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 いま、岐阜で豚コレラ(トンコレラと読みます)が発生しています。豚やイノシシの病気で、人間にはうつりませんが、感染力が強く致死率も高いため、家畜伝染病に指定されています。日本で発生したのは1992年以来のこと。豚のほかに周辺の野生のイノシシにも感染が広がっていて、行政は、発生した農場で飼われていた豚は全部殺処分し、防護柵を設置するなどして、封じ込めと制圧を図っています。

 これはこれで畜産業界の大きい問題なのですが、さらに新たな病気が欧州やロシア、そして中国と国際的に流行し、日本にも危険が迫っています。

 「アフリカ豚コレラ」という、ウイルスが引き起こす豚、イノシシの病気です。こちらも人間は感染せず、病気にかかった豚(あるいはイノシシ)の肉を食べても健康に問題は起きません。「豚コレラ」と名前が似ていますが、ウイルスの種類は異なります。

 発熱、皮下出血などの症状が出て、致死率も高い伝染病です。怖いのは、豚コレラと異なり、有効なワクチンがまだないこと。感染力も強いので、いったん発生すると、流行につながりやすく、豚肉の生産に大きな打撃を与えることになります。

 もともとアフリカ大陸の病気ですが、2007年にジョージア(グルジア)へ侵入。ロシア、バルト三国、ポーランドなど東欧諸国へと広がり、今年に入ってからは、欧州で西側に進んでベルギーで発生、そしてアジアで初めて中国で8月に発生が確認されました。

 中国では広い地域に拡散してしまっていて、11月26日現在で、4直轄市15省1区にわたる91カ所で発生しています。遺伝子解析の結果では、ロシア、東欧で流行しているウイルスのタイプと近く、感染源は不明ですが、これらの国々から何らかの形で伝わってきたものとみられます。

 豚同士の接触、ウイルスを含む糞や体液、またウイルスに汚染された肉や肉製品でも感染が広がります。加熱調理すればウイルスを失活化(活動できなくなること)させられるものの、生肉や非加熱加工品には長期間感染性が残ります。

 農研機構動物衛生研究部門によると、ウイルスは死亡した豚の血液や肉、内臓にも3~6カ月残っており、冷凍豚肉で110日間以上、スペインの生ハムの中で140日間以上、くんせいや塩漬けのハムなどの中でも300日間以上感染性を失わないという報告があるそうです(※1)。

 中国での発生拡大の原因には、(1)肉や加工品が混じっている人間の残飯を豚のエサに与えた(本当はエサにする前に加熱すべきなのですが、やっていないか不十分だった)、(2)生きた豚や豚肉製品の遠距離輸送、(3)人間や車両を介してウイルスが拡散した可能性、が指摘されています。

 豚の角煮、肉団子、回鍋肉、酢豚、チャーシューなどなど、中国には豚肉料理の名品がたくさん。中国の人たちは豚肉が大好きで、中国は養豚大国です。国連食糧農業機関(FAO)の統計によると、世界で飼われている豚の47%、約4億8千頭が中国にいます。もしこのまま中国でアフリカ豚コレラが蔓延してしまったら。中国国内の豚肉が足りなくなって、輸入が急増、国際的な豚肉の需給バランスに影響を与えかねないと懸念されています。日本で食べている豚肉の半分は輸入に頼っているので他人事ではありません。

 日本へ侵入する危険性も高まっています。アフリカ豚コレラの発生国から豚肉製品を持ち込むことは法律で禁じられています。動物検疫所は、空港などで中国便の旅客の携帯品検査を強化。肉製品を見つけ出す探知犬を使って手荷物検査をするなど、水際で国内持ち込みを防ごうとしています。

 こうして差し止めた食品の中で、これまでに3例、豚肉ソーセージや自家製ギョーザなどにアフリカ豚コレラウイルスの遺伝子がついていたことが確認されました。

 世界中でたくさんの人や物が行き来する時代、感染症は思わぬ形で広がりやすい。口蹄疫、鳥インフルエンザなど、家畜の悪性伝染病はほかにもあります。アフリカ豚コレラ発生国に限らず、「海外からの肉製品はほとんど日本に持ち込めません」と動物検疫所は警告しています(※2)。免税品店で売っているものや、機内での食事の残りも例外にはなりません。

 年末年始は海外旅行のシーズンでもあります。旅先でおいしかったハムやソーセージを日本でも、とスーツケースに入れたくなりますが、知らず知らずにウイルスの侵入に手を貸すことになるかも。現地でたっぷり味わうにとどめ、肉や肉製品はお土産にしないのが原則と、どうぞ心の隅に書き留めておいてください。

関連リンク

※1 アフリカ豚コレラに関する基本情報(農研機構)

http://www.naro.affrc.go.jp/laboratory/niah/asf/index.html別ウインドウで開きます

※2 動物検疫所のホームページ

http://www.maff.go.jp/aqs/別ウインドウで開きます

アフリカ豚コレラの発生状況など(農林水産省)

http://www.maff.go.jp/j/syouan/douei/asf.html別ウインドウで開きます

 

<アピタル:食のおしゃべり・トピック>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/eat/

(大村美香)

大村美香

大村美香(おおむら・みか) 朝日新聞記者

1991年4月朝日新聞社に入り、盛岡、千葉総局を経て96年4月に東京本社学芸部(家庭面担当、現在の生活面にあたる)。組織変更で所属部の名称がその後何回か変わるが、主に食の分野を取材。10年4月から16年4月まで編集委員(食・農担当)。共著に「あした何を食べますか?」(03年・朝日新聞社刊)