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 このコラムでは、ADHDに悩む30代女性・リョウさんのお話を続けています。新婚のリョウさんは前回までに、夕食がどうしても夜11時になってしまうという難題を克服するため、親友のミズホさんから「三つの秘訣」を伝授してもらいました。

 そして、買い物を週1回のネットスーパーですませ、平日の夕ご飯は定番の簡単メニューにすることなどで、なんとかまともな時間に夕ご飯を用意できるようになったのでした。

 ところが、リョウさんはまた別の問題で頭を抱え始めていました。

 リョウさんは、毎日多彩な家庭料理で家族をもてなしたい、という「理想の新妻像」に憧れを持っていました。夕食を定番の簡単メニューですませることについて、頭では「こうするしか生活がまわらない」とわかっていたつもりでした。しかし、心では、さえない食卓に物足りなさを感じて「どこかで穴埋めしたい」と思っていました。

 その穴埋めのために、リョウさんは、こんなことをしていました。

 リョウさんも夫もふたりとも、お酒は大好きです。出会いもまたバーですから、平日でも毎日のようにお酒を飲みます。リョウさんは憧れの新婚生活がスタートしたのですから、少しでも夫を喜ばせたいと思っています。なので、夕食が簡単な代わりに、毎日シャンパンやワインを用意するようになりました。それに合うようなチーズもナッツも欠かせません。

 

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 休日には、ふたりで高級レストランに行きました。夜景のキレイなレストランで、フレンチのコース料理も味わいました。食事だけでなく、また夫を喜ばせたい気持ちだけでなく、リョウさんはファッション雑誌などでステキなコーディネートを目にするとつい欲しくなって、衝動的に夫に素敵なマフラーや、コートや、靴を買いました。そうです。ADHDの衝動性がここでも発揮されてしまったのです。

 こうして、キラキラとした、生活感のない楽しい日々が続きました。そのため、前回のお話まで険悪なかんじになっていた夫婦仲は、あっという間に修復できました。

 

 そんな幸せな生活に陰りが見えたのは、翌月のことでした。リョウさんのもとに、クレジットカード会社から「残高不足で引き落とせない」という通知が届いたのです。そうです。お察しのとおり、リョウさんは、収入よりもはるかに高い生活費を浪費していたのです。

 実はADHDの方には、こうしたクレジットカードの使い過ぎの問題が多く見られます。中には、クレジットカードを使いすぎた分をなんとか取り返そうと、パチンコなどのギャンブルにはまってしまう人もいます。

 リョウさんは、急いで延滞金も含めたお金を振り込みました。幸い他の銀行口座に残っていたお金で払える額だったのです。でも、内心ドキドキしていました。

 リョウ 「どうしよう。ちょっとやりすぎたね。まさかこんな額になっていたなんて。今月こそ気をつけないと。こういうの繰り返してるとブラックリストにのるのかな? そしたら、将来ローンって組めなくなるのかな」

 

 リョウさんは、家計簿をつけません。こんなふうに残高不足の通知が来たり、電気や水道の支払いが遅れて止められたりしたことは、初めてではありません。そんな嫌な失敗経験から、リョウさんはお金の話題は恐ろしく苦手で、家計簿をつけることを避けていたのは自然なことでした。

 

 どんなに親しい間柄でも、避けてしまう話題というものがいくつかあります。そのひとつがお金の話題です。

 リョウさんは、親友のミズホさんにもこうした一連のお金の話ができずにいました。お金の話をしたら今度こそ愛想を尽かされてしまいそうですし、下手をすれば借金を申し出られるのではないかと警戒されてしまうかもしれません。ましてや夫には、もっと話すことができませんでした。夫は家計をリョウさんにまかせきりで、関心も疑問も抱いていないようでした。

 もっといえば、夫もまたADHDの傾向が強い男性でした。そのため、「こんなキラキラした生活でお金が多少かかろうと、今さえよければいいじゃないか」といった刹那的な考えを持っていたようです。夫婦ふたりともがこのようなかんじなので、誰も止める人がいなかったのです。

 リョウさんはなるべくお金のことを忘れて、明るく生きて行きたいと思っていました。とにかく少しだけ使い過ぎに気をつければ、独身時代のように、なんとかなると信じていたかったのです。

 夫はそんな事情を知らずに、週末の温泉旅行を提案しました。リョウさんは、お金のことが頭をよぎりましたが、「たまにはいいじゃないか。旅行くらい誰でも行ってる」と考え直して、その提案に乗りました。

 無事に楽しい旅行を迎え、チェックアウトのときに恐ろしいことが起こりました。リョウさんが会計をすませようとしたところ、ホテル代のカード決済ができなかったのです。不足額はこの前、振り込んだはずなのに……。リョウさんは、とっさに夫にウソをつきました。

 リョウ 「このカード、磁気がおかしくなったのかな。なんか使えないみたいで」

 夫がクレジットカードで支払ってくれましたが、リョウさんは、いてもたってもいられない気分でした。

 いっそこの時真相がバレていたら、長い目で見れば楽になれたかもしれません。夫婦で一緒に経済感覚を戻していくきっかけになっていたかもしれません。

 しかし、ここでリョウさんはまたひとりで抱えこんでしまったのです。

 

 さてどうする。リョウさん。再びピンチ!

 このお話は次回も続きます。

<お知らせ> ネットでさまざまなお悩みを相談できます

 このコラムの筆者の中島が、北九州市にある精神科クリニック「かなめクリニック」にて、今年3月からオンライン診療を担当しています。診断の有無にかかわらず、インターネットを用いて認知行動療法などのカウンセリングを行います。ご相談内容は、ADHDに限らず、気分が落ち込んで引きずってしまう、不安でたまらない、食べ過ぎや飲み過ぎ、薬に依存してしまう、性犯罪に関するものでも幅広くお引き受けします。ご家族からの相談も受け付けます。みなさまのご相談をお待ちしております。

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<アピタル:上手に悩むとラクになる・生きるのがつらい女性のADHD>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/nayamu/(アピタル・中島美鈴)

アピタル・中島美鈴

アピタル・中島美鈴(なかしま・みすず) 臨床心理士

1978年生まれ、福岡在住の臨床心理士。専門は認知行動療法。肥前精神医療センター、東京大学大学院総合文化研究科、福岡大学人文学部、福岡県職員相談室などを経て、現在は九州大学大学院人間環境学府にて成人ADHDの集団認知行動療法の研究に携わる。他に、福岡保護観察所、福岡少年院などで薬物依存や性犯罪者の集団認知行動療法のスーパーヴァイザーを務める。