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 みなさんはPROという単語を聞いたことがありますか?

 患者が医師の診療を受ける以外の日常の時間に感じるさまざまな体のサインや思いを治療開発の検討に取り込んで、暮らしやすくしようという試みです。PROと書いて「プロ」と呼びます。英語で表記をするとPRO(Patient Reported Outcome )、日本語にすると「患者による直接評価」、さらに簡易に表現すれば「患者によるレビュー(評価)」になります。こうした考え方を医療に反映させようという取り組みが進みつつあります。

・患者の体調管理を電子端末で計測

・ウェラブル端末、アプリケーションも続々と登場

・診察室の中からリアルワールドへ

患者による医療評価

 皆さんも、インターネットで商品を購入したり、ホテルの予約をしたりする際に、過去の購入者や利用者の評価などを参考にすることはありませんか?

 こうしたレビューを薬や医療機器の評価に用いる場合、このレビューの「ばらつき」が大きくては信頼性が低く、使い物になりません。

 例えば「集中力の低下」という症状があります。がん患者さんの就労などの相談支援をしていると良く出会う「患者の声」なのですが、とても言語化しにくい症状なので、訴えにくい症状のひとつです。ほとんどの患者さんは「気のせい」と思っていますし、医療者からも診察室で聞かれることはほとんどありません。しかし、この症状が仕事や学習に及ぼす影響はとても大きく、苦労している患者さんもいらっしゃいます。

 PROでは、この1週間の症状の有無、症状の頻度、症状の程度を聞くだけではなく、「日常生活への影響」を聞きます。たとえば「どの程度ふだんの生活の妨げになりましたか?」といった質問です。これならば、患者さんは答えられますし、抜けや漏れも無くなりますね。

 こうした評価は、国際的にも比較できる「ものさし(評価指標)」によるものである必要もあります。そのため、いま、世界ではこうした患者の声をどのように評価に取り入れ、どうやったら患者中心の医療が実現できるかということを考えるPRO研究がたくさん行われています。

アプリも登場

 データ収集の方法は、紙に記入する方法が一般的ですが、文字が見づらかったり、回答項目が抜けていたりと、「使えない数字」がでてきます。また、紙からデータ入力をする際に、転写ミスが生じる可能性もあります。

 こうした間違いを少なくしようと、最近では、電子端末を使って入力や計測するなど、解析などに必要なアプリケーションの開発も進んでいます。

 例えば腕時計のような機器。日常的に身に着けてもらえば、心拍数や歩数、位置情報などのデータを自動的に収集することができます。これに治療計画を組み合わせれば、ひょっとしたら生活習慣病の予防や、薬の副作用管理にも役立てられる可能性があるのです。

 こうした現実の生活の中で収集されたデータを「リアル・ワールド・データ」と呼び、図のように、予防だけではなく、病気をしたあとの中長期的なフォローアップ、心のケア、「アドバンス・ケア・プランニング」(ACP、患者の意思決定支援計画)など、医療の手が届きにくいところなどへ活用していこうという動きが始まっています。

 7月の連載では、約4万人の医療関係者などが集まり世界で最も大きな学会であるASCO(米国臨床腫瘍学会)の総会について報告しました。昨年の総会では、PROを利用した患者さんの副作用支援に関する研究が発表されました。

 この研究では、患者が生活記録を電子端末から送信をし、発熱などの緊急時に看護師から電話で助言が入るグループと、何も助言がないグループとの間で生活状況の比較が行われました。

 その結果、助言があったグループの方が、心の状態がよく、救急外来の回数も少なく、全生存期間(臨床試験で治療開始日から患者さんが生存した期間のこと)までもが伸びたという画期的な結果がでました。

(E Basch, JAMA. 2017;318(2):197-198. doi:10.1001/jama.2017.7156)

 この研究は、薬が持っている本来の効果を発揮させるためには、ただ薬を渡せばよいのではなく、在宅での生活支援や副作用管理をチーム医療で支えていくことの大切さを明らかにしました。

 患者の声をただ集めるだけではなく、「患者に還元することで、生活の質は向上できる」という示唆は、これからの医療を考える上でとても重要な方向性ですね。

心の支援にも活用

 スマートフォンを使ったPROの取り組みも出ています。精神科の治療方法のひとつに「認知療法・認知行動療法」があります。人は、ものの考え方や受けとめ方によって気分や行動が変化することがわかっていますが、認知療法・認知行動療法は、こうした人の行動特性に注目をし、「認知」に働きかけを行うことで、気持ちを楽にしたり、行動をコントロールしようとしたりする治療方法です。

 この心理療法は、うつ病などの病気では有効性が認められていますが、診察室の中だけでやろうとすると、患者さんの通院の頻度が増えてしまい継続しなかったりします。専門の医療者も少ないことから、研究で治療の効果があることは分かっていても、現実社会ではなかなか実現できませんでした。

 しかし、これもインターネットやスマートフォンの普及に伴い状況は変化をしてきました。今では、オンライン上にたくさんの心理療法のアプリケーションが登場しています。私もアメリカの大学が開発したという問題解決療法のアプリケーションを使っていますが、ものごとの優先順位を整理するときにとても役立っています。

 日本でも、乳がん患者さんの再発不安の緩和ができないかと、名古屋市立大大学院の明智龍男教授がSMILE projectという心理療法アプリの臨床研究を開始、現在、その効果を検証するための参加者を募集しています(日本医療研究開発機構による助成)。

 参加できるのは、20-49歳の女性で、乳がんの手術後再発なく1年以上経過し、iPhoneもしくはiPadをお持ちの方になります。ご興味のある方は、まずは以下のHPにアクセスしてみてください。

https://smile-project.org別ウインドウで開きます

写真・図版

 これからの医療は、もっと患者中心に、もっと身近な生活の中に、手のひらの中に存在するようになってくるかもしれませんね。

<アピタル:がん、そして働く>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/cancer/

(アピタル・桜井なおみ)

アピタル・桜井なおみ

アピタル・桜井なおみ(さくらい・なおみ) 一般社団法人CSRプロジェクト代表理事

東京生まれ。大学で都市計画を学んだ後、卒業後はコンサルティング会社にて、まちづくりや環境学習などに従事。2004年、30代で乳がん罹患後は、働き盛りで罹患した自らのがん経験や社会経験を活かし、小児がん経験者を含めた患者・家族の支援活動を開始、現在に至る。社会福祉士、技術士(建設部門)、産業カウンセラー。