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 このコラムでは、仕事でも友人や恋人との関係においても行き詰まりを感じているADHDの女性・リョウさん(30代前半・独り暮らし)のお話を続けています。(リョウさんは架空の人物です)

 前回までにリョウさんは、「二番目の女」としてつきあってきた彼との関係を変化させ、似た者同士の二人はようやく向き合うことができました。

 彼が実際にはリョウさんだけでなく、不特定多数の女性と自由過ぎる関係を持っていたというのに、そんな彼を受け入れるのかと腹立たしいお気持ちになられた読者のみなさまも多いことと思います。

 リョウさんの心の中はこんなふうでした。

 このコラムのはじめのころ、リョウさんは、仕事や友人関係でつまずき、「自分なんてだめなんだ」「何をやってもうまういかない」と自尊心の低い状態になっていました。それでも、仕事や生活が少しでもうまくいくようにと立ち上がり、自分にも苦手で欠けている一面があると認めて、少しずつ困難を克服して来たのです。

 このどん底の経験は、リョウさんにとって悪い側面だけではありませんでした。他人の欠点に寛容になれたり、他人が変わっていく可能性を信じたりする力が身についたのです。

 リョウ 「彼はたしかに、欠点も多い人。そんな自分に向き合えない、弱さの理由もよくわかる。きっと似た者同士なのよね。だからこそわかり合えると思う」

 

 たしかに、これまでへんてこなりに関係が続いてきたのも、ふたりが似たような痛みをもち、同じように現実逃避していたからこそ、それが安心感につながっていたともいえます。不誠実ではあったものの、彼はしばしば「リョウといるときが一番ほっとする」と口にしていました。

 それはリョウさんも同じでした。安心感こそが、リョウさんの求めていたものでした。職場に居場所が見いだせず、女友達も昔のようには頻繁に会えなくなってしまったリョウさんにとって、ほっとできる場所が他になかったのです。だからこそずるずるとよくない関係が続いていたわけですが。

 しかしふたりはもう、こうした現実逃避の世界にいることをやめようと決めました。

 本音をぶつけないまま安堵(あんど)だけを求める関係を卒業して、現実の世界で、向き合うことにしたのです。

 

 とはいえ、人はそんなに簡単には変わらないのも事実。

 せっかく一生懸命ふたりで向き合うことを話し合って決めたのに、1カ月もしないうちに、彼はリョウさんに連絡をまめにしなくなりました。もともとメールも電話もまめではない彼ですが、きちんとつきあおうと話し合ってからは、毎日のようにメールをくれていたのです。それがぱたりとやんだのですから、リョウさんは不安になりました。

 これまでのリョウさんなら、「私が何か悪いことしたかな」、「やっぱり彼には他に女性がいるのかな」とソワソワ考えていたところです。

 そして、そんな不安な気持ちはぶつけず、ひとりで飲み込んでいました。

 

 でも今のリョウさんは、彼は必要な存在で別れたくはないけれど、対等な関係が築けないのなら意味がないとも思えます。もう少し本音をぶつけた方が彼もわがまま男にならずにすんで、彼自身が自己嫌悪に陥らずにすむため、結果的にふたりがうまくいくことを知っています。

 リョウさんは、彼から連絡がなくなって5日目に電話しました。泣き言でも、けんかごしでもない調子でこう言いました。

 リョウ 「ね、そろそろメール欲しいところよーーーどうなってんのー?」

 彼はすぐさま謝りました。

 彼 「また言わせちゃったね。ごめん。ありがとう。また悪いクセが」

 

 ふたりは気楽な関係を続けています。リョウさんは、この彼に対して、初めて安心感をもちました。その証拠に、初めて彼の前で、リョウさんの元来の「連絡をマメにできない」特性が出始めたのです。安心するまでは、スマホを肌身離さず持ち歩いていたリョウさんでしたが、最近はスマホを携帯しわすれたり、彼からの連絡にも返信が面倒になって遅れてしまうほどです。

 そんなリョウさんの態度に反比例して、彼はリョウさんを追いかけるようになりました。皮肉なものです。リョウさんの心を引き付けておくために、彼はあの手この手で工夫をしました。リョウさんが喜びそうなレストランを探して予約したり、サプライズのプレゼントをくれたり。まるで別人のような変身っぷりでした。そんな変化を誰より喜んだのはリョウさんではなく、彼だったのかもしれません。

 今の彼は、「目の前のリョウさんを幸せにしている」という自負がありました。このことに自信をもった彼は、少しずつですが仕事においても苦手なことから逃げずに腰を据えて取り組んでいけるようになりました。

 リョウさんも彼も、本当の居場所をみつけたようです。

 

 今回のリョウさんの変化は、あの恋愛相談でイライラしていた友人のミズホの心さえも溶かしました。半ばあきれながらも、

 ミズホ 「だいたい、リョウは甘過ぎよ。でもさ、そこまで言うんなら、応援するよ。その彼、私のタイプじゃないけどね」

 リョウさんの気持ちが安定したことが、親友にはわかったようです。リョウさんは数々の悲しい思い、辛い思いをしてきましたが、ここにきて、生きていくのも悪くないなと思い始めています。

 

 こうして、仕事、友人関係、お酒への依存、恋愛関係などに向き合い、変化を遂げて来たリョウさん。次回からは、自分の基盤ともいえる、育った家庭について向き合います。

 

<お知らせ> ネットでさまざまなお悩みを相談できます

 このコラムの筆者の中島が、北九州市にある精神科クリニック「かなめクリニック」にて、今年3月からオンライン診療を担当しています。診断の有無にかかわらず、インターネットを用いて認知行動療法などのカウンセリングを行います。ご相談内容は、ADHDに限らず、気分が落ち込んで引きずってしまう、不安でたまらない、食べ過ぎや飲み過ぎ、薬に依存してしまう、性犯罪に関するものでも幅広くお引き受けします。ご家族からの相談も受け付けます。みなさまのご相談をお待ちしております。

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<アピタル:上手に悩むとラクになる・生きるのがつらい女性のADHD>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/nayamu/(アピタル・中島美鈴)

アピタル・中島美鈴

アピタル・中島美鈴(なかしま・みすず) 臨床心理士

1978年生まれ、福岡在住の臨床心理士。専門は認知行動療法。肥前精神医療センター、東京大学大学院総合文化研究科、福岡大学人文学部、福岡県職員相談室などを経て、現在は九州大学大学院人間環境学府にて成人ADHDの集団認知行動療法の研究に携わる。他に、福岡保護観察所、福岡少年院などで薬物依存や性犯罪者の集団認知行動療法のスーパーヴァイザーを務める。