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 これまで、怒りは自分の価値観と異なる状況や考え方、価値観に遭遇した時に生じるということについて説明してきました。こうした自分の価値観とのズレは、職場の組織文化などに対して感じることもあります。どこの職場にも独自の決め事や暗黙の了解事項があり、転職や異動などで新しい職場に入った人は、そうした職場のルールに戸惑うことがあります。

 今回は介護チームとして、自分とは異なる価値観を受け入れながらチームの力を高めるヒントを考えます。

 介護の現場で働く人は、キャリアも価値観も多様です。もちろん働き方の多様化は介護現場に限ったことではありませんが、わが国の高齢化が進むにつれて介護職の人材不足が深刻化し、需要の高まりとともに異業種からのキャリアの転向や、外国人材の雇用などが促進されています。そうして多様な背景や考え方をもつ人がチームで働いているのです。

 また、公益財団法人介護労働安定センターの調査によれば、介護の仕事に就いた人で前職のある人のうち、約3割は前職が介護関係の仕事だったそうです。介護の仕事を離職したあと、別の職場で再び介護の仕事に就くという人が一定数いるということです。このような場合も、新しい職場のやり方に戸惑うこともあるものです。

怒りの事例1

 新しい職場に転職したAさん。ここでのやり方や入所者ごとの特徴、物品の場所もわからないのに、介護度の高い人の入浴介助をで任されてしまった。どうしよう、いきなり一人でやるなんて無理。人に任せる前に、きちんと教えてよ!

 新しい職場では、わからないのになかなか質問しにくいと感じてしまったり、受け入れる側も「経験者なのだから当然できるだろう」と思い込んで対応したり、コミュニケーションの行き違いが生じることもあるかもしれません。もともとその職場で働いている人にとってはそれが当たり前で意識することはなく、介護の常識だと思っている場合もあります。

 

怒りの事例2

 大きな介護施設から小規模のグループホームに転職したBさん。入浴道具と着替えが別々の場所に置かれていたり、食事に使うおしぼりと湯飲みが別の部屋に置かれていて非効率な動線なのが気になって、改善策を提案しようとしたけれど「ここではこういうやり方なの!」と言われてしまった。意見を聞いてもらえなくて悔しい!

 新たな視点だから気づけることもあり、新しいアイデアをもらえることは組織にとって貴重なことです。

 しかし、もともといる職員にとっては、提案された内容に関係なく新参者に言われたくないという抵抗もあるのかもしれません。

 

怒りの事例3

 長い間、同じ施設で働いてきたベテランのCさん。新しく異動してきた上司が、部署の特徴やこれまでのやり方を無視して、自己流のやり方に変えようとする。皆で工夫してきたことを理解しようとしない上司に腹が立つ!

 たとえ、効率的なやり方、妥当な方法ではなかったとしても、理由があって工夫してきたことを否定されるのは辛いものです。しかし、上司に対しては言いにくいという遠慮もあり、不満をためてしまう可能性もあります。そうした溝がいつのまにか深くなってしまうこともあります。

 

 新しい職場に入った人にとっても、迎える人にとっても、はじめは相手への警戒心もあり、お互いに歩み寄ることへの抵抗感があったりするのかもしれません。でも、こうした抵抗感は、会話の方法をひと工夫することで、ぐっと小さくすることができます。

 例えば、事例1では、教えてくれないという不満は脇において「教えて欲しい」と伝えることも必要です。仕事を任せる側も「経験があってもわからないこともあるかもしれない」という配慮も必要です。

 また事例2では、「意見を聞いてほしい」「アイデアがあるので話をしたい」と伝える時に、相手が忙しそうでないか、話し方に嫌みが無いかなど、タイミングや言葉を選ぶ工夫も大切です。これまでのやり方の意図を知ろうとする姿勢や、新しい職場でのやり方を受け入れてみようという思考の転換をもつことも、気持ちの余裕をつくる助けになるでしょう。

 受け入れる側も、新しく来た人に何かを提案されたからといって、これまでのやり方を変えなければならないというわけではありません。施設で長く行われている手順やルールには、その施設なりの理由や事情もあるものです。まずは意見を聞いてみて納得すれば取り入れれば良いし、いまのやり方のほうが良ければその理由やこれまでの経緯を説明すれば良いのです。それは、相手が上司でも同じことです。

 事例3のようなケースでは、新たな上司を受け入れる姿勢を示したうえで業務改善は一緒に考えたいと伝えてみてもよいでしょう。一人で意見を言いづらければ、同じ職場の何人かで話を持ちかけてもよいかもしれません。

 

 多様な価値観を認めながら、対話する機会をできるかぎり持ってみてはいかがでしょうか。それが相手と歩み寄るためのきっかけになる可能性もあります。

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 このコラムでは、医療や介護の場面を取り上げながら、怒りやイライラといった感情との付き合い方を紹介しています。

▽参考:公益財団法人介護労働安定センター「平成29年度『介護労働実態調査』の結果」2018年8月3日公表 http://www.kaigo-center.or.jp/report/h29_chousa_01.html別ウインドウで開きます

 

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◆編集部から

<田辺さんの新しい本が出版されました>

 タイトルは『ナースのためのアンガーマネジメント 怒りに支配されない自分をつくる7つの視点』(メヂカルフレンド社)です。(詳しくは https://www.medical-friend.co.jp/biblioDetail.php?b_id=1100別ウインドウで開きます

 

<アピタル:医療・介護のためのアンガーマネジメント・コラム>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/anger/(アピタル・田辺有理子)

アピタル・田辺有理子

アピタル・田辺有理子(たなべ・ゆりこ) 精神看護専門看護師・保健師・精神保健福祉士

横浜市立大学医学部看護学科講師。大学病院勤務を経て2006年から看護基礎教育に携わる。アンガーマネジメントファシリテーターTMとして、医療・介護・福祉のイライラに対処するためのヒントを紹介する。著書に『イライラとうまく付き合う介護職になる!アンガーマネジメントのすすめ』(中央法規出版)がある。