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 みなさんは、あまのじゃくな人に手を焼いたことはありませんか?

 ああいえば、こういう、本当に素直になれない手ごわい人です。

 愛する人があまのじゃくの場合、私たちは振り回されて消耗することでしょう。

 でも、私たちにも次のようなことはありませんか?

□ 仲良くなった友人。もっと近づきたいけど、向こうから近づいてくるとなんだか不安。

□ 魅力的で理想的な異性。デートしてみたいけど、いざ誘われるとこわい。

□ 憧れの先生。ぜひ指導を受けたいけど、どうぞと言われると恐れ多い。

□ すごく才能のある新人。一緒に仕事したいけど、やってみるとなんかやりにくい。

 そうです。これらの例の中にもあまのじゃくの要素は隠れています。私たちの多くが、あまのじゃくの素因を持っています。今回はこの「あまのじゃく」への理解がテーマです。

 

 このコラムでは、仕事でミスばかりつづき、友人や恋人との関係もうまくいかず、「生きるのがつらい」と感じているADHDの女性・リョウさん(30代前半・独り暮らし)のお話を続けています。(リョウさんは架空の人物です)

 前回までにリョウさんは、他の女性の影が感じられて、いつも心がここにないと感じながらもずるずるとつきあってきた彼に対して、初めて怒りをぶつけたのでした。

 これまでもリョウさんは、二人の関係をなんとか変えようと、自分と彼の立場を置き換えて考えることで多少は平等な関係を意識して振る舞ったり、彼との関係を本当はどうしたいのかを改めてみつめてみたりしてきました。こうした努力と変化は、彼の目にはどのように映っていたのでしょうか?

 そもそも、彼はどうしてリョウさんを、あれほどぞんざいに扱っていたのでしょうか?

 そして、突然心を開いて優しくなったのはなぜでしょうか?

 今回は、彼の側から二人の関係を見つめていきます。

 

彼が抱えていた事情

 彼とリョウさんは出会ってすぐに明るい雰囲気で打ち解けて、つきあうことになりました。彼は、リョウさんと楽しくふざけあう会話をするのが好きです。年齢よりは二人とも少し幼くて、仕事のときのように難しい顔をせずにすむ気楽さがありました。

 実は彼は仕事で行き詰まりを感じていました。元来の明るく人見知りをしない性格と瞬発力が幸いして、初めての取引先とはスピーディーに関係を作ることができ、契約もとれ、短期的にはとても好調です。しかし、彼には継続する力がありませんでした。うまくいきだすと、その仕事に飽きてしまうのです。こうしたモチベーションの急速な低下は、気をつけていても、書類のミスを誘発し、先方への態度にも露骨に現れました。こうして、長期的な利益を上げられない彼は、上司からも伸び悩んでいることを指摘されるようになっていました。

 これまで器用になんでもこなしてきた彼にとっては、初めての挫折でした。昔から飽きっぽさはありましたが、学生時代には今ほどの責任を負っていませんでしたから、多少ルーズでも許されていたのでしょう。明るいキャラや仲間の多さで、許されていた部分も大きいでしょう。そんなわけで、彼は初めての仕事上の挫折をどう消化していいものか、困っていました。

 彼は、仕事でうだつの上がらない自分を直視するのは耐えられないため、仕事後はなるべく気分を変えて、仕事のことなど考えたくない、忘れたいと思うようになっていました。そんな矢先に出会ったのがリョウさんでした。

 彼にとっては、女性とつきあうことは気分を変えるための方法に過ぎず、「面倒なことを言われたら別れる」というスタンスが常でした。じっくり向き合う関係よりも、ひとまず今日の仕事のモヤモヤを解消できるだけの刹那的な関係を求めていました。そのため、一夜限りという関係も珍しくなく、誰とも本気でつきあわない日々を送っていました。二股どころか、不特定多数の女性と関係を持つ、まさに"女性の敵"という男性だったのです。でも、だからこそ、スピーディーに軽やかにリョウさんを口説くことができたのでしょう。

 

守りたかった「逃げ場」

 読者のみなさまは既にお気づきかもしれませんが、リョウさんも彼もよく似ています。リョウさんもまた、学生時代まではうまくいっていたタイプでした。そして仕事でうまくいかない自分から逃げるようにお酒に依存していたのでした。似た者同士だからこそ、一緒にいるとほっとする関係だったのかもしれません。

 彼の気持ちがいつもここにないような気がしていたリョウさんですが、彼はそもそも、気持ちを通い合わせることを避けていました。他の女性と違って、「私たちつきあっているの?」などの面倒なことを言わないリョウさんは、彼にとっては絶好の逃げ場でした。仕事のうまくいかない自分からの逃避の先がリョウさんだったのです。リョウさんにとっても彼は数少ない居場所でした。ふたりともが、その逃げ場をあたたかく守り続けるために、「私たちの関係ってなに?」「本音は?」などの肝心のことを言わないようにしていました。

 

 この二人の関係の中で、彼は自分でも驚くほどわがままになっていきました。ちょうど、思春期の男の子が、母親に際限なく要求したり当たったりしてしまうのと似ているかんじです。

