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 働く世代が、がんになって、会社などへの対応はどうしているのでしょうか? がんの入院日数は短くなる傾向にありますが、それでもある程度長い期間、職場などに行くことはできなくなります。入院患者は、どのように対処しているのか気になっていましたが、現状をうかがわせる興味深い調査結果が最近まとまりました。

入院中の職場との連絡体制

 私が初めて手術のために入院したのは2004年の夏、手術を含めて約3週間ほどでした。がんの入院期間は短縮化傾向にあり、厚生労働省による2014年の患者調査によると、平均入院日数は19.9日。15年前は30日以上だったのと比べると、大幅に短くなっています。

 私がいた会社では、入院中の職場との連絡体制に関する規定は無かったため、連絡がとれない期間、万が一の連絡手段や自分の意向について、あらかじめ職場と話し合いをしていました。そして、手術前と手術後、退院予定日が決まった時、退院日に、私からメールで、体調のこと、今後の治療計画に関する「連絡」を行いました。

 私が入院していた病院では、病室での携帯電話の利用は禁止されていたため、点滴台を動かしながら、談話室や空いている待合スペースで作業をしていました。

 では、実際に、入院患者さんはどんな対応をしているのでしょうか?興味深い調査があります。結果をみてみましょう。

入院中の患者さんの行動調査

 2018年3月に、厚生労働省からの委託事業で、入院中の患者さんの実態調査が発表されました。

 (平成29年度治療と職業生活の両立に関する実態・ニーズ調査事業報告書〈平成30年3月 ㈱日本能率協会総合研究所〉)

 調査対象は、「企業勤務時に傷病で受診経験がある20~64歳の方」で、回答者の男女比は、男性6割半ば、女性は3割半ば、回答者の年代は40代が3割超、50代が3割半ば。職業は、正規社員が約5割近く、非正規社員が2割半ばとなっています。回答者の約2割近くが「がん」、ほかに、糖尿病・高血圧・高脂血症・腎疾患が約2割、難病が1割半ばなどとなっています。

 「入院中の職場に関連する対応」に回答した1030人のうち、何らかの「職場に関連する対応」を行った人は81.9%(844人)。このうち、「仕事に関する連絡・調整、作業」を行った人は76.9%、「病状の報告や復帰・復職のための準備・相談」を行った人は67.8%、「仕事以外の職場に関する情報収集やコミュニケーション」は29.5%、「産業医・産業保健スタッフとの相談や連絡」は10.9%。「職場に関連する対応」のいずれもしなかった人は16.5%になります。

 また、対応した場所は、「談話室などの入院病棟の共有スペース」が46.8%、「病室(相部屋)」が38.6%、「病室(個室)」が29.9%、活用したツールは、「スマートフォン、携帯電話」が91.1%で最も高く、「ノートパソコン」は16.0%でした。

 約8割の人が「職場に関連する対応」を行っていますが、会社へ「報告する」ことと、「作業する」こととでは、かなりの違いがあるのではないでしょうか。

 一般的に「手術を受ける」ことは、そうそう頻繁に起こることではありません。同僚など周囲も心配してくれるでしょう。チームの一員として「無事に終わりました!」、「〇日に退院します!」程度の報告をするのは当たり前のことだと思います。

 しかし、「作業を行った人」が8割近くにも上ったことはちょっと驚きです。ノートパソコンを活用した人が16%ですから、「作業内容」にも限界があるとは思いますが、「作業する」ことが、会社からの無言の圧力や焦燥感、罪悪感を背景にしたものなら、社内のシステムを少し見直す必要があるのではないでしょうか。病気やケガはいつ、だれに起こるかわかりません。入院中の連絡・業務体制の整備は、企業のリスク管理の一つとして行っておくべきでしょう。

では、どうすればよいのか?

 今でも思い出すのは、入院中、隣のベッドにいた患者さんのことです。大手電機メーカーに勤務されていた方でしたが、ノートパソコンを持ち込んで作業をしていました。カーテン越しに聞こえてくる「パチパチパチパチ」と響くキーボードの打音は、ほかの入院患者の苦情の原因となり、周囲とのコミュニケーションも成立しないまま退院されました。

 私も、「何も入院中まで仕事をしなくても」と思いましたし、個室が空いていない、差額ベッドの費用が高いなど、様々な事情はあったのでしょうが、明らかにマナー違反でした。でも、今から振り返ると、「そうしなければならない環境を作り出した会社にも問題があるのではないか」と思います。

 就業規則には書いていない「ビジネスマナー」については、常日頃からの職場の風土などで左右されることが多く、他にも様々な「グレーゾーン」があるでしょう。正解のない部分だからこそ、最低限のルールを備えておくことは、企業、患者の双方にとって良いことです。

 最近ではいくつかの企業で、万が一の連絡体制や制度利用などをまとめた「治療と仕事の両立支援マニュアル(手引き)」なども整備されるようになってきました。マニュアルづくりを通じて、自社の両立支援ポリシーや課題を見直すきっかけにもなりますし、大企業では社員に周知するツールにもできます。

 がんの入院期間は短縮化が進んでいますから、せめて入院中ぐらいは、「仕事をしなくてもよい」システムを社内に用意しておくことが大切です。長い職業人生を考えれば、たまには足を止めることもよい機会です。足を止めることに罪悪感を感じることのないよう一定のルールを作ることも必要でしょう。

参考:平成29年度治療と職業生活の両立に関する実態・ニーズ調査事業報告書(平成30年3月 ㈱日本能率協会総合研究所)

https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/000341740.pdf別ウインドウで開きます

<アピタル:がん、そして働く>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/cancer/

(アピタル・桜井なおみ)

アピタル・桜井なおみ

アピタル・桜井なおみ(さくらい・なおみ) 一般社団法人CSRプロジェクト代表理事

東京生まれ。大学で都市計画を学んだ後、卒業後はコンサルティング会社にて、まちづくりや環境学習などに従事。2004年、30代で乳がん罹患後は、働き盛りで罹患した自らのがん経験や社会経験を活かし、小児がん経験者を含めた患者・家族の支援活動を開始、現在に至る。社会福祉士、技術士(建設部門)、産業カウンセラー。