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 子どもの間でビタミンD欠乏症が増えていることをご存じでしょうか。ビタミンD欠乏症は、骨の発育不良を起こし、O脚や背中が曲がる「くる病」の引き金にもなります。背景には、行き過ぎた紫外線対策があるとの指摘があり、日差しが強いこの時期、子育て中の方々には気になる話ではないでしょうか。日焼け対策にも関わるビタミンD欠乏症について取材しました。

まったく戸外にでなかった1歳児

 大阪府内に住む女性(40)は、昨年1月、ちょうど1歳になる娘がビタミンD欠乏症と診断されて驚いた。10カ月健診で精密な検査を求められ、大阪大病院で診察を受けた結果、わかった。「少しO脚気味だったので、気にはしていたのですが、まさかそんな状態だとは思わなかった」という。

 ビタミンDは皮膚に紫外線があたって、そこで別の物質から合成される。腸管のカルシウムの吸収や骨の沈着を促すことで、子どもの発育に密接に関係している。

 女性は、上の子の病気のため、娘を祖父母にずっと預けていた。祖父母が作る離乳食はおかゆなどが主体で、ビタミンDが豊富な卵などを避けていたうえ、風邪などを心配してまったく戸外に出していなかった。「ビタミンDのことなど知らなかった」と母親は振り返る。医師の指導で、ビタミンDを補充するサプリメントを取るようにして、欠乏症から脱したという。

 患者の治療にも当たっている大阪大病院の大薗恵一教授(小児科)は「治療は天然型や活性型ビタミンDの服用が柱になる。うまく立てなかったり、歩き方がおかしかったりなどの症状で1歳ぐらいに気づくことが多い。骨の変形は半年から1年ぐらいで治る」と話す。

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5年間で子どもの患者3倍以上に

 ビタミンD欠乏症の子どもが増えていることを示すデータがある。東京大の北中幸子准教授(小児科)や小林廉毅教授(公衆衛生学)らが公的医療保険の収載データをもとに分析した。すると、ビタミンD欠乏症と診断された1~15歳の子どもの割合が、2009年の10万人あたり3・88から、10年に6・05、11年には8・02と右肩上がりで上昇。2014年には12・30と5年間で3倍以上の増加を示した。

 また、大阪市立総合医療センター小児代謝・内分泌内科の依藤(よりふじ)亨部長らの調査によると、2006年に生まれた約1100人の新生児を対象に頭蓋骨(ずがいこつ)を調べたところ、指で軽く押してみるとピンポン球のようにへこむ状態の「頭蓋(ずがい)ろう」という症状が約2割に認められた。ビタミンD欠乏症によって起きたとみられる。

 患者の赤ちゃんが生まれた時期を見ると、5月生まれの子どもの約3割に症状が見られたが、11月生まれでは1割にとどまった。5月生まれの場合、妊娠中に浴びる太陽光の不足が原因の可能性があるという。依藤さんらは、血中のビタミンDの量も調べた。その結果、母乳で育つ赤ちゃんのほとんどが欠乏状態だったが、ビタミンDが豊富な人工、混合栄養ではほぼ全員が正常だったという。

 東京大の北中幸子准教授は、子どもに増えている理由に、過度な紫外線防止対策と、不適切な食事制限を挙げる。最近は、外出を控え、日焼け止めなどで完全にシャットアウトされ、合成の機会が乏しくなっている子どもも少なくないという。ビタミンDは食物からもとれるが、アレルギーなどを恐れる余り、ビタミンDを豊富に含む、魚や卵、キノコなどの摂取を避けている場合もあるという。

ビタミンDどう摂取

 では、ビタミンDをどのように摂取すればいいのだろう。

 国立環境研究所は、1日に必要なビタミンD量とされる15マイクログラムのうち、食事以外での摂取量の目安を10マイクログラムと仮定。それを紫外線を浴びて合成しようとした場合に必要な日光浴の時間を算定しウェブで公開している。(http://db.cger.nies.go.jp/dataset/uv_vitaminD/ja/別ウインドウで開きます

 それによると、12月の場合、沖縄では長袖長ズボン姿で30分いることで足りるが、北海道・札幌では4時間戸外にいなければならない。一方で、8月の真夏の場合には、半袖半ズボン姿で札幌でも5分で足りて、それ以上は過剰に浴びることになる。

 ひふのクリニック人形町(東京都)の上出良一院長は「紫外線は百害あるが、ビタミンDの合成という点では一利ある。完全に遮断するのは良くない。ただ、紫外線によるビタミンD合成にも限界はある」と話す。

 日光だけにビタミンDの合成を期待すると調整が難しい。これに対し、食品やサプリメントで摂取する方法は比較的、調整しやすいだろう。ビタミンDは魚に多く、サケ一切れで約26マイクログラム、サンマ1尾で約15マイクログラム。

 厚労省の「日本人の食事摂取基準」では、1日に摂取するビタミンDの目安量は、生後1歳未満で5マイクログラム。大人で5・5マイクログラムとされている。

 サプリメントも出ている。国内では森下仁丹(大阪市)が2014年に生後1カ月から使える液体のサプリメントの販売を始めた。17年には、より飲みやすくした製品も販売している。

 ビタミンD欠乏症の問題点は少しずつ知られてきている。近年、血中のビタミンDを測る検査が公的医療保険の適用となった。

 大阪大の大薗教授は「世界的にビタミンDの1日に必要な量はおおむね15マイクロで一致している。厚労省の「日本人の食事摂取基準」の目安量は、通常の生活で日光を浴びることを前提にしたもので最低基準ととらえるべきだろう。子どものビタミンDの状態を知り、必要であれば補う必要性への意識がもっと広がってほしい」と話している。

<アピタル:医療と健康のホント>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/honto/(服部尚)

服部尚

服部尚(はっとり・ひさし) 朝日新聞記者

1991年入社。福井支局をふり出しに、東京や大阪の科学医療部で長く勤務。原発、エネルギー、環境、医療、医学分野を担当。東日本大震災時は科学医療部デスク。編集委員を経て、現在は科学医療部記者。