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 ときに「なんだか疲れが取れないのでビタミン剤を処方してもらえませんか」と患者さんから尋ねられることがあります。結論から言えば、疲労に対して保険診療の範囲内でビタミン剤を処方することはできません。2012年の(平成24年)の診療報酬改定において、安易にビタミン剤を処方しても保険負担分の診療報酬が医療機関に支払われないことが、次のように明記されています。

 「……ビタミン剤については、(1)当該患者の疾患又は症状の原因がビタミンの欠乏又は代謝異常であることが明らかであり、かつ、(2)必要なビタミンを食事により摂取することが困難である場合その他これに準ずる場合であって、(3)医師が当該ビタミン剤の投与が有効であると判断したときを除き、これを算定しない」

 保険診療の仕組みをおさらいします。みなさんが医療機関を利用して支払う料金は、医療費の一部(たとえば3割)です。残りは組合や政府などの保険者が医療機関に支払います。保険者は言い値をそのまま払うのではなく、医療機関が作成した「レセプト」という明細書を審査して支払います。レセプトに不備があると医療費は支払われず医療機関は赤字になります。

 私が医師になった20年前は、わりと安易にビタミン剤が処方されていました。食欲がなかったり元気が出なかったりする患者さんに何か薬を出すのに、それほど害のないビタミン剤がちょうどよかったのでしょう。患者さんにとっても薬をもらったことで安心感や満足感が得られます。私の記憶では、レセプトに「ビタミン欠乏症」という病名を書いておけば、保険者から医療費は支払われていました。地域差もありましたが、今よりもずっとおおらかな時代でした。

 しかしながら、いろいろな理由でこうした状態は望ましくありません。害は小さいとはいえ薬には副作用がつきものです。利益があるかどうか明確ではないのに薬を使うべきではありません。インフォームド・コンセントの観点からも、安心感や満足感だけを目的に薬を処方するのは、患者さんを騙しているようなものです。患者さんの安心感や満足感は、薬に頼るのではなく、診療の中での対話を通じて得ることを目指さなければなりません。

 医療費も問題になります。ビタミン剤は高価ではありませんが、それでも多くの人に使われると公的医療財政を圧迫します。保険者が医療機関に支払うお金は元はみなさんが支払った保険料や税金です。無駄に使ってはいけません。診療報酬改定を通じて必要性に乏しいビタミン剤の処方が減り、医療費の節約になりました。

 どうしてもビタミン剤を飲みたいのであれば、薬局やドラッグストアで自費で購入していただくこともできます。ただ、現在の日本で普通に食事を摂っていれば特定のビタミンが欠乏することはまずありません。ビタミン剤に頼る前にきちんとバランスのよい食事をとることをお勧めします。

《酒井健司さんの連載が本になりました》

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酒井健司

酒井健司(さかい・けんじ) 内科医

1971年、福岡県生まれ。1996年九州大学医学部卒。九州大学第一内科入局。福岡市内の一般病院に内科医として勤務。趣味は読書と釣り。医療は奥が深いです。教科書や医学雑誌には、ちょっとした患者さんの疑問や不満などは書いていません。どうか教えてください。みなさんと一緒に考えるのが、このコラムの狙いです。

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