赤ちゃんにビタミンK投与は必要? 止血に大切な役割
ツイッターで盛り上がっては消え、忘れた頃にまた話題になる話があります。産後、病院で赤ちゃんに飲ませる「ビタミンK2シロップ」についてです。ビタミンK2を自分の赤ちゃんにいつのまにか飲まされていた、添加物が入っているから与えたくない(与えたくなかったのに)、いやビタミンK2は大事だ……というものです。他にもビタミンK2は毒だといううわさがあります。この際、整理してみましょう。
日本の産科施設では、赤ちゃんが生まれて数回授乳ができたらビタミンK2のシロップ薬を飲ませます。その後、退院の間際と生後1カ月の合計3回、必ず飲ませます。くわえて、母乳だけで粉ミルクを飲まない子は、生後3カ月まで毎週1回ビタミンK2を飲ませることが推奨されています。これは、ビタミンKが出血を止めるのに大切な役割を果たすためです。
血液を固めるビタミンK
私たちの体は、絶妙なところでバランスを取っています。意識をしていないものの、体中のどこかで血管が破れたり出血が起こったりし、止血するために血液が凝固して、いつの間にか血管が修復され、できた血のかたまり(血栓)が溶解しています。
例えば、歯を磨くと微小な血管が壊れて歯肉から血が出ます。うがいをして血が混ざっていないときでも、歯茎は細かい傷をつけられて出血しているんです。重い荷物を背負った後、重さがかかっていた肩の点状出血に気づくこともあります。そういった細かい出血が起こっても、止血したり血栓を溶かしたりする機能が働きます。生きている間はそういった機能が常に体内で働いていて、なかでも止血する働きを活性化させる重要な役割を持っているのがビタミンKです。
赤ちゃんが小さいうちは、その血を固めたり溶かしたりといったバランスをくずすと命に関わったり、その後の人生に影響が出たりします。小児科診療をしていると、乳児期に脳梗塞や出血を起こした症例を診ることがあります。特に新生児医療では、生まれてきた子がすでに、あるいは生まれて間もない子が、脳梗塞や血栓症を起こしていたという症例を経験します。生命や機能に直接関係ない他の場所ならいいかもしれませんが、脳のような重要な場所で出血してそれを止めることができなかったり、血管が詰まってしまったりしたら大変なのです。
赤ちゃんはビタミンKが不足しやすい
赤ちゃんは止血をするためのビタミンKが不足しがちです。ビタミンKは胎盤を通りにくいため、妊娠中にお母さんから赤ちゃんに移行する量はわずかです。
ビタミンK2のシロップを飲むのに反対する人の中には、母親が納豆などビタミンKを多く含むものを食べれば大丈夫という人がいます。もちろん、妊娠中にそういったものをお母さんが食べることは重要ですが、残念ながらそれだけでは足りません。
母乳中にも、ビタミンKは十分な量が含まれていません。粉ミルクにはビタミンKを入れてありますが、混合栄養の場合、どのくらいの量の粉ミルクを飲んでいれば、母乳を飲んでいてもビタミンK2シロップを飲む必要がないかという研究はされていません。倫理的に今後も、そんな実験が行われることはないでしょう。また、赤ちゃん自身が腸内細菌を使ってビタミンKを作る機能も未熟です。
ビタミンKが足りないと、「ビタミンK欠乏症」になって体の中で出血を起こすことがあります。小児のビタミンK欠乏症は、出生後24時間以内、生後24時間〜7日まで、出生後2週〜6カ月までの間に発症するものに大別できます。ビタミンK欠乏性出血は新生児の300人に1人の割合で起こると推計され、生後3カ月までのビタミンK欠乏症では8割が頭蓋内出血を起こします。そのため、小児科医は、ビタミンK2投与をとても重要だと考えています。
添加物が嫌?
それでも、ビタミンK2シロップを飲ませたくないという人はいます。
「添加物がたくさんはいった薬を飲ませるのは嫌。子どもの口に入れるものに気を使うのは親として当たり前ではないですか」という意見もあります。
ケイツー(ビタミンK2シロップの商品名)の添付文書には、「添加物として安息香酸ナトリウム、クエン酸水和物、ゴマ油、水酸化ナトリウム、ソルビタン脂肪酸エステル、D-ソルビトール液、パラオキシ安息香酸エチル、プロピレングリコール、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、香料を含有する」とあります。こういったものは安定性、保存性をよくするために入れてあり、もちろん安全性は確かめられています。
赤ちゃんに1回に与える量は2mg(1ml)です。それぞれの添加物の量は、ごくわずか。 少しの添加物と子どもが安全に成長することは、比較の対象にもならないと私は思います。
これを製薬会社と医師が結託して、お金をもうけようとしているという人がいます。1回のビタミンK2シロップの薬価は26円。これを最低3回、多くて11回だと、78円あるいは286円。極めて安く、赤ちゃんの生命に比べたらタダ同然だと私は思います。製薬会社は、もうけるためと言うよりも、自社が製造をやめたら日本中の赤ちゃんが困るくらいの考えなのではないでしょうか。
おそらく、ビタミンK2の話は今後も繰り返されるでしょう。妊娠初期に渡される母子手帳に、もっと読みやすくわかりやすい説明があると、毎回医師が説明するという必要がなくなるのではないかと考えます。日本小児科学会のホームページにもガイドラインがあります(http://www.jpeds.or.jp/modules/guidelines/index.php?content_id=32)。
<アピタル:小児科医ママの大丈夫!子育て>
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- 森戸やすみ(もりと・やすみ)小児科医
- 小児科専門医。1971年東京生まれ。1996年私立大学医学部卒。NICU勤務などを経て、現在はどうかん山こどもクリニックに勤務。2人の女の子の母。著書に『小児科医ママの「育児の不安」解決BOOK』(内外出版)、共著に『赤ちゃんのしぐさ』(洋泉社)などがある。医療と育児をつなぐ活動をしている。