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電動車いすユーザーの自動車選び(上)

 ついに、ついに・・・。苦節1年、ようやく「新しいクルマ」が完成しました。車いす収納装置で車いすが積み込まれる様子は、なかなかの近未来感で、思わず動画を撮りたくなる、そんな仕上がりです。その背景には、車選びで難航し、車載装置の製造を依頼した業者がギブアップし頓挫するなど、幾多の困難がありました。情報の少なさにため息をつき、介護者がいる前提で造られた福祉車両の多さに愕然とした末に完成しただけあって、喜びもひとしおです。今回から2回にわけて、「電動車いすユーザーが運転・積み込みをひとりで行える自動車」にたどり着くまでの道のりをまとめます。

 私は電動車いすに乗っていますが、毎日の通勤には自動車が欠かせません。しかし、昨年3月、小児がんの晩期合併症で2度目の骨盤骨折が判明しました。「またか・・・。」と目の前が真っ暗になると同時に、「今までの方法では車いすを積み込めなくなる」という現実を突きつけられます。ただ普通に座っているだけで折れてしまう骨盤に対して、これ以上どう負荷を減らせばよいのか分かりませんでした。

 けれども、何かしらの対策を講じないことには、日常生活には戻れません。日頃からつらいと思っていた動作は、ただひとつ。自動車に車いすを積み降ろす際の、電動車いすを折りたたんだり開いたりする動作です。それまで乗っていた車では、車いすを折りたたまず、そのまま乗せることができませんでした。35キロもある電動車いすを開閉するのは、けっこう力がいるもので、骨盤に負担となります。そこで、私が運転席に乗った後、車いすを開いたままの状態で自動車に乗せられる環境を作ろうと決断します。今まで乗っていた車(トヨタのファンカーゴ)では対応できないので、自動車を買い替えて、新しい車載装置を造ることになりました。

車載装置と自動車、一緒に考える

 車選びの際、一般的には、自動車のことだけを考えればよいはずです。しかし、自力で車いすを積めない私は、自動車と車載装置を同時進行で考えていく必要があります。なぜなら、Aという装置ならセダンしかダメで、Bという装置ならスライドドアの自動車だけという風に、車載装置によって自動車の選択肢が変わってしまうからです。

 車載装置は、大きく三つに分けられます。車載装置の主な製品を例示すると、ウェルライドやカロリフトに代表される横から収納するタイプ、カロリフトやアビローダーをはじめとした後ろから収納するタイプ、そして車の上に収納するタイプのオートボックスといった感じです。それぞれに特徴があり、メリットやデメリットも障害レベルによって変わってくるでしょう。また、自動車との相性もあるため、同じ車載装置でも取り付ける車両によって、完成像も異なります。

これだけは押さえたいポイント

それではまず、前提条件として、最低限これだけは譲れないという点を整理しておきます。

1 重さ35キログラムの電動車いすを開いたまま収納できること

2 運転席のリクライニング機能を妨げないもの(適宜、腰を休めるために必要)

3 すべての操作をひとりで行える仕様に限る

 最初に思い浮かんだのは、今まで使っていたものを応用できないかという案でした。けれども、やはり、そう簡単にはいかないようです。普段からこの分野にはアンテナを張っているつもりですが、パッと最適解が出てきません。福祉用に車をカスタマイズする架装業者やディーラー、車いすの先輩方、詳しい人などに相談を持ちかけますが、解決の兆しが見えないくらいの迷路に陥ってしまいました。「車載装置と自動車を同時進行で考える」という路線をやめざるを得ない事態です。

 そんな時、ユーチューブで画期的な動画を見つけました。今回の本命は、ずばりコレでした。運転席へ移乗した後、空になった車いすをトランクから出てくるロボットアームが掴んでトランクまで引っ張り込んでくれる装置です。荷室が潰れるだけで、シートはすべて使えるし、一番自動車の選択肢が増えるのではないかと見込んでいました。ただでさえ、手動運転装置や車載装置と費用がかさみます。選択肢が増えることで車両価格を抑えられれば、大きなメリットと言えるでしょう。

 ただ、問題は、販売元がイスラエルという点です。意外! と思ったのは、私だけではないはずです。軍事産業が盛んなイスラエルにとって、ロボットアームは得意分野なんだそう。でも、英語ができる人を介してのやりとりになるし、向こうの状況もよく分からないため、手探りでの交渉は時間を要しました。が、しかし、その甲斐なく、耐荷重オーバー等で不適合・・・。あっけなく散っていきました。

最終手段は、オリジナル

 散々、調べた結果、却下の連続で全滅してしまいました。検討の過程があり過ぎて、マニアック過ぎて、すべてを記すことはできませんが、おそらく既製品は網羅しているはずです。「電動車いすで、ひとりで車移動したい」と思うのは、そんなに贅沢な願いなのでしょうか? 私以外にも同じような状況の人はいるはずなのに、みんなはどうしているのだろう・・・。公共交通機関だけで生活しなければいけないのだろうか・・・。自問自答を繰り返します。なんど考えてみても、行き着く先は同じでした。やっぱりクルマは必要! どうにかするしかありません。

