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 京都大学・本庶佑特別教授のノーベル医学生理学賞受賞の知らせは、本当にうれしいニュースでした。ちょうど発表の前の週は、大阪で開催されていた日本癌学会学術総会(9月27日〜29日)でしたから、学会会場では、「きっと本庶先生が受賞されるので」との話題で沸いていました。今回は受賞理由となった免疫療法について解説します。

ノーベル賞を受賞した免疫療法とは

 ノーベル賞をめぐる周囲の騒がしさにもかかわらず、学術総会の特別シンポジウムに登壇された本庶先生は、淡々と基礎研究の大切さ、ひらめきを形にし社会へ届けていく道のりの難しさと、その信念をもって効果を科学的に再現、証明していくことの大切さを会場に伝えました。

 私が、本庶さんが見つけた仕組みと遭遇したのは、確か2012年のAACR(The American Association for Cancer Research:米国癌学会)年次総会でした。効果を表したグラフを見て、「これは一体何がおきているんだろう?」と本当に驚きました。

 「がん免疫療法」を薬という形にして私たちの手元に届けるまでには、多くの患者、家族、医療関係者、企業、行政機関などの尽力がありました。私たちはこのことを忘れてはいけないと思っています。

 では、この新しい仕組みを持つ薬剤は、これまでの薬や免疫療法と何が違っているのでしょうか?

 

 いわゆる、抗がん剤や分子標的薬と呼ばれる薬剤は、正常細胞や癌細胞を直接やっつけるという治療方法でした。また、これまでの免疫療法は、私たちの身体の中に備わった免疫力を持つであろう細胞の数を増やすなどすれば、がん細胞を攻撃できるのではないかという理論に基づいた治療方法でした。

 本庶先生は、そうではなく、「がん細胞をやっつけようとする免疫機能が、自分自身(がん細胞)を攻撃させないようにブレーキをかける仕組み」があることに着目をし、「そのブレーキを解除したり、異物をやっつけようとする免疫細胞自体がもっている機能が元通りに働くしくみ」を作れば、がん細胞をやっつけられることを発見したのです。

 つまり、「攻撃する数の多さで対抗するのではなく、がん細胞の戦術を見抜いて攻撃する仕組みを発見した」ということです。この仕組みを薬という形で届けたのが、現在の「免疫チェックポイント阻害薬」になります。

 免疫療法について知りたい人は、以下の国立がん研究センターの情報を是非みてください。とても分かりやすくまとまっています。

〈国立がん研究センター・がん情報サービス「免疫療法」について〉

「免疫療法 まず、知っておきたいこと」

https://ganjoho.jp/public/dia_tre/treatment/immunotherapy/immu01.html別ウインドウで開きます

「免疫療法 もっと詳しく知りたい方へ」

https://ganjoho.jp/public/dia_tre/treatment/immunotherapy/immu02.html別ウインドウで開きます

情報を見極める目を周囲も持つことが大切!

 患者にとっては本当に大きな希望となる治療ですが、全てのがんの部位で使えるわけではありませんし、同じ部位のがん患者さんの中でも、手術ができるかできないか、薬物療法はどうだったのかなど、使える人の条件は異なります。また、「効く」といっても、完全に治るわけではありません。その他、従来の抗がん剤には無かったような特徴的な副作用があることも分かってきており、いま世界中で、「どんな人に、どんな量、どんな回数、どんな治療のタイミングで投薬すれば良いのか」を探す臨床試験がたくさん進んでいます。

 治療には、メリットとデメリットが必ずあります。切れ味鋭い治療にはそれなりに副作用もあるということを知り、きちんと対応できる医療施設で治療を受けることが重要です。

 2018年3月9日に閣議決定された第三期がん対策推進基本計画の検討時も、「免疫療法」を治療の柱のひとつとして明記することに議論が起きました。その場にいた委員全員から「科学的根拠に基づいた免疫療法と、そうではないものとをしっかり分けることが大切」と強く要望がでました。

 これを踏まえ、以下のような記述があります。

 「がん診療提供体制のあり方に関する検討会」の中でも、保険適応外の免疫療法などについて議論され、報告書の中では「保険適応外の免疫療法を行う場合については、科学的根拠の集積を目的に、原則として治験や先進医療を含めた臨床研究の枠組みで行うこととすべきである」と明記されています。

 自分が、あるいは、自分の家族ががんになったとき、多くの人は「治したい、治してあげたい」と思うでしょう。また、「ノーベル賞をもらった免疫療法」と聴けば、「私にも、あの人にも効くのではないか」と思い、情報を求めたり、患者や家族に薦めることもあるでしょう。

 しかし、残念ながら、インターネットなどの医療情報サイトでは、効果が明らかではない「免疫療法」を実施している医療施設が存在しているのも現状です。

 何が正しくて、何が見極めるコツとして、全国がん患者団体連合会のHPに提示されています。

〈全国がん患者団体連合会による注意喚起(2018年10月5日)〉

http://zenganren.jp/?p=1526別ウインドウで開きます

 どうか、このポイントで情報を見極めること、そして、まずは主治医に相談してみましょう。そのことが自分の、そして家族の命を守ることにつながるのです。

安心して暮らせる社会づくりが大切

 私が代表を務めているCSRプロジェクトの無料電話相談・ほっとコール(https://workingsurvivors.org/secondopinion.html別ウインドウで開きます)でも、免疫チェックポイント阻害薬に限らず、「金曜日の夜に入院して月曜日の朝には病院から会社へ行けますから、職場には何も言わないで仕事を続けることができますよ」と言った説明を行い、科学的根拠に基づかない治療を提供している医療機関へ行きかけた患者さんからの相談を受けることがあります。「PDL1は私にも効くのではないか?受けられる医療施設を紹介してほしい」といった内容の問い合わせが入ることも少なくありません。

 先日、一般社団法人日本難病・疾病団体協議会の方とお会いしたときにこんなお話を伺いました。「総合的な意思としては『病の完全克服』ではありません。病の克服を目指すことは大切ではありますが、実現するまでにはかなりの時間がかかります。だからこそ、まずは「安心して暮らせる社会」をつくることが大切なのです。これは「難病の患者に対する医療等に関する法律(難病法)」の根幹理念となっているのです」。

 免疫チェックポイント阻害薬の研究は、がんのみならず、今まで治療方法がなかった疾患にも応用できる可能性を秘めています。それは大きな希望です。しかしながら、人間の身体の仕組みはそう簡単なものではなく、「完治」に至るまでにはまだまだ課題も山積しているのが現状です。

 治癒に向けた研究を確実に進めていくためにも、研究に対する予算の確保を含め、国民一体となった体制づくりが重要であると同時に、「安心して暮らせる社会づくり」を現在進行形で進めていく必要があります。

 なお、本コラムでの免疫療法に関する表現については、国立がん研究センターがん対策情報センター長の若尾文彦先生のご助言をいただきました。この場を借りて、御礼申し上げます。

<アピタル:がん、そして働く>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/cancer/

(アピタル・桜井なおみ)

アピタル・桜井なおみ

アピタル・桜井なおみ(さくらい・なおみ) 一般社団法人CSRプロジェクト代表理事

東京生まれ。大学で都市計画を学んだ後、卒業後はコンサルティング会社にて、まちづくりや環境学習などに従事。2004年、30代で乳がん罹患後は、働き盛りで罹患した自らのがん経験や社会経験を活かし、小児がん経験者を含めた患者・家族の支援活動を開始、現在に至る。社会福祉士、技術士(建設部門)、産業カウンセラー。