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 一緒に暮らしている家族の介護に伴う負担は、大変なものでしょう。イライラしてしまったり、怒ってしまう自分を責めたり、介護を担う家族同士の意見の衝突に疲弊したり。これまで、介護する家族が心身の健康を保てるようにという願いを込めてアンガーマネジメントを紹介してきました。でも、介護の負担が増えて家族が心身の健康を崩してしまいそうな時には、介護サービスを利用して負担を減らすという方法もあります。

 介護に関するサービスには、在宅で受けるものと、施設で受けるものがあります。こうしたサービスを利用する人は年々増えています。厚生労働省のまとめによると、要介護(要支援)認定者は、649.3万人いて、在宅でサービスを受けている人は366万人、施設でサービスを受けている人は93.2万人います(2018年6月末時点)。

▼厚生労働省 介護保険事業状況報告 平成30年6月分(2018年9月13日公開)

https://www.mhlw.go.jp/topics/kaigo/osirase/jigyo/m18/1806.html別ウインドウで開きます

 

 施設でのサービスにも、長期間の入所型からショートステイなどの短期間のものまで、選択肢はいろいろとあります。介護は家族が担わなくてはならないという思い込みや、サービスを利用することへの罪悪感をもつ人もいるかもしれませんが、介護サービスを上手に活用するのは家族にとっても介護を受ける本人にとっても助けになると思います。家のなかにいて一対一で関わっていると気持ちに余裕がなくなって、つい感情的になってしまうようなことがあるかもしれません。専門の人に介護をゆだねることは家族自身の心身を保つことにつながる場合もあります。

 ただ、長く自宅で介護を続けてきた家族にとって、初めは戸惑いを覚えることも多いかもしれません。入所型の場合は、施設のルールや業務の効率性なども考慮せざるを得ず、個別の対応が難しい事情があります。それまで家族が工夫してきたやり方が受け入れられないことや、職員の言葉遣いや対応が、目につくこともあるかもしれません。

 また、施設に入所すると慣れない環境で本人が落ち着かなくなることがあります。そうすると、家族もまた本人が施設で迷惑をかけていないか、職員の手を煩わせてはいないか、と気兼ねをして、面会のときに認知症の親が立ち上がろうとするのを「じっとしていて」と行動を制止したり、「大きな声を出さないで」と小言を言ったりしてしまう。すると本人が一層不機嫌になり、声をあげるという悪循環に陥ってしまうこともあります。こうした負の感情が周囲の人に伝わってゆき、施設の職員や入所者同士の関係にストレスが生じることもあるでしょう。

 こうした悩みは、ささいな考え方やものごとの受け止め方の違いによる場合もあり、少しのきっかけやお互いの歩み寄りで解消さることもあるのではないでしょうか。

 

 これは高齢の母親を施設で看取ったある家族の話です。

 「母は認知症の症状で、ほかの入所者の居室に入ってしまったり、収集癖があって物を持ってきてしまったりして、施設の職員の手に余るのではないかと心配していました。ところが『○○さんは、笑顔がステキで入所者のなかでもアイドルですよ」『集めた物をきれいに並べて、物を大事にされるのですね』と、施設での様子を教えてくださる。そうした職員の言葉に救われました。母の良いところをみて接してくださるので、母も穏やかに過ごせました」

 

 苛立ちや不安などの感情が周囲へ伝わっていくように、心地よい感覚や安心感も伝わっていきます。その介護施設を利用してよかった、と家族や本人が思えるかどうかは、設備やシステム以上に、介護のかかわりそのものに大きく影響を受けます。

 介護の現場は、忙しく労働条件も悪い、ストレスの多い職場環境だといわれています。そんな中で、こころ温まる介護を実践している施設もあります。介護施設を利用する家族も、そこで働く職員も、みなが気持ち良く過ごすために、アンガーマネジメントがヒントになるのではないかと思いました。

 次回から介護施設を舞台にアンガーマネジメントを考えていきます。

 

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◆編集部から

<田辺さんの新しい本が出版されました>

 タイトルは『ナースのためのアンガーマネジメント 怒りに支配されない自分をつくる7つの視点』(メヂカルフレンド社)です。(詳しくは https://www.medical-friend.co.jp/biblioDetail.php?b_id=1100別ウインドウで開きます

 

<アピタル:医療・介護のためのアンガーマネジメント・コラム>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/anger/(アピタル・田辺有理子)

アピタル・田辺有理子

アピタル・田辺有理子(たなべ・ゆりこ) 精神看護専門看護師・保健師・精神保健福祉士

横浜市立大学医学部看護学科講師。大学病院勤務を経て2006年から看護基礎教育に携わる。アンガーマネジメントファシリテーターTMとして、医療・介護・福祉のイライラに対処するためのヒントを紹介する。著書に『イライラとうまく付き合う介護職になる!アンガーマネジメントのすすめ』(中央法規出版)がある。