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 内科病棟で働くベテラン看護師のヨウコさんは、お父さんの急な入院や介護という問題に直面しながら、高齢のお母さんとともに奮闘しています。(ヨウコさんは架空の人物です)

 もともとヨウコさんは、怒ったときには感情的に声を荒らげてしまったり、相手に詰め寄ってしまったりすることがありました。そんな課題に対してアンガーマネジメントを学びながら改善しようとしていたわけですが、一方では自分の意見をはっきり言えるタイプで、それが強みでもありました。

 ところが今回ヨウコさんは、普段とは違う悩みを抱えていました。お父さんの入院に際し、病院での看護師の対応に引っかかりながら、それを相手に言うことができず、もやもやとした気持ちを抱えていました。

 

 入院中のお父さんに付き添っていたときのことです。

 ヨウコさん: 看護師は皆さんとてもよくしてくださるのです。でも、父に声をかけるときの話し方が「〇〇さん、お身体の向きを変えますよ~」「おすわりできる~」と子どもに話すような口調なのです。父も「は~い」「できるかなあ~」なんて言って甘えちゃって。私にとっては「あり得ない!」ことで、自分の職場のスタッフが患者さんにそんな言葉遣いをしたら注意すると思います。母も気にする様子もないので、私が文句を言って荒だてることもないかと思って、何も言わなかったのですが、モヤモヤした気持ちが残ってしまいました。

 

 ヨウコさんが抱いたモヤモヤをアンガーマネジメントの視点で考えてみると、怒りの感情の原因は自分の理想と現実とのギャップです。ヨウコさんは看護師として働いているからこそ、ほかの病院の看護師の対応が目についてしまうということがあるのでしょう。経験のなかで培われた接遇や言葉遣いがあり、理想的な対応のイメージがあります。ヨウコさんにとって、この病院の看護師の対応は許せないと怒るほどではないのですが、理想的な言葉遣いではないという状況でした。

 また、ヨウコさんにとってお父さんは威厳があって頼もしいイメージのままで、子どものように話す様子も受け入れがたかったのかもしれません。

 別の人から見たら、看護師の対応が問題というわけではなく、わかりやすく、親しみやすくという配慮のつもりだったのかもしれません。また、入院中は生活行動全般に介助が必要な状態であり、患者さんに対して威厳ある男性というイメージを描きにくいことも考えられます。

 同じ場面をみても解釈は人それぞれで、もしかしたらお母さんは、看護師の対応を親しみやすいと感じていたかもしれません。

 

 気がかりなことがあったら、それを率直に伝えられれば良いでしょうし、医療者側は何かあれば患者や家族は要望を伝えてくるだろうと思っていたりすることもあります。しかし、入院患者の家族という立場になったヨウコさんは、言いたいことを言えないという経験をしました。ケアする人とされる人やその家族の間には、ものごとのとらえ方に差異があり、こちらが思いもよらないことを相手が気にしていたりするということも起こり得ます。

 このものごとのとらえ方、すなわち価値観の全てを相手と一致させることは不可能です。そこで、譲れない価値観については、相手にこうしてほしいという要望を伝えて互いに歩み寄ろうとすることも必要です。ただ、要望を伝えることは、自分の思い通りにさせるとか相手の価値観を変えさせることとは違います。怒りや小さな違和感が生じたら、私のなかのどんな価値観が反応したのだろうかと考えてみると、相手との違いがみえたり、相手の価値観を推察したりできるかもしれません。

 

 ▽怒りを伝えるコツ「事実と感情を分ける」http://www.asahi.com/articles/SDI201707240231.html

 ▽怒りを伝えるコツ「お願いする」http://www.asahi.com/articles/SDI201708071207.html

 ▽怒りを伝えるコツ「理由を添える」http://www.asahi.com/articles/SDI201708171880.html

 

 今回ヨウコさんは、看護師の対応にモヤモヤし、またそれを言えないことにモヤモヤを抱えていました。気がかりなことは伝えるほうが良いとか、お父さんもお母さんも困っていないなら事を荒だてるべきでないとか、正解の答えはありません。言ってから変に気を使ったり、言わずにモヤモヤし続けたりするのは苦しいので、後悔しない選択をしましょう。

 気になったとしても言わないと決めたのなら、あとは考え込まないことです。一度決めたら二度と変えられないわけではありませんから、何かのタイミングで伝えようと思うときがきたら、またそのときに自分の行動を選択すれば良いのです。

 

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◆編集部から

<田辺有理子さんの新しい本が出版されました>

 タイトルは『ナースのためのアンガーマネジメント 怒りに支配されない自分をつくる7つの視点』(メヂカルフレンド社)です。(詳しくは https://www.medical-friend.co.jp/biblioDetail.php?b_id=1100別ウインドウで開きます

 

<アピタル:医療・介護のためのアンガーマネジメント・コラム>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/anger/(アピタル・田辺有理子)

アピタル・田辺有理子

アピタル・田辺有理子(たなべ・ゆりこ) 精神看護専門看護師・保健師・精神保健福祉士

横浜市立大学医学部看護学科講師。大学病院勤務を経て2006年から看護基礎教育に携わる。アンガーマネジメントファシリテーターTMとして、医療・介護・福祉のイライラに対処するためのヒントを紹介する。著書に『イライラとうまく付き合う介護職になる!アンガーマネジメントのすすめ』(中央法規出版)がある。