アピタル・田辺有理子
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イラスト・シマダユミコ
このコラムでは、医療や介護に関する場面を取り上げながら、怒りやイライラといった感情との付き合い方を紹介しています。今年の4月からは、介護する家族が心身の健康を保てるようにという願いを込めてアンガーマネジメントの活用を考えてきました。
高齢化が進むいま、介護は身近なテーマになっています。介護を経験した人や現在介護の渦中にいる人、両親2人を介護している人、育児と介護とを同時にこなしている人、同居だったり遠方だったり、老々介護や認知症の夫婦による認認介護など、置かれた状況も様々でしょう。
この連載を読んで、「似たような経験がある」という「あるある」の感想を寄せてくださる人もいますし、「そんなふうにできれば理想的かもしれないけど、現実にはできない」という人もいます。できないというのは、介護で辛い状況にいる人の切実な声だと思います。そして、記事を読んで取り入れようとしてもらえたということなのかとも思います。
アンガーマネジメントを知っても、すぐに使えるようになるわけではありません。反射的に怒ってはいけないとわかっていても、つい声を荒らげてしまうこともあるし、不機嫌になってしまうこともあります。そういうものです。はじめから完璧にできる人などいません。でも、知っていることで、ちょっとだけうまく対処できるときがあるかもしれません。イラッとしたときに「そういえば、気持ちを落ち着かせる方法があったな」と思い出すかもしれません。そんなことを繰り返しながら、気づいたら上達していたりするものです。
介護をする時の技術や声のかけ方なども、毎日繰り返していくなかでコツをつかんで、いつの間にか難なくできるようになっていたということがあると思います。一度習って理屈がわかったところで、すぐに完璧にできるというわけではありません。それと同じです。
対象が自身の感情となると、上達したという感覚をつかみにくいということもあるかもしれません。ケアマネジャーや介護の担当者に、「怒らないで笑顔で穏やかに対応して」といわれても、すぐにはできない。そうすると、「無理難題を押し付けて」「現実をわかっていない」と相手を責めたくなる人もいるでしょう。
その一方で、「できない自分はダメだ」「未熟者だ」と自分を責めてしまう人もいます。でも、それでは、自分が苦しくなって、自分で自分を追い込んでしまいます。
この連載は2016年9月にスタートして3年目になりました。私にもイイときもあればイマイチなときもあります。きっと皆、そういうものです。介護は辛いことのほうが多いと感じるかもしれませんし、先がみえない、終わりがみえない苦しさもあるかもしれません。そんな中でもきっと、自分ができるようになったことに気づけたり、介護の小さなイイときを体験できたりすることもあるでしょう。
あまり自分を追い込まず、「試しにやってみようかな」「うまくいかないときもある」「うまくいけばラッキー」という心構えも、大切なのかもしれません。
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◆編集部から
<田辺さんの新しい本が出版されました>
タイトルは『ナースのためのアンガーマネジメント 怒りに支配されない自分をつくる7つの視点』(メヂカルフレンド社)です。(詳しくは https://www.medical-friend.co.jp/biblioDetail.php?b_id=1100)
<アピタル:医療・介護のためのアンガーマネジメント・コラム>
http://www.asahi.com/apital/healthguide/anger/ (アピタル・田辺有理子)
横浜市立大学医学部看護学科講師。大学病院勤務を経て2006年から看護基礎教育に携わる。アンガーマネジメントファシリテーターTMとして、医療・介護・福祉のイライラに対処するためのヒントを紹介する。著書に『イライラとうまく付き合う介護職になる!アンガーマネジメントのすすめ』(中央法規出版)がある。
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