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 この夏は本当に暑かったですね。私は、ホームベーカリーを使って家でパンを焼き始めたのですが、暑いせいかパンがうまく膨らみませんでした。材料の水を冷水にしたり、部屋を涼しくしたりしてみましたが一向に軟らかい全粒粉パンができず困ってしまいました。レシピを検索していると、グルテンフリーのパンの作り方が出てきました。

小麦を食べなければ健康に?

 グルテンフリーというのは、麦などに含まれるたんぱく質の一種グルテンを避けることです。海外のスポーツ選手や芸能人が薦めたことで、「ダイエットや健康に良い」というイメージが広まりました。出産前後の体形維持や、お子さんの食生活を考える中で、気になるという人も多いのではないでしょうか。

 ネットで調べると、「海外では健康に気を使う人のグルテンフリー食が常識だけれど、日本は遅れている」とか、「グルテンの悪影響は頭痛、めまい、イライラ、関節痛、疲労感、やる気喪失、ADHD(注意欠陥・多動性障害)、抑うつ症状など、不調は多岐に及ぶ」と言っているページが上位に出てきました。一方、日本語で書かれた論文を検索するサイト、医中誌でグルテンフリーを調べるとセリアック病をはじめとする珍しい病気に関するものしか出てきません。「健康にいい」とか、「グルテンがあらゆる体調不良の原因になる」というようなことを書いた論文はないんですね。

 北欧系の人に見られる遺伝病であるセリアック病では、グルテンを食べると腸の炎症が起きます。それが、子どもだと腹部膨満や臭いにおいのする下痢、大人では下痢、体重減少などの症状を起こします。アメリカの一部の地域では250人に1人の割合で持っていることがあるのですが、日本では極めてまれな病気です。

 まれな病気を希少疾患と呼びますが、その定義は日本で5万人以下にしかない病気です。「日本人の0.7%(87.5万人)がセリアック病」という数字をネットで見ますが、根拠を示しているものは見つかりません。そんなに居たら、医療上では「まれな病気」と呼ばれず、普通の医師も日常診療でも出会うはずです。私は診たことも知り合いの医師が受け持ったという話も聞いたことがありません。

アレルギー、自己判断はしないで

 自分やお子さんがセリアック病だとは思っていないけれど、小麦アレルギーかもしれないからグルテンフリーにしている、という人がいるかも知れません。小麦アレルギーは製粉業、製パン業者に多いBaker’s asthma(パン屋のぜんそく)として昔から知られていますが、症状はせきやゼイゼイ、息切れ、発熱、鼻づまり、皮膚のかゆみや発疹です。

 また、小麦は運動誘発性アナフィラキシーを起こすことで有名です。アナフィラキシーは吐き気、じんましん、血管性浮腫、鼻炎、呼吸困難、ぜんそく、意識障害といった重い症状を起こし、死亡することもあります。

 自分や子どもが小麦アレルギーかもしれないと疑ったら、自己判断でグルテンフリーにせず、小児科や内科を受診しましょう。

 

 グルテンフリーを勧めるサイトでは、「3週間小麦を食べなかったら体調が良くなった、食べたらてきめんに肌が荒れた」というものもありましたが、小麦アレルギーでもセリアック病でもなければ、それは気のせいだと思います。病気やアレルギーがなければ、グルテンをとってもなにも起こらないし、避けることでより健康になるわけではありません。ダイエット効果もありません。

広がる「○○フリー」、すてきな響き?

 どうも「なんとかフリー」と聞くと、その「なんとか」を避けたほうがいいもののように感じる人が多いようです。

 確かに、子どもの肌を拭く製品にアルコールが入っていることで肌が荒れたり、人によっては真っ赤になったりします。アルコールフリーの製品を選ぶ意味があるでしょう。

 脂肪や砂糖をとりすぎると生活習慣病などの原因になることから、ファットフリー、シュガーフリーと書いてあるものを手に取りたくなるかもしれません。でも子どもの場合、脂肪は成長発達にある程度必要だし、砂糖が急激に血糖値を上げて子どもをキレやすくするというのはデマなので、まったくとらないことを目指す必要はありません。

 ディートフリー、シリコンフリー、ケミカルフリーという言葉もありますね。

 ディートは、以前の記事、「虫よけ剤、子どもにどう使う? 虫刺されをケアするには」https://www.asahi.com/articles/SDI201807093640.htmlで書いたように、昆虫を寄せ付けないための薬です。6カ月未満の子どもには使えませんが、それ以上の年齢の子どもには、蚊などを避ける効果がハーブやアロマよりも確実にあります。

 ヘアケア・スキンケア製品でシリコン(シリコーン)が入っていないことを示す、シリコンフリーと書いてあるものがあります。「シリコンが毛穴をふさいで頭皮をベタつかせる」とか、「抜け毛の原因になる」という説があるらしいのですが、どちらもデマです。シリコンは安定性の高い素材で、実は日用品や食品、工業や医療の分野で使われています。体に悪いと誤解して、ヘアケア・スキンケア製品にだけ、シリコンフリーのものを使う意味はありません。

 ケミカルとは、英語で「化学的な」という意味ですが、複数形で化学物質・薬品のことで、オーガニック(添加物のないもの)の対義語のように使われます。皮膚科領域では紫外線吸収剤をケミカルと呼びます。日焼け止めクリームなどでかぶれる子どもには、紫外線吸収剤の入っていないものがいいでしょう。

 その他に、石油由来の美容成分、化学的合成した美容成分をケミカルと呼んだり、「化学式で表せるものはケミカル」という極論があったりします。化学式で表すことのできるH2Oは水ですが、水が入っていたら避けるべきでしょうか?そんなことはありませんね。

 着るもの、食べるものをすべて手作りで天然成分だけでということはムリだし、敵視して避けることに意味がありません。なんでもフリーならいい訳ではもちろんないですね。

<アピタル:小児科医ママの大丈夫!子育て>

http://www.asahi.com/apital/column/daijobu/(アピタル・森戸やすみ)

アピタル・森戸やすみ

アピタル・森戸やすみ(もりと・やすみ) 小児科医

小児科専門医。1971年東京生まれ。1996年私立大学医学部卒。NICU勤務などを経て、現在はさくらが丘小児科クリニックに勤務。2人の女の子の母。著書に『小児科医ママの「育児の不安」解決BOOK』(内外出版)、共著に『赤ちゃんのしぐさ』(洋泉社)などがある。医療と育児をつなぐ活動をしている。