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 年末年始、みなさんはどのように過ごしましたか? 温泉宿に泊まって1年間の疲れを癒やしたり、新年の決意を固めたりした人も多いのではないでしょうか。そんな温泉の表示で「美肌にいい」「高血圧に効く」といった表示を見たことはありませんか? 今回は、この「温泉の効果」について解説します。

○×クイズ:妊娠中は温泉に入ってはいけない
(※答えは、本文中にあります)

▼温泉のルールは温泉法で定められ、環境省の所管

▼温泉の成分が一定の基準を満たせば、「筋肉痛」「神経痛」など適応症を掲示できる

▼かつては温泉医学の診療・研究を行う国立大学もあった

 温泉の脱衣所などで、みなさん次のような掲示を見たことがあるのではないでしょうか。

 写真の下の方には、「適応症」として病気の名前や症状が堂々と記載されています。

 ちなみに、健康食品や健康器具などでは、このような記載は一切認められていません。

 なぜ温泉では、このような表現が認められているのでしょうか? 

温泉の効果は、どんなルールに基づいているのか?

 温泉に関するルールは「温泉法(※1)」という法律によって定められています。

 この法律の所管省庁は「環境省」です。

 つまり温泉は、厚生労働省の薬機法(※2)、健康増進法、消費者庁の景品表示法などの管轄外なのです。どうも、このあたりにからくりがありそうです。

 温泉の掲示について、更に詳しく法律(※3)をみてみると、定められた成分が一定量含まれていれば「適応症」が記載できる仕組みになっています。適応症とは、温泉の効能があるとされる病気・症状のことです。

 すべての温泉には、泉質にかかわらず浴用での「一般的適応症」があります。

 軽症高血圧や疲労回復などがあり、環境省のパンフレット「あんしん・あんぜんな温泉利用のいろは」(https://www.env.go.jp/nature/onsen/pdf/2-5_p_39.pdf別ウインドウで開きます)の図で紹介します。

 炭酸や硫酸など、特別な成分が含まれている温泉の場合は、他にも適応症があります。ちょっと変わったものを挙げてみます。

◎塩化物泉・炭酸水素塩泉・硫酸塩泉・二酸化炭素泉(浴用):きりきず

◎酸性泉・硫黄泉(浴用):アトピー性皮膚炎、尋常性乾癬(かんせん)、表皮化膿症

◎放射能泉(浴用):高尿酸血症(痛風)、強直性脊椎(せきつい)炎

 温泉を飲むこと(飲用)での適応症も、いくつか紹介します。

◎塩化物泉(飲用):萎縮性胃炎、便秘

◎炭酸水素塩泉(飲用):胃十二指腸潰瘍(かいよう)、逆流性食道炎、高尿酸血症(痛風)

◎硫酸塩泉(飲用):胆道系機能障害、高コレステロール血症、便秘

◎含鉄泉(飲用):鉄欠乏性貧血

◎含ヨウ素泉(飲用):高コレステロール血症

 ただ、注意点もあります。効果を得るためには通常2~3週間の療養期間が適当だということや、温泉療養は特定の病気を治すことより「症状や苦痛を軽減して健康の回復・増進を図ることが目的」ということです。

温泉に入ってはいけない人って?

 適応症の反対として「禁忌症」もあります。温泉に入ったことで不都合なこと(有害事象)が起きる危険性のある病気・病態のことです。温泉法(※2)に定められていますので紹介します。

【泉質別禁忌症(浴用)】

・酸性泉・硫黄泉(浴用):皮膚または粘膜の過敏な人、高齢者の皮膚乾燥症

【含有成分別禁忌症(飲用)】

・ナトリウムイオンが多い温泉:塩分制限の必要な病態(腎不全、心不全、肝硬変、虚血性心疾患、高血圧など)

・カリウムイオンが多い温泉:カリウム制限の必要な病態(腎不全、副腎皮質機能低下症)

・マグネシウムイオンが多い温泉:下痢、腎不全

・よう化物イオンが多い温泉:甲状腺機能亢進(こうしん)症

 そのほか、ひどく酔っ払った「酩酊(めいてい)状態」での入浴は避けるといった注意事項もあります。

 なお、2014年に温泉法が改正された際、それまで禁忌症に挙げられていた「妊娠中」が削除されました。妊婦が温泉に入っても医学的に問題ないとされており、専門家からも見直しを求める声が上がっていたことから、一般からの意見公募を経て改正に至りました。

 ですから「妊娠中は温泉に入ってはいけない?」の○×クイズの答えは「×」になります。

クイズの答え:妊娠中であっても、温泉に入って構わない

 ただし、体調がすぐれないときは入浴を控える、のぼせるまで長時間入らない、汗をかいたら適度な水分補給を心がける……など、妊娠の有無にかかわらず気をつけるべき点があることを踏まえ、常識の範囲で楽しむことは問題ないと理解してください。

がん患者は温泉に入ってはいけないのか?

