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 介護施設の職員から、あるいは家庭で介護している家族から、怒りっぽい入所者、利用者、あるいは親に手を焼いているという相談を受けることがあります。

 

<ケース①>

 入所者の1人が、ほかの入所者のところへ面会に来ている家族の子供の声がうるさい、と苦情を言ってきます。職員は面会の入所者や家族に、静かにしてもらうようにと依頼しながら、文句を言っている入所者に対して、うるさいのならば自分の部屋に戻ればいいのに、と疎ましく思いました。

<ケース②>

 デイサービスの利用者が、何かにつけて不満や文句、嫌みばかり言っています。職員の髪形や体形などを指摘されても、対応しようもないし、批判的な内容ばかりだと人の気を逆なでされてうんざりするのです。

<ケース③>

 ショートステイの利用者が怒りっぽく暴力的で、手を挙げそうになることがあります。介護する家族が疲弊していて、家族の休養のために利用しているのですが、職員に対しても乱暴なので、職員にもマイナス感情が募ってしまいます。

 

 前回は同僚を例に怒りっぽい相手を変えるのは難しいと書きました。これは介護の利用者でも同じです。本人が自分の怒りの感情の扱いを改善したいという動機付けがあれば、アンガーマネジメントを学び練習していくことが可能です。しかし、本人にその意思がなければ、他者から行動の変容を促す事は困難です。

 しかし、こうした相談の内容を聞いていくと、全く介入の糸口がないわけでもありません。怒っている高齢者をどのように捉えるのか、見立てが変わればこちらの対応を変えられることがあります。そしてこちらの対応が変われば、相手の反応が変わります。

 人と人との関わりは相互作用の上に成り立ちます。相手を変えようとするよりも自分の対応を変える方が現実的です。

 

 例えば、簡単に相手を変えることはできないとしても、相手の怒りの裏側に潜む感情を探ってみると、かかわり方を変えるヒントが見つかる場合があります。

 怒りっぽい高齢者が、はじめから怒りっぽかったとは限りません。家族からみれば「若い頃はそこまでひどくはなかった」と思うこともあるでしょう。

 加齢に伴い脳が萎縮したりして、堪えがきかなくなるということなども要因として考えられますが、高齢になって丸くなったという人もいますから、加齢だけのせいにするわけにもいきません。

 

 困った事例について、少しとらえ方を変えてみましょう。

 その人の状況によりますが、①で面会の子どもの声がうるさいと怒る背景には、自分は子どもや孫に会えないという寂しさが隠れているのかもしれません。

 ②は会話を楽しみたいのに話題がなくて嫌みばかりになってしまい、空回りしているのかもしれません。

 ③は定年を迎え役職を降りて部下がいなくなり、自己顕示欲が満たされないのかもしれません。自分の存在を認めて欲しいという気持ちに気づかないまま、威嚇や攻撃として表出されている可能性もあります。

 

 利用者が怒っていると、職員は対応に困って距離を置きたくなるところですが、怒りが寂しさの表現だと思えば、家族の代わりに話し相手になってみることもできます。

 不満や批判の話題ばかりなら、それに代わる楽しい話をこちらから投げかけてみてはどうでしょう。

 機嫌の良いときに本人が得意なことなど小さな頼みごとをしてみたりして、成功体験や頼られる体験を意図的に提供してみるという方法もあります。

 

 怒りを表出する高齢者の側も、そうした言動がベストだと思っていなくても改善の方法がわからないのかもしれません。一見、偏屈で性格が悪いと思えたり、理不尽だと思えたりしても、相手と戦い、説得しようとしても、相手を変えることは困難です。相手を変えようとするのではなく、こちらが柔軟に対応を変えていきましょう。怒るパターンを分析できたら先回りして怒っていないときの対応を工夫できれば、こちらも少し気持ちが軽くなるかもしれません。

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 このコラムでは、医療や介護の場面を取り上げながら、怒りやイライラといった感情との付き合い方を紹介しています。アンガーマネジメントの観点からコミュニケーションや伝え方などを考えてみたいと思います。

 

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◆編集部から

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 タイトルは『ナースのためのアンガーマネジメント 怒りに支配されない自分をつくる7つの視点』(メヂカルフレンド社)です。(詳しくは https://www.medical-friend.co.jp/biblioDetail.php?b_id=1100別ウインドウで開きます

 

<アピタル:医療・介護のためのアンガーマネジメント・コラム>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/anger/(アピタル・田辺有理子)

アピタル・田辺有理子

アピタル・田辺有理子(たなべ・ゆりこ) 精神看護専門看護師・保健師・精神保健福祉士

横浜市立大学医学部看護学科講師。大学病院勤務を経て2006年から看護基礎教育に携わる。アンガーマネジメントファシリテーターTMとして、医療・介護・福祉のイライラに対処するためのヒントを紹介する。著書に『イライラとうまく付き合う介護職になる!アンガーマネジメントのすすめ』(中央法規出版)がある。