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 前回は、インフルエンザに対する新薬「ゾフルーザ」(バロキサビル)の効果についてお話しました。インフルエンザの症状がある期間を1日ほど短縮する効果があり、これはタミフルとほぼ同じです。では、副作用はどうでしょうか。前回紹介した論文には副作用の情報も載っています。一部報道ではタミフルと比べて副作用が少ないとされていますが、論文を読んでみたところ、報道は間違っているとは言えないものの注意が必要そうです。

 試験に参加したのは、ゾフルーザ群610人、プラセボ群309人、タミフル群513人です。ランダム化比較試験なのに各群の人数がバラバラなのは、12歳から19歳までの参加者はタミフル群に割り付けられなかったからで、実験としては変則的です。

 臨床試験では、参加者に生じた好ましくない出来事が、因果関係を問わずすべて「有害事象」と報告されます。個々の医師が「これは因果関係はないだろう」と勝手に判断して報告しないと、想定外の副作用を見落としかねないからです。

 その有害事象(因果関係を問わない)の報告数は、ゾフルーザ群126人(20.7%)、プラセボ群76人(24.6%)、タミフル群127人(24.8%)です。ゾフルーザ群は、プラセボ群と比べて有害事象は多くありません(それどころか統計学的な有意差はないものの傾向としては少ないです)。ただ、すべての有害事象で比較すると、本当の副作用が多くの因果関係のないものに紛れて目立たなくなります。内訳を比較する必要があります。

 すべての有害事象のうち、重症度の高いグレード3または4に限ると、ゾフルーザ群6人(1.0%)、プラセボ群4人(1.3%)、タミフル群1人(0.2%)です。有意差はありません。

 有害事象のうち、臨床試験で使った薬に関連があると考えられたものが、ゾフルーザ群27人(4.4%)、プラセボ群12人(3.9%)、タミフル群43人(8.4%)です。これはゾフルーザ群とタミフル群の間に有意差(P=0.009)があり、「ゾフルーザはタミフルと比べて有意に副作用が少ない」と報道された根拠になります。

 臨床試験と関連があると考えられた有害事象のうち、グレード3または4のものは、ゾフルーザ群2人(0.3%)、プラセボ群1人(0.3%)、タミフル群0人(0%)です。

 いろいろ数字を並べましたが、臨床試験と関連があると考えられた有害事象がタミフル群よりゾフルーザ群で少ないというだけで「ゾフルーザはタミフルと比べて有意に副作用が少ない」と断言していいか、私は保留します。有害事象が臨床試験と関連があるかどうかの判断にはある程度の主観が入ります。そんなに簡単に関連の有無を判断できるのなら苦労はしません。

 統計学的な有意差のない偶然の偏りでも説明はできますが、グレード3または4のものに限ると、タミフル群よりもゾフルーザ群で有害事象が多い傾向にあることも気になります。そもそもこの試験ではゾフルーザは610人にしか投与されていませんので、たとえば1000人に1人生じるようなまれで重篤な副作用についてはわかりません。市販後調査といって、日常診療で使用されるようになった後も情報は収集されます。臨床試験ではわからなかったゾフルーザの副作用が今後明らかになるかもしれません。

 一方で、タミフルは長年の使用実績があり、未知の重篤な副作用がある可能性は小さいです。ゾフルーザは新薬だからよいものに違いないという誤解も一部にありますが、現時点では未知の副作用のリスクがあるかもしれないことを念頭におく必要があります。

 ※参考:Hayden FG et al., Baloxavir Marboxil for Uncomplicated Influenza in Adults and Adolescents., N Engl J Med. 2018 Sep 6;379(10):913-923.

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(アピタル・酒井健司)

アピタル・酒井健司

アピタル・酒井健司(さかい・けんじ) 内科医

1971年、福岡県生まれ。1996年九州大学医学部卒。九州大学第一内科入局。福岡市内の一般病院に内科医として勤務。趣味は読書と釣り。医療は奥が深いです。教科書や医学雑誌には、ちょっとした患者さんの疑問や不満などは書いていません。どうか教えてください。みなさんと一緒に考えるのが、このコラムの狙いです。

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