 冒頭に紹介した温泉の掲示を再確認すると、禁忌症に「悪性腫瘍」と書かれています。

 その一方で、インターネットで「がん」「温泉」と検索すると「がんに効く温泉!」といった情報が大量にヒットします。

 温泉に入ると本当にがんが治るのかどうかの真偽はさておき、リラックス目的だったり、安らぎや癒やしを求めたりして温泉に入ることさえも、がん患者さんは避けた方がよいのでしょうか?

 悪性腫瘍が温泉の禁忌症になっている理由について、過去の歴史も踏まえ解説された文献(※4)から、該当箇所を引用して紹介します。

 「交通機関・医療の発達していない過去においては,温泉地に出かけること自体が心身に過度の負担をかけ,それだけで死に至ることがあったこと,温泉地では満足な医療を受けることができないので病状が悪化したこと,などが悪性腫瘍を温泉療法の禁忌としてきた根拠ではないかと考える」(リンク先より転載)

 交通機関も医療も発達した現代においては、ことさら「悪性腫瘍=温泉の禁忌症」と考えなくてもいいのかもしれません。

温泉の効果に関するメカニズム

 日本には、温泉の効果や安全性について研究している学術団体があります。

・日本温泉気候物理医学会(http://www.onki.jp/別ウインドウで開きます

・日本温泉科学会(http://www.j-hss.org/index.html別ウインドウで開きます

 さらに、かつては東京大学、北海道大学(登別)、東北大学(鳴子)、九州大学(別府)、群馬大学(草津)、岡山大学(三朝)、鹿児島大学(霧島)などで、温泉医学の診療・研究・教育がおこなわれていた時代もありました。ただ、残念ながら、現在では、温泉医学を中心課題として研究している国立の施設はなくなってしまっているようです。

 では、温泉の効果に関しては、どこまでわかっているのでしょうか。環境省が公開している資料(※3)に温泉療養に関して次のような記載があります。

・温泉療養の効用は、温泉の含有成分などの化学的因子、温熱その他の物理的因子、温泉地の地勢及び気候、利用者の生活リズムの変化その他諸般によって起こる総合作用による心理反応などを含む生体反応であること。

・適応症でも、その病期または療養を行う人の状態によっては悪化する場合があるので、温泉療養は専門的知識を有する医師による薬物、運動と休養、睡眠、食事などを含む指示、指導のもとに行うことが望ましいこと。

・従来より、適応症については、その効用は総合作用による心理反応などを含む生体反応によるもので、温泉の成分のみによって各温泉の効用を確定することは困難であること等から、その掲示の内容については引き続き(温泉のある都道府県の)知事の判断に委ねることとしていること。

 つまり、温泉の効果は、複合的要因によって得られていると理解した方がよさそうです。

写真・図版 

 現時点では、薬のように特定の成分が体の特定の部位に反応するといった明確な作用メカニズムは明らかになっていません。病気の治療を主な目的としていない点も知っておく必要があります。

 ですが、インターネットなどで検索すると、温泉療養の目的を逸脱して「病気が治る!」とうたい高額な入浴料で暴利をむさぼるようなケースや、温泉・岩盤浴・酵素風呂などで「医薬品の毒を排出する必要がある」などと西洋医学を否定しているケースが散見されます。いずれも科学的根拠のない誤った情報です。

 せっかく温泉地に赴くなら、がん患者さんであろうと健康な人であろうと「温泉に入ると気持ちがいい」と純粋に楽しむ気持ちも大切にしてもらえたらと思います。

【参考資料】

1)温泉法(昭和二十三年七月十日法律第百二十五号):http://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=323AC0000000125&openerCode=1別ウインドウで開きます

2)薬機法:医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律

3)「温泉法第18条第1項の規定に基づく禁忌症及び入浴又は飲用上の注意の掲示等の基準」及び「鉱泉分析法指針(平成26年改訂)」について(環自総発第1407012 号:平成26年7月1日)

環自総発第1407012 号:https://www.env.go.jp/nature/onsen/docs/kyokucho.pdf別ウインドウで開きます

4)温泉禁忌症に悪性腫瘍が含まれる理由[週刊日本医事新報 No.4728(2014年12月6日発行)]https://www.jmedj.co.jp/journal/paper/detail.php?id=3628別ウインドウで開きます

<アピタル:これって効きますか?・その他>http://www.asahi.com/apital/healthguide/kiku/(アピタル・大野智)

アピタル・大野智

アピタル・大野智(おおの・さとし) 島根大学・教授

島根大学医学部附属病院臨床研究センター・教授。1971年浜松市生まれ。98年島根医科大学(現・島根大学医学部)卒。同大学第二外科(消化器外科)入局。補完代替医療や健康食品に詳しく、厚生労働省「『統合医療』情報発信サイト」の作成に取り組むほか、内閣府消費者委員会専門委員(特定保健用食品の審査)も務める。