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 11月16日~19日まで、京都で開催された国際小児がん学会「SIOP(シオップ)」の学術集会に参加してきました。1969年にスペインのマドリードで立ち上がった研究グループが始まりです。1回目の学術集会は71年にドイツのマインツで開催され、このときの参加者数は120人、18カ国だったそうです。今回の50周年記念集会では110カ国、2500人が参加しました。集会で感じた課題や問題点を報告します。

・国際小児がん学会(SIOP)が京都で開催

・最新の治療法から緩和ケア、心理社会的支援、途上国の問題まで

・小児がん治療の目線から得られるヒントはたくさんある

多くの職種集まる小児がんの学会

 SIOPは「the International Society of Paediatric Oncology」の仏語の略です。参加者の職種は、外科医、内科医、放射線科医など医師のほか、研究者や教育関係者、看護師、心理士、薬剤師、患者・家族など、多くの職種の関係者が参加をしています。特に、心理職の参加が多いことは特徴で、小児がん医療に関わる重要課題のひとつでもあります。

 小児がん医療といえば、近代化学療法の父とよばれている医師、シドニー・ファーバー(Sidney Farber)が有名です。SIOPの歴史を振り返るセッションでも、(ファーバーが設立した)ジミー・ファンド・クリニック設立(現在の米国のダナ・ファーバーがん研究所)や米大リーグ、ボストン・レッドソックスの「最後の4割打者」と呼ばれるテッド・ウィリアムスによる研究への寄付協力などが紹介されていました。このように、小児がん医療の推進には、社会の協力が欠かせないのです。

 会場内には、こうした歴史を振り返るパネルの展示や、小児がんの子どもたちが書いた絵、そして、亡くなられた患者(患児)との思い出を振り返る写真などが展示されており、今と未来をつなぐ様々な思いにあふれた会場づくりがされていました。

全身管理と全体調整

 小児がんは、身体の深いところから発生をするものが多く、血液のがんや、骨、筋肉のがん、脳のがんなど、日本でも年間2千人~2500人が発症している病気です。それぞれのがんの部位の中でもたくさんのタイプのがんに分かれるため、小児がんは「希少で多様」です。

 治療方法は1950年~60年代に進歩をし、今では70~80%程度の子どもが治るようになってきました。そのため最近では、治療後のフォローアップや生活習慣の管理、治療の後遺症、2次がんへの対処など、中・長期フォローアップに関する研究や課題も取り上げられてきています。また、AYA(アヤ)世代(Adolescent and Young Adult=思春期と若い成人ら、15歳から39歳)を巡る問題も取り上げられるようになってきました。

 小児がんは、70~80%が治るようになってきたといっても、中にはまだまだ難治ながんもあり、より一層の治療の開発と社会支援が必要な領域です。

 学会に参加をしてみて重要だと感じたのは、がんのある部位だけでなく心の問題まで含めた「全身管理」の目線。そして、治療だけでなく、患者の暮らしや、就労や教育など生活の質を支えるための支援を含めた「全体調整」や治療が終わった後も、長く患者を支援していく「中長期フォローアップ」の目線です。

 小児がんは、薬への反応が良いことから治療は大人以上に厳しいものですし、その治療自体を本人が決めるのか、それとも家族が決めるのかという告知の課題もあります。また、治療後は、後遺症や全体管理のフォローアップを誰がどこでどう診ていくのかといった課題もあります。

 こうした関係性の多様さと時間的な長さは、家族も患者も成長過程にある小児がんの特徴でもあります。ただ単に医学的に治せばよいということではなく、「全身管理と全体調整」を長い時間をかけて行っていく必要性があるのが小児がんなのです。

 そのために必要なのが、チーム医療の大切さと心理・社会的支援です。SIOPの中でも、薬や手術、放射線など最新治療や研究結果の発表もありますが、同じぐらいセッションの数が多かったのが看護師や心理職、ソーシャルワーカー向けの枠です。この点は、成人がんの学会とは大きく異なっています。

課題は「希少で多様」

 どのセッションもとても印象的ですが、三つにしぼるとすれば、①がん経験を心理、社会的成長につなぐことを考えるセッション、②新タイプの免疫療法である「CAR-T(カーティー)細胞療法」など最新治療と医療倫理、そしてコストを考えるセッション、③途上国での小児がん治療の現状を紹介するセッション、の三つでした。

 ③は、パラグアイ、ルワンダ、タイ、アルゼンチン、パキスタン、インドネシアでの、小児のがん登録を含めた現状が報告されました。

 タイからの発表では、「通院にかかる費用と時間の削減が、医学的にも、経済的にも、子どもと親の生活の質を考える上でも一番大切」という総括や在宅医療の実践は、日本の離島や中山間地域などでの医療の在り方にも応用できるのではと思いました。

 限られた資源の中でどうやって医療を的確に届けていくのかという議論は、大人にも子供にも関係がなく、重要な目線です。

 「希少で多様」な小児がんの課題を、「それは小児がんの問題」で片付けてはならず、大人がもっと小児がんの課題を社会に語り継いでいくことの必要性を感じています。

 学会のスローガンである「No Child should die of Cancer」(小児がんを克服しよう)に込められた思いを感じる学会でした。

 準備や当日の運営なども大変だったと思います。たくさんの患者と家族、支援者の手に支えられたあたたかい場でした。関係者の皆さまに感謝いたします。

<アピタル:がん、そして働く>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/cancer/

(アピタル・桜井なおみ)

アピタル・桜井なおみ

アピタル・桜井なおみ(さくらい・なおみ) 一般社団法人CSRプロジェクト代表理事

東京生まれ。大学で都市計画を学んだ後、卒業後はコンサルティング会社にて、まちづくりや環境学習などに従事。2004年、30代で乳がん罹患後は、働き盛りで罹患した自らのがん経験や社会経験を活かし、小児がん経験者を含めた患者・家族の支援活動を開始、現在に至る。社会福祉士、技術士(建設部門)、産業カウンセラー。