 既製品が無理なら、オリジナルを作る以外に道はないでしょう。こんなこともあろうかと、既製品探しと平行して、私の要望が実現可能かを検討してほしいと、福祉車両の架装業者に打診していました。既製品に限界を感じていたころ、作れそうだとイメージ画と見積書があがってきたのです。もう探し尽くしたし、職場復帰までのタイムリミットも迫っているため、一日でも早く方針を決めなければいけない状況に置かれていました。他に選択の余地はなく、オリジナル車載装置を作ることを決断します。

発見! ジャストフィットな自動車

 あとは、それに見合う自動車を決めるだけになりました。国産車・外車問わず、すべてのスライドドア車を実測すること、11社19台。最終的に開口部などのスペースが十分なものとして候補に残ったのは、トヨタのアルファードとヴェルファイア、ホンダのオデッセイ、わずか三つの車でした。

 さらに運転席への移乗を考えると、車高の低いオデッセイ一択と言うことになります。あれに乗りたい、これに乗りたいという妄想も夢のまた夢・・・。ある意味、ここまで整理されてしまうと諦めもつきます。しかし、一時はどうなることかと途方に暮れた日々を思えば、無事に条件に合致するクルマが見つかったのだから一山超えたと言えるでしょう。ほっと胸をなでおろしました。

自動車メーカーは真のニーズにあった車両を

 この「クルマ選び」は昨年3月下旬にはじまり、オリジナル車載装置を造る決断とオデッセイの選択に至り終結したのは昨年6月半ばのことでした。約2ヶ月半。決して、のんびり考えていたわけでもなく、それなりに予備知識のある状態で臨んだ結果が、この現状です。なぜ、こんなに苦労したのかと振り返ってみると、情報が少ないうえに分散されているという二つの問題点に行き着きました。

 例えば、トヨタが運営する福祉車両(ウェルキャブ)に特化した総合展示場・ハートフルプラザへ行ったときのことです。現状と要望を伝えて解決策について相談をしました。「今、○○が問題で、これとあれを組み合わせれば解決しそうな気がするのだけれど・・・」と尋ねてみると、「初めて聞きました。それは何ですか?」と話になりません。方向性を変えて、展示物の細かい仕様を尋ねても、店員さんよりも私の方が詳しいという逆転現象に・・・。

 ハートフルプラザのウェブサイトにはこう書かれています。「専門の知識を備えたウェルキャブコンサルタントが常駐し、お身体の状態に合わせたハートフルカスタマイズ(架装・改造)の相談を承っております。」それに、身体障害者の運転装置シェア1位と言われている企業と提携していることから、ここに行けば解決するのでは? と他車メーカーからも推薦されるくらいメジャーな相談先でもあるのです。もちろん、ニッチな相談をしている自覚はあります。しかし、一定数、確実にあるニーズです。知識不足とともに、障害者の実態をずいぶん知らないなと感じました。

 もうひとつ、具体的な車種選びでも、つまずきました。車載装置に合う自動車を探すときに見るべきポイントは、①スライドドア開口部の幅、②スライドドア開口部の高さ、③1列目と2列目シートの間隔――、以上三つの具体的な数値です。ウェブサイトで条件を満たす自動車をピックアップし、店頭で実車を確認する計画でした。

 しかし、ほしい情報はどこにも載っていません。せいぜい、ファミリーカーとしてアピールしている車が「広々、スライドドア!」みたいに、だいたいの開口幅を載せているくらいでした。探し方が悪いのかと、隅々まで見直してみても正確な数字はありません。仕方なく、販売店で手当たり次第に実車を計測していくことになりました。さまざまな寸法が諸元表のように載っていれば、高齢者のいる家族も含めて恩恵を受ける人は意外と多いのではないでしょうか。

 市場規模を考えると「情報が少ない」という点は、ある程度、仕方のないことなのだと思わされます。しかし、ニッチな市場だからこそ、「情報を集約」する必要があるのではないでしょうか。数は少なくても、同じように困っている人は確実にいます。今回クルマを探している中で、点在した情報にたどり着けずに外出を諦めている人がたくさんいることを知りました。

 情報や障害を補う道具さえあれば、自由に動ける人が多く潜在しているのです。また、福祉車両の架装を専門とする業者は、小規模で営業しているところが大半を占めています。自動車メーカーの営業も自社製品すら把握していないのが現状です。自動車メーカーや架装業者という垣根を超えて、ユーザーのための連携や情報発信をしてくれたら、もっと身近に感じられるような気がしてなりません。自動車が「便利」ではなく「必需品」な障害者のもとへ情報が届くようになってほしいと切に願います。

<アピタル:彩夏の〝みんなに笑顔を〟>

http://www.asahi.com/apital/column/ayaka/(アピタル・樋口彩夏)

アピタル・樋口彩夏

アピタル・樋口彩夏(ひぐち・あやか)

1989年、東京生まれ。中学2年の時、骨盤にユーイング肉腫(小児がん)を発症。抗がん剤、重粒子線などの治療を経て、車いすでの生活に。「いつ、誰が、どんな病気や障害をもっても、笑顔で暮らせる日本にしたい!」を目標に日々、奮闘中。当事者の視点から建設的に伝えることをモットーに執筆・講演も行っている。