インフルワクチンは効かない? 添加物が心配って本当?

森戸やすみ
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 今年も、インフルエンザワクチンの季節になりました。私のクリニックではワクチン入荷前から現在も問い合わせが多く、関心の高さを実感します。もしかしたら去年、インフルエンザワクチンの製造が遅れ、医療機関で不足して受けたいときに受けられなかったという記憶が新しいから、皆さん焦っているのかもしれません。

 今年は、例年の実施数を上回る量を製造しているので、去年ほどの不足感はないと言われています。ただ、やはり短期間に殺到すると一時的に足りなくなることは想定されるので、厚生労働省は医師会やメディアを通じて「13歳以上の人は原則1回接種」を周知するようしています。(https://www.asahi.com/articles/ASL9F5FD4L9FULBJ00N.html) 例年、12月になってからインフルエンザの流行が始まるので、2回接種の13歳未満のお子さんも、少なくとも1回は11月末までに受けておきましょう。

 「今年のインフルエンザワクチン、いつ受けたらいいの?」(https://www.asahi.com/articles/SDI201711197592.html) 去年のこの記事では「世界保健機関(WHO)がインフルエンザワクチンに効果がないと言った」とか、「インフルエンザワクチンにはチメロサールという水銀が入っているので発達障害になる」というデマについて解説しました。今回は、インフルエンザワクチンは、その年に流行するものとタイプが合わないと意味がないとか、水銀以外にも心配な添加物が入っているという説についてお話しします。

違うタイプが流行すると効かない?

 「ワクチンを打ったのに、インフルエンザにかかった」、「ワクチンと実際の流行とのタイプが一致しないと効かないから打つ意味はない」。こんな話を聞いたことがありませんか。

 ヒトに感染するインフルエンザウイルスは「A型」「B型」「C型」の三つに大きく分かれています。流行の原因となるのはA型とB型で、その中にも細かい種類があり、さらに小さな変異をしていっています。シーズンの間にAとBの両方がはやって2回かかることもあります。

 インフルエンザワクチンは、WHOが推奨したウイルスの型や前シーズンの流行状況などを参考に、6カ月ごとに次のシーズンで流行する型を予想して作られるのですが、実際にはやるものと一致しないことがあります。ワクチンは、インフルエンザウイルスへの感染を予防することはできませんが、感染してから発症する可能性を抑える効果と、発症してから重症化を防ぐ効果があるとされています。もし流行する型がはずれていても、重症化して肺炎や脳症になるのを防ぐ効果は期待できますから、ワクチンの意味がないということはありません。  

ワクチンの添加物が心配?

 「ワクチンには添加物としてホルマリンやアレルギーの原因となるゼラチン、胎児細胞が入っているから心配だ」という人もいます。実際はどうなのでしょうか。

 インフルエンザワクチンは「不活化ワクチン」といって、ウイルスの感染力や毒性をなくして作られます。この毒をなくす過程で、ホルマリン(ホルムアルデヒド)が使われ、精製過程で取り除かれるもののわずかに残ることがあります。日本で使われるインフルエンザワクチンには、全く入っていないか、入っていてもとてもわずかな量です。

 実は私たちの体内には、たんぱく質を合成するためホルムアルデヒドが存在します。また、自然界にもホルムアルデヒドはあって、農作物を通して体内に入ります。例えばリンゴ、ホウレンソウ、豚肉、タラなど、毎日食品として取るほぼすべてのものに含まれますが、リンゴ1個と比べてもワクチン中のホルムアルデヒドはかなり少なく、ほぼ無視していいくらいの量です。

 ゼラチンは安定剤の目的で添加する場合がありますが、インフルエンザワクチンには含有されません。

 胎児の細胞が入っていると聞くと、気味悪く聞こえるでしょう。ウイルスは培地さえあれば増えるというものではなく、他の生物の細胞を利用して増殖するので、ワクチンを製造する際に胎児の細胞が使われることがあります。でも、製造過程で使われるだけで混入しているのではありませんし、インフルエンザワクチンの製造にはヒトの細胞は使いません。デマです。

少なくとも1回は受けて 

 インフルエンザワクチンは、入院や重症化のリスクを考えれば、毎年の接種が勧められるワクチンです。特にインフルエンザにかかるとリスクの高い妊娠中の女性は最優先でワクチンを受けるべき、他にも生後6カ月~6歳未満の子ども、高齢者、ある種の持病のある人、医療従事者はワクチンの優先度が高いとしてWHOは接種を推奨しています(http://www.who.int/features/qa/seasonal-influenza/en/別ウインドウで開きます)。

 ワクチンには、法律で定められ公費で行う定期接種と、それぞれが自費で受ける任意接種があります。日本のインフルエンザワクチン接種は、若い人は任意接種。生後6カ月~3歳未満が0.25mlを2回、3歳~13歳未満が0.5mlを2回、13歳からは0.5mlを1回と決まっています。また、60歳~65歳未満で特定の持病がある人や、健康でも65歳以上は定期接種として0.5mlを1回打ちます。

 「9歳以上の人はインフルエンザワクチン接種を1回すればいい」という話を聞いたことがありますか?WHOは、9歳以上〜成人は1回接種を推奨しています。厚生労働省のホームページ、インフルエンザワクチンの欄にもあります。(https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou01/qa.html別ウインドウで開きます) インフルエンザにかかるとリスクが大きい持病があるとか、受験生なのでかかってしまい長期間寝込むのは困るという場合でなければ、9〜12歳でも1回でいいかもしれません。医療機関に行くのが大変で2回も受けられないから行かないというよりは、1回でも受けた方がずっといいでしょう。

<アピタル:小児科医ママの大丈夫!子育て>

http://www.asahi.com/apital/column/daijobu/(森戸やすみ)

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森戸やすみ
森戸やすみ(もりと・やすみ)小児科医
小児科専門医。1971年東京生まれ。1996年私立大学医学部卒。NICU勤務などを経て、現在はどうかん山こどもクリニックに勤務。2人の女の子の母。著書に『小児科医ママの「育児の不安」解決BOOK』(内外出版)、共著に『赤ちゃんのしぐさ』(洋泉社)などがある。医療と育児をつなぐ活動をしている。