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 前回、がん検診として最も有効な検査法である大腸がんの「便潜血検査」について書きました。便潜血検査による大腸がん検診は大腸がん死を減少させます。がん検診として唯一、5段階ある推奨グレードで最上位の「A」として強く推奨されています。ただ、便潜血による大腸がん検診には欠点もあります。たとえば「偽陽性」といって、本当は大腸がんではないのに便潜血が陽性になることがあります。

 報告によっても差はありますが、国立がん研究センターのウェブサイトにある「科学的根拠に基づくがん検診推進のページ」の「がん検診Q&A」によれば、便潜血検査を受けた人の約7%が陽性になるものの、実際に大腸がんと診断されるのは0.1~0.2%です。ポイントは便潜血が陽性で要精密検査と言われた人でも大半は大腸がんではない、とことです。

 また、大腸がんがいつも出血しているわけではありませんし、出血していても検査のために採取した部分に血液が含まれていないと、本当は大腸がんなのに便潜血検査で陰性に出てしまいます。「偽陰性」と言います。毎年の便潜血検査で約8割の大腸がんを見つけることができると言いますから、逆に言えば2割は見落とされることがありうるわけです。

 ならば、便潜血検査をせず、最初から精度の高い検査をするというのはどうでしょう。具体的には全大腸内視鏡、お尻から内視鏡を入れて大腸を全部観察するという方法です。米国予防医学専門委員会(USPSTF)は、大腸がん検診として、50歳から75歳までは、便潜血検査以外にも全大腸内視鏡も推奨しています。一方で日本では大腸がん検診としての全大腸内視鏡検査は、推奨グレードで5段階中の3番目にあたる「C」です。がん検診Q&Aから引用します。

 【確かに大腸の内視鏡検査は正確です。しかしながら欠点としては、(1)大腸を空にするため(前処置)に時間がかかる、(2)一度に大勢の検査ができない、(3)検査のできる医師がまだ多くない、(4)検査に伴う事故(大腸からの出血や大腸に穴があくこと)の危険性があることが挙げられます。従って、住民検診では推奨していません。一方で人間ドック等では、これらの危険性等について十分に説明し受診者の同意を得た上であれば実施が許されます。市町村の大腸がんの検診としてはまず便潜血検査を行い、便潜血陽性であれば内視鏡検査を行うことをお勧めします】

 便潜血検査よりも全大腸内視鏡検査のほうが精度が高い一方で、手間がかかり一定のリスクがあります。内視鏡検査の精度の高さがどれぐらい大腸がん死減少に寄与しているかは、正確にはわかっていないようです。「精度が高いんだから推奨してもいいだろう」というのが米国の立場で、「リスクに見合うだけの利益があるとは限らない」というのが日本の立場なのでしょう。どちらが正しいとか間違っているとかではなく、考え方の違いです。

 2017年に発表された研究では、「ネットワークメタ解析」という手法で全大腸内視鏡が大腸がん死を減らすのにもっとも有効であることが示唆されましたが、通常のメタ解析では、検診なしと比較して、便潜血検査(免疫法)は大腸がん死を59%減らし、全大腸内視鏡検査は61%減らす、という結果でした。それほど差はないように私には思えます。ただし、ランダム化比較試験ではない研究を多数含んでいますし、日本以外の研究が主ですので、日本人に当てはめるのには慎重になったほうがいいでしょう。

 日本で「全大腸内視鏡による大腸がん検診の有効性を便潜血検査と比較して検証すること」を目的とした臨床試験が進行中です(UMIN000001980)。ランダム化比較試験という質の高い研究ですが、質が高いだけでなく、「大腸がん検診は便潜血検査がいいのか、それとも大腸内視鏡がいいのか」という臨床的疑問に答える優れた研究だと思います。この試験の結果が出れば、より正確に内視鏡の効果やリスクが評価できます。

 現時点では、面倒な検査をしてでも大腸がんで死ぬリスクをほんの少しでも下げたい場合に限り内視鏡、そこまででもないなら便潜血検査を選択するのが良いでしょう。便潜血検査はできれば毎年受けて、陽性と言われたら怖がらずに精密検査を受けてください。大腸がんの既往があったり、血縁者に大腸がんが多かったり、便秘や血便といった症状があるときは、個別に医師にご相談してください。

 ※参考「科学的根拠に基づくがん検診推進のページ」(http://canscreen.ncc.go.jp/index.html別ウインドウで開きます

《酒井健司さんの連載が本になりました》

これまでの連載から80回分を収録「医心電信―よりよい医師患者関係のために」(医学と看護社、2138円)。https://goo.gl/WkBx2i別ウインドウで開きます

<アピタル:内科医・酒井健司の医心電信・その他>

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アピタル・酒井健司

アピタル・酒井健司(さかい・けんじ) 内科医

1971年、福岡県生まれ。1996年九州大学医学部卒。九州大学第一内科入局。福岡市内の一般病院に内科医として勤務。趣味は読書と釣り。医療は奥が深いです。教科書や医学雑誌には、ちょっとした患者さんの疑問や不満などは書いていません。どうか教えてください。みなさんと一緒に考えるのが、このコラムの狙いです。