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 ベテラン看護師のヨウコさんは、突然の父親の介護という問題に直面しています。父の退院が決まり、仕事の傍ら実家の在宅介護の準備に追われています。(ヨウコさんは架空の人物です)

 ヨウコさんは、患者の家族という立場になって、新たな気づきを経験しています。

 そして今回はまた別の視点から、気づいたことがありました。

 最近、お母さんからの電話が増えました。

 

 (プルルルル…)

お母さん: 今度病院の先生から説明があるから○月△日に来るようにと言われたから、休みをとってくれる?

ヨウコさん: 急に言われても、その日は日勤なのに、休めるかしら。

 

 (プルルルル…)

お母さん: お薬の説明があるって言うのよ。ヨウコが看護師でよかったわ。一緒に行ってね。

ヨウコさん: また行くの?説明だったらまとめてやってよ。

 

 (プルルルル…)

お母さん: 忙しいところ申し訳ないのだけど、今度はケアマネジャーさんから連絡があって、介護保険の手続きがあるみたいなの。

ヨウコさん: 介護保険の手続きは、ついこの間やったばかりじゃないの。

お母さん: なんだか書類が足りなかったと言われたけど、聞いてもよくわからないし、来てくれない?

ヨウコさん: そんなこと言われても、これ以上休むなんて無理。一方的に呼び出されても対応できないよ。このごろ急な勤務変更ばかりで職場にも迷惑をかけているし……。お父さんのことも大事だけど、私には仕事があるんだから!

 

 ヨウコさんは、お母さんが不安になっていることもよくわかっていて、なんとか支えたいと思っています。でも、ヨウコさんには仕事もあるので余裕がなく、とうとう怒りがあふれてしまい、止まらなくなってしまいました。

 

 そして、ヨウコさんはお母さんに対して怒りながら、自分の胸にチクリと刺さることがありました。

 ヨウコさんは内科病棟に勤務しています。医師と患者家族との面接を設定する際、家族の来院日が変更されたり、調整が難航したりすると、苛立つことがありました。医師の忙しさを間近で見ていることや、看護師も同席するために業務を調整していることもあり、本音を言うと日程変更は避けたいという思いがあります。入院というのは一大事なのだから家族は病院の指示を最優先に対応するべきだという思いもあったのかもしれません。

 しかし、自分が入院患者の家族という立場になり、ヨウコさんは時間を調整することの大変さを痛感しました。自分が、看護師として厄介に思っていた融通の利かない家族になっていることをもどかしく思う一方で、看護師としての自分は、医師との面接の日程と、薬剤師や他の部門との面接の日程をできるだけ同じにするといった配慮まではしていなかったことも思い当たりました。お母さんへの怒りは実は、矛盾する自分に対する怒りが溢れて、お母さんに八つ当たりしていたのかもしれません。

 ヨウコさんのようにシフトの勤務の人は、急な呼び出しに対して仕事を調整するのが大変です。一方で、カレンダー通りの勤務の人も、病院や行政機関の手続きなどのために平日に時間を調整する大変さがあります。そして、例えば小さな子どもがいたり、他に介護する人がいたり、自分自身の体調がすぐれなかったりなど、人にはそれぞれの事情があります。

 こうした個々の事情は理解されにくく、自分がその立場になってはじめて、大変さに気づける場合もあります。

 

 誰かの行動にイライラしたとき、立場を置き換えて相手の事情を推し測ることができれば、怒るほどでもないと気づくことができるかもしれません。

 ヨウコさんは自身の経験を通して、看護師としても、少し寛容になれそうです。

 過去の自分を変えることはできません。でも、何かのきっかけで気づきを得たら、次から変わっていけばよいのです。

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◆編集部から

<田辺有理子さんの新しい本が出版されました>

 タイトルは『ナースのためのアンガーマネジメント 怒りに支配されない自分をつくる7つの視点』(メヂカルフレンド社)です。(詳しくは https://www.medical-friend.co.jp/biblioDetail.php?b_id=1100別ウインドウで開きます

 

<アピタル:医療・介護のためのアンガーマネジメント・コラム>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/anger/(アピタル・田辺有理子)

アピタル・田辺有理子

アピタル・田辺有理子(たなべ・ゆりこ) 精神看護専門看護師・保健師・精神保健福祉士

横浜市立大学医学部看護学科講師。大学病院勤務を経て2006年から看護基礎教育に携わる。アンガーマネジメントファシリテーターTMとして、医療・介護・福祉のイライラに対処するためのヒントを紹介する。著書に『イライラとうまく付き合う介護職になる!アンガーマネジメントのすすめ』(中央法規出版)がある。