 彼は心のどこかで「リョウは自分より下」と思っていたのかもしれません。自分の出張先に呼びつけたり、リョウさんの誕生日に靴下を脱ぎ捨てて眠りこけて台無しにしたり……。どこまでやったら怒るんだろうと、試すような気持ちにもなっていたのだといいます。それが、憂さ晴らしにすらなっていました。どこかでリョウさんを思い通りにすることで、達成感を得たり、征服欲を満たしたりしていたのかもしれません。リョウさんに悪いなあと思いながらも、どうせ許してくれるだろうという甘えもありました。

 そのくせ、わがままで自己中心的な自分に嫌気もさしていたといいます。その結果、自分のわがままを通すわりには、満足感は得られず、結局自己嫌悪になり、虚しさばかりがあったのです。それらをごまかすために、リョウさんと会えば、お酒を飲み、身体を重ねることに終始していました。まともにしらふで話し合ったら、仕事がうまくいかないだけでなく、プライベートでも、一人の女性すら幸せにできていないという事実をつきつけられて、どこまでも「できない男」になってしまうことが耐えられなかったのです。

 

わがままになる自分…「叱って欲しかったのかも」

 こうした守られてきた現実逃避の関係は、リョウさんのアクションで、変化し始めました。

 どんどんわがままにになっていく自分自身に歯止めがきかなくなっていた彼にとって、リョウさんの変化はここちよいものでした。そして前回、リョウさんが「そこまでよ!」と怒ってくれたことで、彼はこれ以上できない男にならないようにブレーキを引くことができたのです。

 彼 「俺って自由にしていたいんだ。でも、とことん好き勝手にする自分は嫌だし、最低だと思う。でも自分じゃどうにもならなかったんだよね。リョウの前ではかっこつけなくていいからラクだし、優しくてなんでも受け入れてくれるから甘えてた。けど、本当はどっかで叱って欲しかったのかも。リョウにはまた、叱って欲しいな。いざ叱られたら反発しそうだけど」

 彼だって、目の前の女性を幸せにすることで、満たされたいという思いもあったのでしょう。それなら、自分でいい彼氏になるように努力すればいいものを・・・そこを少しリョウさんに手伝ってもらいたいと彼は言っているのでしょう。まだまだわがままですよね。彼が自分のわがままを止められないのは、本来リョウさんの責任ではなく、彼の問題なのですが・・・こんなわがまま男の言い分は突き返してもいいくらいでしょう。

 それでも、リョウさんは彼のことが好きでした。だから、そんな彼を突き返すどころか、張り切ってこう言ったのです。

 リョウ 「わかった!これからは我慢せずにちゃんと言うからね!世話が焼けるなあ。甘やかさないからね」

 

心の中の感情に目を向けて、打ち明ける

 彼はどうしてあんなにあまのじゃくだったのでしょう。

 それは、相反する思いがいつも心の中にあったからです。仕事でいまいちなかっこ悪い自分もさらけ出して受け止めて欲しいという思いを抱く一方で、怖くて自分からは踏み出せませんでした。また、目の前の女性を幸せにするかっこいい男性でありたいという思いも抱いていましたが、リョウさんと距離を縮めてしまえば自由が奪われてしまうのではないか、飲み込まれてしまうのではないかといった不安もあったのです。そしてこれらの思いが心の中で交互に現れて、一貫性のない、あまのじゃくな言動をとらせていたのでしょう。

 これは誰しもあることです。冒頭でご紹介したように、

 「親しくなりたい」でも「傷つきたくない」

 「尊敬している」でも「脅威や嫉妬を感じる」

 このように相反する気持ちがあるから、ぎこちない態度になるのですよね。

 しかも、多くの場合、後者の感情については自分でも認めたくないし、隠したい。かっこわるいし、汚い感情である場合が多いからです。

 あまのじゃくへの処方箋(せん)は、シンプルです。心の中にある相反する感情に目を向けること。そしてそれを大切な相手に打ち明けてみることです。

 

 もやもやしていたリョウさんと彼の関係にも、ようやくゴールが見えてきました。2人の関係はどう決着するのでしょうか。次回に続きます。

 

<お知らせ> ネットでさまざまなお悩みを相談できます

 このコラムの筆者の中島が、北九州市にある精神科クリニック「かなめクリニック」にて、今年3月からオンライン診療を担当しています。診断の有無にかかわらず、インターネットを用いて認知行動療法などのカウンセリングを行います。ご相談内容は、ADHDに限らず、気分が落ち込んで引きずってしまう、不安でたまらない、食べ過ぎや飲み過ぎ、薬に依存してしまう、性犯罪に関するものでも幅広くお引き受けします。ご家族からの相談も受け付けます。みなさまのご相談をお待ちしております。

 ※要予約・有料で、自費診療となります。すでに医療機関にかかっていて、主治医や担当カウンセラーのいる方は、許可を得た上でお申し込みください。

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<アピタル:上手に悩むとラクになる・生きるのがつらい女性のADHD>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/nayamu/(アピタル・中島美鈴)

アピタル・中島美鈴

アピタル・中島美鈴(なかしま・みすず) 臨床心理士

1978年生まれ、福岡在住の臨床心理士。専門は認知行動療法。肥前精神医療センター、東京大学大学院総合文化研究科、福岡大学人文学部、福岡県職員相談室などを経て、現在は九州大学大学院人間環境学府にて成人ADHDの集団認知行動療法の研究に携わる。他に、福岡保護観察所、福岡少年院などで薬物依存や性犯罪者の集団認知行動療法のスーパーヴァイザーを務める。