月29日午後3時半~5時50分、大阪市北区のコングレコンベンションセンターで市民公開講座を開く。参加無料。定員1千人。がん研究に携わる医師が、個別化医療や免疫療法、がん治療薬の開発をテーマに講演する。参加希望者は氏名、住所、年齢、職業、電話番号、同伴者、質問を書いて事務局までファクス(06・6229・2556)か、メール(jca2018-shimin@congre.co.jp)などで申し込む。

 ◇次回の掲載は10月の予定です。

<アピタル:がん新時代・がんと仕事>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/gan