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 11月最初の週末に、NPO法人「コミュニティスクール(CS)・まちデザイン」(東京都)の企画で、福島県いわき市を訪ねました。くらしやまちを豊かにするための学びをコーディネートしている団体です。そこで、福島の海・漁業に関わる方に話を聞く機会に恵まれました。

 1人目は、福島大学准教授の林薫平さん。福島の漁業に詳しく、「福島県地域漁業復興協議会」委員などを務め、漁業の現状と今後のあり方を研究、発言してきました。

 東京電力福島第一原発の事故後、全面自粛になっている福島県の沿岸・底引き網漁業ですが、放射線物質の検査をしながら、試験操業が行われています(※1)。2012年の開始当初はミズダコ、ヤナギダコ、シライトマキバイの3種だけ。次第に魚種を拡大し、昨年からは出荷制限がかかっている魚種(現在7種類 ※2)を除き、すべての魚介類が試験操業の対象となっています。出荷先も当初は県内のみでしたが、東京都や宮城県など消費地の市場へも広げてきています。

 試験操業の目的は、出荷先の評価を調べ、漁業復興のための基礎データを得ること。放射性物質については、水揚げされた魚種それぞれから1検体ずつ漁協が自主検査し、国の基準値(1キロあたり100ベクレル)の半分に設定した50ベクレルの自主基準を超えるものは出荷していません。

 自主検査の結果は、近年は、検出限界値未満ほぼ一色。海の状況は改善しています。福島県のモニタリング調査でも2016年以降、基準値を超える海の魚介類は出ていません(※3)。

 「消費地の市場では他県産と同じ程度の価格で取引されており、福島だからダメという受け止めではない」と林さん。本格的な操業に向けて、試験操業を次のステージに進めていく段階に来ていると言います。

 その際にポイントとなるのが、安全性を確保するほかに、鮮度など品質管理と、資源管理も合わせ、3点セットで競争力を確保することだといいます。県内の漁協では、持続可能で適切に資源管理されていることを示す「水産エコラベル」の取得が進んでいます。

 福島では、持続可能な漁業で高品質の新鮮な魚を捕っていく、という方向を目指す。「まずは県内で、例えば生協とタッグを組み、顔の見える地産地消の関係を築くことが、大きな役割を果たすでしょう」。そこから広域に関係を広めていくことを視野に入れているようでした。

 林さんがこれまでの経緯の説明の中で強調していたのが、「『漁協が汚染水の放出を承諾してきた』という理解は事実と異なり、正確ではない」ということ。

 上流側の地下水をくみ上げる「地下水バイパス」や、原発建屋周りの井戸から地下水をくみ上げる「サブドレン」の放水を認めたのは、地下水を原発の汚染源に近づけないことで汚染水を増やさないため。対策を進めることで、海側の遮水壁を閉じ、原発からの汚染水が海に流れ込まないようにする判断でした。

 「先の見えない中で、漁業者は一つ一つ積み上げて粘り強く試験操業に取り組み、それと並行して、海の汚染の問題に向き合い、廃炉問題をめぐって東京電力、政府と対峙することを強いられてきました」と林さん。この7年、漁業者が置かれた苦しい立場と選択の経緯を、広く理解することが必要だ、と。林さんが「横のつながり、精神的なつながりを作らないと」と話していたのが印象的でした。

 さて、話をうかがったもう一人は、いわき市で活動するローカルアクティビスト、小松理虔さん。13年から定期的に海で魚を釣り、放射性物質の濃度を調べるプロジェクト「いわき海洋調べ隊うみラボ」を有志で運営しています(※4)。これと関連して、測定と福島県産の魚の試食を楽しむ「調(た)べラボ」も、15年からいわき市の水族館「アクアマリンふくしま」で行われています。

 「まず、自分たちで状況を知りたいというのが出発点でした」と小松さん。調べていくほどに福島の魚に、海に詳しくなっていったと言います。すると段々食生活も変わってきて、魚をよく食べるようになり、鮮魚店にも足を運ぶように。そこでまた人と知り合いになったりと、「放射性物質を調べに行っていたはずが、地域に詳しくなりました。自分の生活が面白くなるためにやらないと、活動は長続きしないと思うのです」

 調べラボでも、試験操業で取った福島の魚を食べた、おいしかったという体験が重要。「放射性物質を測ってみた結果というサイエンスの部分は、もちかえって後で思い返してもらえればいいや、ぐらいの考えです」

 個人的には、以前は多くの情報を公開することで、理解させて行動を変えて欲しいという啓発の思いが強かったけれど、今は共存を考えているそう。「科学のデータとリスク判断は別。人それぞれに白黒のつけ方が違う」。食べない人の理由は尊重して深追いせず、むしろ、多数派である中間層(関心の薄い人たち)をターゲットにアプローチしたいと言います。

 小松さんは今年、著書「新復興論」(ゲンロン刊)を発表しました。いわき市での自らの体験を立脚点に、原発事故後、復興という名の下に変わっていく地域とこれからを論じています。

 うみラボの活動を記した中にこんな一節があります。

 「楽しくなければ活動は長続きしない。復興のため、福島の漁業のためなどと大義を掲げていたら、いつかその活動はつまらなくなり、やらされるものになってしまう。(中略)私たちはただ、自分の生活を楽しいものにしたいからこそ、福島の海を調べた。楽しくなければ誰も関わってくれない。おいしくなければ口にしてもらえない。面白くなければ興味すら持ってもらえない。そのようなポジティブな動員でなければ、廃炉を見届けるだけの持続性も生まれない。原発事故を背負った私たちは、廃炉という結末を、自分の子や孫の代に押し付けることになる。自分以外の外部に、もしかしたら会ったこともない未来の子孫にまで、廃炉を託さずにはいられないのだ。今この狭いフクシマに閉じ込められていたのでは、時間的にも、空間的にも外部に声を伝えることはできない。ふまじめな動機こそ、今このフクシマを突破できる力になるはずだ(後略)。」

 「楽しむ」を切り口に語る小松さんの言葉は、「食べる」行為が持つ、根源的な力を指し示しているようにも思えました。食べて、おいしい、楽しい。誰でも、特別な技術を使わずにできるその体験が、これからを考える入り口になる。文字どおりの「腹落ち」で、お腹の中に入れることが出発点。またいわき市を訪れて、さらに色々楽しく腹落ちしてみたい、そう思った今回の旅でした。

※1 試験操業のサイト

http://www.fsgyoren.jf-net.ne.jp/siso/sisotop.html別ウインドウで開きます

※2 現在、出荷制限のかかる魚種は、ウミタナゴ、クロダイ、サクラマス、ヌマガレイ、ムラソイ、ビノスガイ、カサゴ

※3 福島県水産課サイト

http://www.pref.fukushima.lg.jp/sec/36035e/suisanka-top.html別ウインドウで開きます

※4 うみラボのサイト

http://www.umilabo.jp/別ウインドウで開きます

 

<アピタル:食のおしゃべり・トピック>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/eat/

(大村美香)

大村美香

大村美香(おおむら・みか) 朝日新聞記者

1991年4月朝日新聞社に入り、盛岡、千葉総局を経て96年4月に東京本社学芸部(家庭面担当、現在の生活面にあたる)。組織変更で所属部の名称がその後何回か変わるが、主に食の分野を取材。10年4月から16年4月まで編集委員(食・農担当)。共著に「あした何を食べますか?」(03年・朝日新聞社刊)