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 薬の効果や安全性を調べるための方法は複数あり、それぞれ一長一短あります。前回はMMRワクチンと自閉症の関係を調べるために、ワクチンを接種した群としなかった群を追跡調査して自閉症の発症率を比較するコホート研究の話をしました。自発的にワクチンを接種した群としなかった群では、ワクチン接種以外の要因に差がある可能性を否定できないところがコホート研究の短所です。

 新薬の効果を評価するには、一般的には「ランダム化比較試験」を行います。患者さんを新薬を投与する群としない群にランダムに分けることで、より厳密に、薬の投与以外の要因に差がつかないようにします。最近承認された身近な病気に対する新薬として、インフルエンザに対するゾフルーザ(バロキサビル)があります。

 インフルエンザ治療薬として、これまでは、タミフル、リレンザ、イナビル、ラピアクタが使えました。うち、タミフルは内服薬、リレンザとイナビルは吸入薬、ラピアクタは点滴薬です。ゾフルーザも内服薬ですが、タミフルが1日2回5日間の投与が必要なのに対し、ゾフルーザは1回の内服で済むのが利点です。

 ゾフルーザの効果が確認されたランダム化比較試験の概要をご紹介しましょう。合併症のないインフルエンザ様症状の患者さんをランダムにゾフルーザ群、タミフル群、プラセボ群に分けました。この研究ではランダム化だけでなく二重盲検法といって、どの薬を飲んでいるのか患者さんも診療にあたった医師もわからないようにしています。どの薬を飲んでいるかわかると「新薬を飲んでいるから効果があるはずだ」といった思い込みが効果判定に影響するからです。

 ゾフルーザ群に振り分けられた患者さんは、自分がゾフルーザ群であることを知りません。気づかれてもいけません。なのでタミフルに似せたプラセボ(偽薬)も飲んでいただきます。1日目にゾフルーザの実薬を体重に応じて2錠もしくは4錠を飲んで、さらに、1日目から5日目までタミフルプラセボカプセルを1日2回飲むのです。

 タミフル群の患者さんは、1日目にゾフルーザに似せたプラセボ錠を体重に応じて2錠もしくは4錠を飲んで、さらに、タミフルの実薬を1日2回5日間飲みます。プラセボ群の患者さんは、1日目にゾフルーザに似せたプラセボ錠を体重に応じて2錠もしくは4錠を飲んで、さらに、タミフルプラセボカプセルを1日2回5日間飲みます。これだけ飲んで全部プラセボです。

 主な結果はインフルエンザ症状が緩和するまでの時間(中央値)で評価しました。ゾフルーザ群で53.7時間、プラセボで80.2時間で、有意にゾフルーザ群で短いという結果でした。一方、ゾフルーザ群とタミフル群ではほとんど差はありませんでした。タミフルがインフルエンザ症状を早く緩和することは以前より知られていましたが、ゾフルーザもタミフルと同じくらい効果があることが示されました。

 この研究は12歳から64歳までの、急性のインフルエンザ様症状以外は問題のない、もともと健康な人が対象です。12歳未満あるいは65歳以上のインフルエンザ患者さんや、入院を要する重症例や肺炎などの合併症を起こした患者さんに対する効果や安全性はこの研究からはわかりません。今後の研究に期待します。

 実際にインフルエンザ患者さんにゾフルーザを使うかどうかは、個別の事情を考えて決めます。新薬には未知の副作用があるかもしれませんし、効果に差がないなら使用経験が豊富で薬価が安いタミフルを選びます。この研究の対象になったような比較的若くて元気な患者さんは、タミフルやゾフルーザを使わなくても、インフルエンザは自然に治るので、いっそのことタミフルも処方しないという選択肢もありです。

 一方、ゾフルーザは1回の内服で済むのが大きな利点で、認知症などでタミフルを処方しても1日2回5日間きっちり飲めないような患者さんに使いたいところですが、そういう患者さんはたいてい65歳以上であるのが悩みどころです。ゾフルーザは耐性が生じやすいというデータもあり、乱用すべきではありません。

 臨床試験にご協力してくださった患者さんに感謝いたします。

 ※参考:Hayden FG et al., Baloxavir Marboxil for Uncomplicated Influenza in Adults and Adolescents., N Engl J Med. 2018 Sep 6;379(10):913-923.

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アピタル・酒井健司

アピタル・酒井健司(さかい・けんじ) 内科医

1971年、福岡県生まれ。1996年九州大学医学部卒。九州大学第一内科入局。福岡市内の一般病院に内科医として勤務。趣味は読書と釣り。医療は奥が深いです。教科書や医学雑誌には、ちょっとした患者さんの疑問や不満などは書いていません。どうか教えてください。みなさんと一緒に考えるのが、このコラムの狙いです。