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 楽しかった食事会もそろそろお開き。テーブルの上には、まだお刺し身が残っている。ああ、もったいない。誰か食べない?……よくある光景です。

 「そんな時の刺し身はあまり食べない方がいいと、学生に話しています」。山本茂貴・内閣府食品安全委員会委員が、講演中にふともらした一言が気になりました。先日開かれた食品安全委員会による報道関係者との意見交換会でのことです。食中毒の観点からすると、食品に付いている細菌が増殖するから、と言うのですが、宴会なんて、せいぜい2時間あまり。そんなに増えるものなのかなあ、調べてみました。

 食中毒を起こす細菌は各種あります。重い症状を起こしやすく時に死亡者を出す腸管出血性大腸菌O157は、室温だと15分から20分で2倍に増える、と厚生労働省のサイトにありました(※1 文末にURL)。そのほか、主な食中毒細菌の増殖速度は以下の通りです。

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 この中で最も増える速度が早い腸炎ビブリオは海水にいる細菌で、魚介類を汚染することがあります。低温では増殖できず、加熱すれば死滅しますが、刺し身などでよくある食中毒で、発症菌数は10万以上とされます(※2)。予防のため、厚労省は、生で食べる魚介類の成分規格を規定しており、定められた測定法に基づく算出菌数が1グラムあたり100以下でなければならないとしています。

 では、例えばハマチの刺し身1切れ(20グラムとしましょう)が、2時間食卓の上に置いたままになると、腸炎ビブリオはどこまで増えるのか。計算してみました。食卓に出された時は、刺し身1グラムあたりの細菌数は100個で、成分規格をクリアしていると想定します。

 最初、刺し身1切れに付いていた菌数は2000個。9分後に4000個、18分後に8000個……倍々に増えていき、およそ2時間たった117分後には、1638万4千個に。10万個を軽く超え、8千倍以上に増殖してしまう計算結果でした。

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 やはり室温に生ものを置いておくと、軽視できない影響を引き起こすようです。この他、腸管出血性大腸菌やカンピロバクター、サルモネラは、腸炎ビブリオほど増殖速度は速くないものの、これらの細菌は菌数が少なくても食中毒を引き起こすので、さらに注意が必要です。

 またもう1点、2時間放置したからといって、刺し身は異臭を放つわけでも見かけが怪しくなるわけでもない。食品自体の味や見た目は変わらずとも、細菌は繁殖してしまっていて食中毒を起こす可能性に改めて気付かされました。「五感をフル稼働で危険を回避」は、この場合は通用しません。

 一人ひとりができる対策は、簡単。出された料理はすぐにおいしくいただくことだと思います。気温、湿度が高い夏場は特に。いま評判のチコちゃんなら、「ボーっと放置するんじゃねえよ!」と叱るところでしょうか。今年はことのほか厳しい暑さが続きます。あと1カ月以上夏だなんて……! どうぞ体に気をつけて、お食事を召し上がってくださいませ。

<関連リンク>

(※1)O157(腸管出血性大腸菌)Q&A

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000177609.html別ウインドウで開きます

(※2)腸炎ビブリオとは

http://www.fsc.go.jp/sonota/hazard/H21_17.pdf別ウインドウで開きます

 

<アピタル:食のおしゃべり・トピック>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/eat/

(大村美香)

大村美香

大村美香(おおむら・みか) 朝日新聞記者

1991年4月朝日新聞社に入り、盛岡、千葉総局を経て96年4月に東京本社学芸部(家庭面担当、現在の生活面にあたる)。組織変更で所属部の名称がその後何回か変わるが、主に食の分野を取材。10年4月から16年4月まで編集委員(食・農担当)。共著に「あした何を食べますか?」(03年・朝日新聞社刊)