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 怒りは、自分の価値観では許容できない状況に遭遇したときに生じる感情です。前回まで、施設の理念を共有すること、同僚との考え方の違いから自分の価値観を見つめてみること、利用者の価値観を察すること、そして自分と違う価値観を認めることを通して、怒りの感情との付き合い方について考えてきました。

 とはいえ、自分とは考え方が違うとわかっていても、寛容になれないこともあるものです。アンガーマネジメントの研修などで、受講者から「怒りっぽい同僚を何とかしたい」という質問や相談を受けることがあります。

 例えば、以下のような内容です。

「介護サービスの利用者に対して怒りっぽく、命令口調や高圧的な態度がみられる」

 乱暴なケアや不適切な対応をする職員がいれば、施設としての評価が下がるばかりでなく、虐待なども心配になります。

 

「組織に対しても、職員に対しても、利用者に対しても、不満や愚痴、悪口ばかり」

 一緒に働く同僚が怒りっぽく、不満や悪口ばかりでは、聞かされる側の気がめいってしまいます。

 

「自分のことは棚に上げて、若手の職員に対してダメ出しばかりする」

 これが上司から部下への態度であればパワーハラスメント、同僚であればいじめといった問題に発展しかねません。

 

 こうした事例は、自分に向けられた態度ばかりでなく、利用者へ対応する職員の姿を見て、あるいは職員同士のやりとりを傍らで聞いて、問題意識をもつこともあるようです。また、「一部の職員の態度が目に余る」と管理職から相談されることもあれば、「若手の職員はベテランの職員に注意できない」「上司から指導してほしいのに見て見ぬふりをする」と若手から声が上がることもあります。

 いずれにしても、職場の雰囲気も悪くなるし、一緒に働くことは苦痛でしょう。「困ったあの人を何とかしたい」と考えるのも無理はありません。

 

 しかし、こうした質問や相談に対して、速攻型で効果を得られるような方法は残念ながらお伝えすることができません。私たちは自分の価値観と相いれないと、相手を変えようとしがちです。でも、自分に照らして考えてみると、そう簡単に自分のこれまでの思考や行動のパターンを変えることはできないのではないでしょうか。人に変わってもらうというのは容易なことではないのです。

 こうした状況を聞いていくと多くの場合、怒りっぽい本人は、自分が不適切な対応をしているという自覚がないようです。ましてや自分が怒りっぽいとも気づいていないという場合もあり、それでは自分が変わろうとも思わないでしょう。こちらは問題だと思うような対応でも、本人は自分のやり方が間違っていると思っていないので、疑問を持たずにそれを繰り返しているのです。

 

 少し見方を変えると、人が変わることができるのは、誰かに説得されるよりも自ら変わりたいと思えたときが好機でしょう。怒りっぽい人を受け入れなくても良いと思うのですが、相手を変えようと躍起になり過ぎないほうが良いのではないでしょうか。

 人を変えようとすることに気を取られるよりは自分の介護を磨くことに集中するほうが得策です。

 乱暴なケアをする職員よりも、人権を尊重し、丁寧に接している職員に利用者が信頼を寄せるようになるのは必然です。同僚の粗探しをするよりも自分の介護を磨くことに集中しましょう。また、愚痴と不満ばかりの職場に不快感があるのなら、自らイキイキと働く姿を見せ、自分のことは棚に上げてダメ出しする職員が嫌なら、自分は言い訳をせず仕事に責任を持つのです。

 イライラも人を不快にするという影響力がありますが、怒りっぽい人もイキイキと働くあなたの姿に影響されて、不満や愚痴、ダメ出しよりもイキイキと働けるようになりたいと思ってもらえたら、それがその人の「タイミング」になるのではと思います。

 

 それでも、職員を管理指導する立場にあり、「困った人」への具体的な対応を迫られる状況においては、その人の行動に焦点を絞って指導することがポイントです。人の性格や人格に言及しても、人を変えることはできません。介護ケアをする上でやっていいこと、やってはいけないこと、など行動レベルの具体的な指示を伝えていきましょう。

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 このコラムでは、医療や介護の場面を取り上げながら、怒りやイライラといった感情との付き合い方を紹介しています。アンガーマネジメントの観点からコミュニケーションや伝え方などを考えてみたいと思います。

 

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◆編集部から

<田辺さんの新しい本が出版されました>

 タイトルは『ナースのためのアンガーマネジメント 怒りに支配されない自分をつくる7つの視点』(メヂカルフレンド社)です。(詳しくは https://www.medical-friend.co.jp/biblioDetail.php?b_id=1100別ウインドウで開きます

 

<アピタル:医療・介護のためのアンガーマネジメント・コラム>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/anger/(アピタル・田辺有理子)

アピタル・田辺有理子

アピタル・田辺有理子(たなべ・ゆりこ) 精神看護専門看護師・保健師・精神保健福祉士

横浜市立大学医学部看護学科講師。大学病院勤務を経て2006年から看護基礎教育に携わる。アンガーマネジメントファシリテーターTMとして、医療・介護・福祉のイライラに対処するためのヒントを紹介する。著書に『イライラとうまく付き合う介護職になる!アンガーマネジメントのすすめ』(中央法規出版)がある。